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ピクウィック座談会(前編)

4月1日開始の第二回フェア、その選書内容公開に先駆けて、

次回フェアについてメンバーで語った座談会を敢行致しました。

今度のフェアは、「ワールド文学カップ」、「往年の名選手たち」、

「日本文学代表選抜会」と大きく三つのセクションに分かれており、

ここでは会場の半分を占める「ワールド文学カップ」を取り上げます。

「ワールド文学カップ」はそれぞれ国ごとにテーマを設け、

それに準じて選書を行ったセクションです。

40冊の「諸外国の文学」を含めて、計53ヵ国が参加しています。

以下はその選書内容に事前に触れて頂くために、

ピクウィック・クラブが好き放題に語った優勝国予想の一部始終です。

(当日、小木曽・榎本は欠席でした)



蜷川:さあ、今日は座談会です。僕が進行役を務めさせて頂きます。まずは本来の担当や好きな作家など、簡単な自己紹介をお願いします。木村君から聞こうか。

木村:まず、担当は看護。看護書担当。好きな作家が、皆さんご存じの通りオコナーでしょ、ラシュディでしょ、で、日本人で中井英夫あたりを入れて。

蜷川:おお、彩りを添えて。じゃあ黒澤さん。

黒澤:黒澤です。好きな作家って…『本の雑誌』の時(注1)に何を挙げたか忘れちゃった。

梅崎:私も。

黒澤:カルヴィーノヴォネガット…。大事な人を忘れてる気がする。

木村:サリンジャーじゃないですか?

黒澤:いやサリンジャーは好きっていうか…。

蜷川:カズオ・イシグロ

黒澤:あ、カズオ・イシグロ好きかもしれないです。カルヴィーノヴォネガットカズオ・イシグロ…。あ、ブラッドベリ

蜷川:多いな(笑)。

黒澤:そんなところです、はい。

蜷川:田川さん。

田川:はい、田川です。文庫売場で文庫担当してます。

蜷川:何の文庫ですか?

田川:東京創元社と徳間、ポプラ、ダ・ヴィンチ文庫、あと講談社現代新書です。で、好きな作家は、そうですね、まあ挙げても面白くないけど村上春樹

蜷川:「挙げても面白くないけど」(笑)。

田川:村上春樹中原中也アントニオ・タブッキです。

蜷川:はい。梅崎先生。

梅崎:はい、私の担当は社会学、それからジェンダー。好きな作家は日本だと庄野潤三武田百合子小島信夫とか。ほかにもいっぱいいますけど。あと桐野夏生。新刊はもうゲットしました。

木村:え、新刊出たんですか?

梅崎:はい、『ナニカアル』っていう林芙美子を題材にしたのが出ました。

木村:あとで買いに行きます。

梅崎:ピンク色の表紙です。

木村:マジか。全然知らなかったな。買わなきゃ。

梅崎:あと海外だとウリポですね。クノー。

蜷川:ウリポ(笑)。

梅崎:ウリポが好きです。あと、まあイーユン・リー。イーユン・リーも新刊出ますんで。

木村:クレストですか?

梅崎:いや、違う。河出。

木村:河出!

梅崎:うん。河出から『さすらう者たち』という二作目が出ます。あと歌人俳人たくさん。

蜷川:なげえ(笑)。

梅崎:以上です。

木村:俺も三人以上挙げた方がいいじゃん…。

蜷川:確かに(笑)。じゃあ僕は、洋書担当。つい先日洋書担当になって、好きな作家はクノー、ケストナーチェーホフバタイユ

黒澤:ケストナーは必ず入るんですね。

蜷川:ええ。

蜷川:優勝国予想ですよ、そんなことより。木村はどこが優勝すると思う?

木村:ええっと。俺が優勝国に挙げたのが、まず「開催国南アフリカ

蜷川:南アフリカ

木村:普通にいくとたぶん「ロマンスの宝庫イングランドあたりが売れると思うんだけど、ダークホース的な意味で南アフリカ

蜷川:ダークホース(笑)。いいね。

木村:あと、戦力が揃ってるのがイスラエル「葛藤せめぎ合うイスラエル

蜷川:戦力が揃ってる(笑)。

木村:ここは戦力が充実してる。で、戦力ダウンしたのがブックレットにも書いたとおりインドだから、文明の衝突するインド」には頑張ってほしいね。

蜷川:うん。南アフリカは良いよね。南アフリカは本当に、木村が一人で頑張ったからかなり面白くなった。黒澤さんの優勝予想は?

黒澤:私はフランスですね。

梅崎:どのフランス?

黒澤:エロですね。

木村:「エロスの大国フランス」か(笑)。

黒澤:マンディアルグとモリオンの『閉ざされた城の中で語る英吉利人』が…。

木村:マンディアルグじゃん(笑)。

蜷川:どっちもマンディアルグです(笑)。

梅崎:なんだかんだみんなエロスが好きだからね。

黒澤:彼らがすごく得点を稼ぐと思うんですよ。

蜷川:確かに。ストライカーですからね。

黒澤:意外にこの辺が、なんだかんだいつの間にか売れてるみたいな感じで、どんどん行くんじゃないかと。あと対抗として、ドイツも結構良いと思いますよ。

蜷川:どのドイツですか?

黒澤:子ども。

蜷川:「子ども心の国ドイツ」。やっぱり。

黒澤:ここは年齢層も幅広いですよね。で、やっぱストライカーというか、もうフェアでやると毎回必ず売れるものが揃ってるので。

蜷川:エンデにケストナー

黒澤:本当に、いかにも優勝予想なんですけれど。好き嫌い排して、もう「あ、ここはいくんじゃないか」と。

蜷川:じゃあ、一番売れて欲しいところはどこですか?

木村:ああ、「売れて欲しい」。それいいね。

黒澤:売れて欲しいところは、自分的には、どこだろう、カルヴィーノカルヴィーノ万歳イタリア」がすごく売れたよ、ってなったら面白いですよね。あとインドも面白いんですけど、まあカルヴィーノですかね。うん、そんなところです。

蜷川:木村は? 南アフリカイスラエルとインドはもう出てるよ。

木村:そうだね。それ以外で売れて欲しいのは、あれかな、うん、ナイジェリアだね。

田川:ナイジェリア(笑)

蜷川:お前、頭悪いんじゃないか(笑)

木村:ザ・ルーツ ナイジェリア」は、これね、ンゴズィ・アディーチェ。これ売れて欲しいんだよ。ナイジェリアとかアルジェリアとか、なんかこう、マイナー国とか結構売れて欲しいよね。

蜷川:うん、確かに。そうだね。「欧阿の狭間でアルジェリアとか、ね。頑張って欲しいよね。よし、じゃあ田川さんの優勝予想を聞きましょう。

田川:優勝予想。優勝予想は、うーん。なんか、気になる国で、中国。

木村:「酒と妖怪の国中国」

田川:全然未知数な感じが。今回のフェアでは漢詩とかではなく、現代文学を入れたから。

蜷川:うん、何冊か入りましたね。

田川:それが、どう食い込んでくるのかな、と。

蜷川:ダイ・シージエとイーユン・リーが。

梅崎:イーユン・リー頑張るよ。

蜷川:梅崎さん、イーユン・リー推すね(笑)。確かに中国は未知数だよね。飛ぶように売れるかもしれない。

田川:眠れる獅子。

梅崎:結構地味に見えるけどね。

蜷川:起こしてみたら猫だった、っていう風にならないように(笑)。

田川:他は南米。気になりますね。

木村:「驚異の2トップキューバは最強だよ。

蜷川:アルゼンチンの豊潤さにも、結構驚くものがある。

木村:アルゼンチンは二つあるじゃん。フーリガンだらけアルゼンチン」

蜷川:そうそうそう。「バベルの図書館アルゼンチン」を除いてもこれだけアルゼンチンが揃ってる。

黒澤:こうやってみるとアルゼンチンって本当になんでこんなにあったんだろうって、びっくりしますね。

木村:あと「窒息する土地アメリカ南部」の3トップ、プラス、司令塔のフォレスト・カーター。

黒澤:司令塔弱くないですか(笑)

木村:これね、よく見たらすごいよ、これ。

蜷川:田川さんは他にはない?

田川:うーん、イラン。

蜷川:「郷愁を誘うイラン」。確かに、この辺は世界が広がる感じの、木村が頑張ったところだよね。木村すげえよ。引くよ、普通に。執拗なまでにイランを追い求めた男(笑)。

木村:サーデグ・ヘダーヤトとかね。

蜷川:じゃあそろそろ梅崎さん。

梅崎:はい。優勝はまあ、わかんないけど「魔法の右足コロンビア」なのではないかと。

蜷川:コロンビア!

木村:へえ。

梅崎:なぜなら、彼がいるから。

蜷川:「彼がいるから」。いいですね、天才ですね(笑)。

梅崎:注目してるってほうが多いかな。イスラエルとか、木村君が開拓したところに足を踏み入れてみたんだけど、結構これ読むのきつかった。「世界!」って感じがした。かなり。

蜷川:広がりますよね。

梅崎:イギリスとかフランスはこう、結構身近な感じがあるけど、アフリカとか、そういうのはまだ自分の中で身近な感じが生まれてないから。面白かった。

蜷川:このかけ離れた感じってすごいよね。振り切ってる。

梅崎:でも本当に全然違うんだなというか、自分を受け入れてもらえない感すらちょっとあったので。

蜷川:「自爆」って言葉が日常用語になってるとかね。

梅崎:あとウクライナですね。「すべりまくりウクライナ。なぜなら、彼がいるから。

蜷川:「彼がいるから」(笑)。当然ブルガーコフでしょ?

梅崎:あとはゴーゴリ。「すべりまくり」、これ気になる。だってこれ褒めてる感じがしないよ。ここだけなんか変っていうか、「細く長くチリ」も変だけど。「すべりまくり」はちょっと質感が違うタイトルが付けられてる感じがしたので。

蜷川:確かに(笑)。

梅崎:ま、あと現代日本ですね。

蜷川:ああ、そうだね。梅崎さんにはそこを推してもらわないと。

木村:これは世界と戦えるラインナップなの? この「Road to 2014現代日本」は。

梅崎:どうなんだろうね。でもこの円城塔、『美術手帖』って雑誌あるでしょ? あそこの次号予告見たら「小説:円城塔」って書いてあって、なんで『美術手帖』に書くの? ってなんか不思議で。謎なんだよね、私の中で。この辺気になります。青木淳悟はなんかこう、誰だっけ、あの人。ああ、こんな時に名前をど忘れしたよ。ええと日本代表(注2)にも入ってるんだけど、あの人。『小説の自由』とか書いてる彼です。

蜷川:ああ、ええと、保坂和志

梅崎:保坂和志! 保坂和志感。

蜷川:日常を書いてるってこと?

梅崎:うん、なんかこう、そういう感じがした。不思議な感じ。うん、現代日本、気になりますね。

木村:蜷川君は?

蜷川:俺ね、自分でやったもので強く推したいのが「悪女の巣窟フランス」

木村:これ、いいよね。

蜷川:これ、すごいぞ。自分で言うのもなんだけど、このラインナップとこの統一感。スタンダールとかフロベールは分厚いから売れないかもしれないけど、ピエール・ルイスとかに手が伸びたら、俺の勝ちだよね。あとは、「反逆の国アメリカ」

木村:ああ。

蜷川:挙げたラインナップが木村と全部被ったっていうのが。

木村:そうだね。

梅崎:そんなに。揺るぎないんだね。

蜷川:揺るぎない統一感。これ以上はない。いや、ダイベック入ったのが嬉しいよね。あと木村も挙げてた南アフリカ。これには僕もかなり興奮してまして。

木村:興奮してますか(笑)。

蜷川:いや、ノーベル文学賞作家がいるからね。ま、それを言ったらポルトガルもそうだけど。

木村:いや、それを言ったらアメリカ南部、二人いるからね。あ、待って。南アフリカも二人だ。

蜷川:え、彼そうなの?

木村:彼女と彼がそうなの。

蜷川:彼女? 女の人なのこいつ?

木村:そうだよ。素敵な貴婦人って感じの人。

蜷川:素敵な貴婦人って感じの人? マジ?

木村:こういう小説書かなさそうな人。

蜷川:そうなんだ。てか、みすず書房から出てる小説なんてなかなか手に取らないよね。

梅崎:うん、評論のイメージが強いから。

木村:評論とかの、そういうイメージが強い人かもしれない。

蜷川:あとね、「言語の国ハンガリーが、かなり。アゴタ・クリストフがちょっと多すぎるのはあるんだけど、それ以外の三人がね、すごいぞ。英傑揃い。

梅崎:『エペペ』ってタイトルが良いね。

蜷川:エベベ、エペペ、エテテテテ(笑)。それと最後に、アイルランド。サミュエル・ベケットが入らなかったのが本当に心残りだけど、「短篇小説ランドアイルランドを推したのは大正解だったと思う。このラインナップはかなり良いよ。

梅崎:結構散らばったね。

蜷川:散らばりましたね。

梅崎:私、一人とかしか出場してない国が気になって。優勝とか関係ないんだけど。全然世界を知らないものとしては、なんとかドバゴ。

蜷川:トリニダード・トバゴ。アール・ラヴレイスは最強ですよ。あいつは。

梅崎:一人しかいない国、頑張って欲しい。

木村:セネガルコンゴ、モロッコ、エジプト、沢山ある。

梅崎:エジプトって! って感じはあるよね。

木村:エルサルバドル

蜷川:エルサルバドル(笑)。あとグアテマラね。忘れちゃいけない。

梅崎:当たり前なことのはずなのに、こう、そこで小説が書かれてるってことを忘れていた感じがある。

蜷川:うん、確かに。ベトナムとかも入ったし。

木村:ベトナムね。

蜷川:良かったよ。ニュージーランドとかも。

木村:ニュージーランドは良い小説だった。

蜷川:こんなにあるんだね。

梅崎:何人か挙げたのってやっぱり南アフリカ

蜷川:南アフリカ。良いよ、これ。クッツェーの評価っていうのは、もっと上げないといけないからね。

木村:上げないといけない(笑)

蜷川:いま必要なものはクッツェーだ。

黒澤:使命を帯びている(笑)。

木村:じゃあ私はこの辺で抜けるので。盛り上がって下さい。

(木村、私用に付き退席)

田川:日本は島国だから違うけど、ヨーロッパは国と国とが隣接しているのに、偶然こうなったのか必然的にこうなったのか、こんなにも国毎にヴァリエーションが出るのが面白いですよね。

黒澤:元々その国に対して持ってたイメージとは全然違う傾向になるときがありますよ。アイルランドって自分の中では結構ポップなんですけど、これだと暗い感じが(笑)。

蜷川:まあね、ジョイスとマクガハンが入ってる時点でおしまいですよ(笑)。

黒澤:「あれ?」っていう感じがあるんで。

蜷川:いや、ベケット入れたらもっとひどいことになってましたよ(笑)。

黒澤:一番行ってみたい国がアイルランドなんですけど、なんか行きたくなくなってきた(笑)。

梅崎:みんな読んでるときって「この作家はここの国の人だ」って意識してるの?

蜷川:全然してない。全くしてない。

梅崎:分類したときに「この人この国の人なんだ」っていうのがすごく沢山あった。

蜷川:そう。調べ直して愕然として(笑)。外さなきゃいけない作家が出たりして。

黒澤:フランスだけフランスっぽいなって気がしますね。国を意識することで今までにない感じが出ましたね。

蜷川:なかなかこういう風に並べられることってないですからね。やっぱイングランド、フランス、ドイツ、ロシア、アメリカ、以外の国に目を向けてみて欲しいですよね。

注1:ピクウィック・クラブは本の雑誌社発行の『本の雑誌』2009年9月号に「偏愛作家ベスト209 めくるめく文学談義」と題した座談会を寄稿している。

注2:後編にて語られる「日本文学代表選抜会」を指す。




後編へつづく…