書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

ピクウィック座談会(後編)

後編のテーマとなるのは残る二つのセクション、

「往年の名選手たち」と「日本文学代表選抜会」。

こちらは「ワールド文学カップ」とは異なり、

文庫本に限定してそれぞれ156冊を選び出したセクションです。

その選書にまつわる秘話の数々を、

ピクウィック・クラブの面々が語ります。

蜷川:あと、我々の使命としては、「往年の名選手たち」と「日本文学代表選抜会」について語らないと。「往年」の方はどうですか?

梅崎:「往年」は良い選手が本当にいっぱいいると思う。

蜷川:こっちの方で回収しないと。

梅崎:まず『ドン・キホーテ』がちゃんと入って良かった。

蜷川:ドン・キホーテ』が入ったのは嬉しいよね、本当に。『ドン・キホーテ』の入っていないフェアなんて。あ、あと『カラマーゾフの兄弟』も全巻入ったから。

梅崎:ね、良かった。

黒澤:これは意識的に年代をばらけさせたんですか?

蜷川:まさか。

梅崎:偶然? 結構バラバラになってるけど。

黒澤:一年につき一作品くらいの間隔できてるから。

蜷川:それは結果的にそうなっただけです。

梅崎:偶然か。

蜷川:確かに、これで何年の代表選手なんてやっても面白かったかも。最後がカズオ・イシグロっていうのも面白い。『オイディプス王』に始まりカズオ・イシグロに終わる。

梅崎:あれ、マキューアンってワールド文学カップの方のどこかの国に入ってなかったっけ?

蜷川:マキューアンは「芸術と頽廃の国オランダ」に入ってて、「ロマンスの宝庫イングランドにも入ってます。「往年」にも入ってるから、三つの枠に入ってる。

梅崎:三つ。すごいプレイヤーだなあ。

蜷川:彼はオールマイティですから。SFなんかが回収できたのも良かったですよ。いわゆるジャンル小説がなかなか入りづらい選書だったんで、SF・ミステリーが大活躍してるのが嬉しいです。詩集もそうだし。詩もなかなか難しいからね。

梅崎:詩は本当に難しい。入れるのが。

黒澤:1990年代の選書は往年の名選手っていうより、まだまだこれから新人だ、みたいな人もいますね。

蜷川:確かに。まあ、未だ評価の定まらない未来の古典たち、ということですね。

梅崎:お店に実際に来たとき、ここから選ぶのって大変じゃない? 自分がお客さんの立場になって考えると、「ワールド文学カップ」だと国単位で見ていけるけど、「往年」だと年代では見ないだろうから。圧倒される棚って感じがする。

黒澤:そうですね。何で見るんだろう?

蜷川:156冊が無造作に並んでるとね。

黒澤:年代順で並べるんですか?

蜷川:いや、『ドン・キホーテ』並べるくらいしか考えてないです。そのあたりも工夫が必要かもしれないですね。

梅崎:タイトル買いとかでもいいんじゃない。

蜷川:確かに。タイトル買いして欲しいですね。タイトルで買うとしたらどれ買います? 自分がお客さんだったら。

梅崎:なんだろうな。

蜷川:俺、『夜の果てへの旅』(笑)。

梅崎:あ、最高。すごい良いタイトル。

蜷川:『夜の果てへの旅』。本当に買っちゃいけない本を買いそう。

黒澤:タイトル買いか…。

蜷川:地球の長い午後』なんかも良いですよね。

梅崎:あ、良いタイトル。

蜷川:あと自分で推したものなのであれですけど『閉じた本』。

梅崎:あ、それも良いタイトル。

黒澤:(注1)もあったけど『塵よりよみがえり』も良いですよ。

梅崎:『燃えるスカートの少女』も良いタイトルだな、と思う。

蜷川:ああ、良いですね。選んでもらえたら嬉しいですね。

蜷川:じゃあ日本文学の話をしましょうか。「日本文学代表選抜会」。

梅崎:まず選んだ基準だよね。156人しか選べないという苦しみ。

蜷川:156人しか選べないという苦しみ(笑)。「日本文学代表選抜会」は梅崎さんが中心となって選書をしたセクションです。

梅崎:苦しかったです、156作品。

蜷川:どういう基準で選んだんですか?

梅崎:外せない人はいるよね、絶対に。

蜷川:例えば? まあいくらでもいますけど。

梅崎:漱石はそうだし、安部公房とか...まあ、明治とかね、昭和初期とか、その辺の時代は外せない人が沢山いるじゃないですか。

蜷川:そうですね。

梅崎:その中でもどの作品を選ぶかっていうのがね。

蜷川:うん、悩みどころ。

梅崎:漱石だったら『夢十夜』が入ってるけど、その辺も迷った。

蜷川:こだわりを感じますよ、本当に。檀一雄も。上下巻だけど入ったっていう唯一の。

梅崎:檀一雄は売りたいからね。どうしても。入れたかった。

蜷川:本当に良いラインナップですよね。泉鏡花から伊藤計劃まで入って。

梅崎:でも最近の人はまだ未知数だから。さっきの「現代日本」もそうだけど。しかしかなり純文学寄りだね、このラインナップは。

蜷川:そうですね。飛浩隆とか今回は入らなかった。

梅崎:私の趣味が反映されてしまったような気がして。

蜷川:いや、いいっすよ。統一感があって、素晴らしいですよ。まあ俺が無駄に推してる江國香織も入ってるし。

梅崎:あ、私この中で好きな項目があって。「少年少女」っていう項目が非常に好きで。

蜷川:はいはいはい。「日本文学」の選書では156作品をさらにジャンルに分けて…。

梅崎:ジャンルというか。

蜷川:ジャンルというか、テーマに分類して展開しています。。

梅崎:うん、まあ何だろ、初めて棚を見た人は、本当に迷うでしょ。これだけいっぱいあったら。だから少しでも指針になるような軽い分け方。この分けるというのがまた非常に大変だったわけだけど。

蜷川:うんうん。

梅崎:というか分けられないね。文学は分けられない。分類できない。

蜷川:文学は分類できない。

梅崎:大変だったけど自分自身で見て「少年少女」アツいな、っていうのと、あと「表現」もアツいなって思った。好みの問題だけど。

黒澤:なんかでも今「156冊しか」って仰ってましたけど、これ見てると、日本だけでもう一回やってみたい感じがしますよね。

梅崎:オール日本。

蜷川:オール日本。650冊全部日本で?

黒澤:そう。

梅崎:すごい。

黒澤:結構面白いのが出来そうな気がしてきます。

蜷川:もっと細かく分けて。膨らまし膨らまし。

黒澤:なんか最初目がぱっと「ワールド文学カップ」の方に行きますけど。ちょっと話が逸れちゃいますが。

梅崎:日本がなんとなく地味に見えるんだよなあ。

蜷川:いやいや、見えない見えない(笑)。普通にど派手。

黒澤:これみんな作品凄い絞ってるじゃないですか、それぞれの作家さんで。だからもっと幅広くやっても面白いかな、っていう気が、これ見てるとしますね。

蜷川:そうですね。ところで、これいいな、って思ったのあります? 俺、俵万智とかすごい読みたくなった。

梅崎:短歌とか俳句とか詩歌系が、あまり文庫になってないから、もっと入れたかったけど入れられなかった。

蜷川:俵万智は本当にポップも良くて。

梅崎:あれ俵万智じゃないからね。

蜷川:え? 『三十一文字のパレット』?

梅崎:書いたのは俵万智だけど、ポップに使ってる短歌は俵万智の短歌じゃないから。

蜷川:ほお! なんすかその隠しネタ(笑)

梅崎:読めばわかるから。

蜷川:そうなんだ、すげえ。そんな話があったんだ。

梅崎:結構有名だと思うけどね。

蜷川:田川さんはどうですか? 日本文学のサポート役として頑張って頂いたんで。

田川:そうですね。この中だと、森見登美彦がよく話題になるんで気になりますね。

蜷川:確かに、ほとんど唯一と言っていい。村上春樹森見登美彦くらいじゃないですか。最近話題になってる作家って。

田川:この森見登美彦がどう食い込んでくるかなって。

蜷川:面白いですね。でも逆にこれで森見登美彦が飛ぶように売れて他のが売れなかったらフェアとしては失敗ですからね。

田川:うーん。

梅崎:あ、売れそうだな、って思ったのどれ? 売りたいな、とか。私、高橋源一郎の『日本文学盛衰史』。売れればいいな、って思ってる。

蜷川:あー、売れそう、ポップ良かったし。俺、梅崎さんのポップ読んでてすげえ感動したのいっぱいあったんだよな。

梅崎:あと『プクプク』が、あ、間違えた、『クプクプ』がどこまで食い込むか、とか。

蜷川:『プクプク』(笑)

田川:いやあ、これも良いですよ。

梅崎:こうやって見ると「事件」が、推理小説がすっごい少ないね。

蜷川:本当ですね。じゃあちょっとテーマを紹介しましょうか。「食」、「性(セイ、サガ)」、「少年少女」、「事件」、そしてやたらある「幻想」。

梅崎:やたらある。やたらあるね「幻想」。

蜷川:「幻想」多すぎでしょ(笑)。

田川:「青春」「恋愛」「家族」。

梅崎:全部ちょっとずつかぶってるから、例えば「恋愛」と「性」とかテーマとして少しかぶるものもあるし。

蜷川:ただ「恋愛」という言葉を使うのと「性」という言葉を使うのは違うことですよね。

梅崎:最後まで迷ってしまったのは、詩人でした。伊東静雄とか、中原中也とか分けるのが特に難しかった。

蜷川:結構ばらけてましたよね、でも。

梅崎:宮沢賢治が、賢治が難しい。

蜷川:賢治は至るところに入ってましたよね。

梅崎:賢治は「賢治」っていうので作ろうかと思った、最初。

蜷川:中上も入れるんでしょ?(笑)

梅崎:「ケンジ」ってカタカナでね。あと「家族」小説って捉え方にもよるけど、少なく感じた。もっとあるかな、と思ってたけど。

蜷川:『流しのしたの骨』はこっちにあっても良かったかも。

梅崎:うん、そうだね。これの分け方は絶対なわけでは全然なくて、自分の頭の中をお見せしてしまった感じがして恥ずかしいところがあります。

田川:いや、いいですよ。

梅崎:ゼロからのスタートで見て、ちょっと分かれてると見やすいかな、と思ってつけただけなので。

蜷川:でもなかなかこういう風にはできないですからね。分類っていうとまた語弊があるけど。俺、山田詠美良かったと思いますよ。あの作品が入って、まさかのあのポップ。

梅崎:あのポップ、ちょっとやりすぎた。誤解を招きそうな...。

蜷川:やりすぎだよ(笑)。感動しました。

梅崎:黒澤さん、誰いきそうですかね?

黒澤:うーん。テーマではこの、さっき仰ってた「少年少女」から結構いけそうな気がしますね。

蜷川:結局、詩人は何人くらい入ったんでしたっけ? 十冊くらいは入りましたか?

梅崎:十冊くらいあるかも。俳句とか短歌入れたら。

黒澤:前回『あやめ 鰈 ひかがみ』とか結構売れましたからね。

蜷川:あれはやっぱブローティガンと並べてたからかな(注2)

梅崎:ああ、でも今回『あやめ』は飛び込みで最後に蘇ったんです。前回売れたので今回は逆に外してみようかと迷って。

黒澤:そうなんだ。

蜷川:いや、良いですね。文庫だけで縛るっていう、この、かなり限定された選書環境の中で156冊を選ぶ試み。

梅崎:世界文学がその奥に進むとあるわけじゃない、棚として。その入口だからね。

蜷川:ここから飛び立つんですよ。ここを通り抜けないと行けない。156冊本当に読まないと向こうに行けないってなったら、軽く二年くらいないと誰も辿りついてこないけど(笑)。全部読めなくても是非見に来て欲しいですね。

注1:作風の共通などをテーマにした前回フェア「対決! 共鳴し合う作家たち」における「ブラッドベリ vs ヴォネガット」を指す。テーマは「想像」。「もはやSFではない」というラディカルな文句が議論を呼び起こしました。

注2:「対決! 共鳴し合う作家たち」における「松浦寿輝 vs ブローティガン」を指す。テーマは「彼岸」。「季節だったら晩夏、映画ならエンドロール。どこか「際」を思わせる」。




今後はこのホームページを使って、

フェアに取り上げた作家や国の紹介や、

関連情報などを更新していきます。ご期待下さい。