書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

近代ナリコ(こだい・なりこ)

『名著再会 「絵のある」岩波文庫への招待』坂崎重盛(芸術新聞社)

→紀伊國屋書店で購入 本好きの友人にきくと、たいていみな、うんと小さな子どもころお気に入りだった思い出の絵本があって、自分から欲しいと申し出るまで、親から本を与えられた記憶のない私にはうらやましい話である。 しかし、そもそも私は絵本にあまり興…

『おとなの味』平松洋子(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 大人の味といえば、苦みや辛みやえぐみ。大人になってはじめて知るおいしさは、誰にでも思い当たるはず。ここにも、子どものころはむしろ遠ざけていた山菜を切実に欲する人がいる。 春先に野山の苦み、えぐみを味わう。すると、にわかに…

『歌う国民 唱歌、校歌、うたごえ』渡辺裕(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 小学校の入学式の日、教室で「みんなのうた」という新書本ほどのサイズのオレンジ色の本を配られた。それまでには手にしたことのない、小ぶりで文字も小さな本だったので、とても大人っぽいものに思えてうれしかったのをおぼえている。 …

『裁縫女子』ワタナベ・コウ(リトルモア)

→紀伊國屋書店で購入 細かい手順を大胆に省略し、初心者でも手早く簡単にできる「クイック・ソーイング」をあみだし、裁縫教室やテレビ番組で講師をつとめてきた著者。イラストレーターでもある彼女が、これまで教室で出会った生徒たちとのエピソードをつづ…

『二つの星 横井玉子と佐藤志津 女子美術大学建学への道』山崎光夫(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 私立女子美術学校(現・女子美術大学)の創立者・横井玉子は嘉永7年(1854年)、江戸築地鉄砲州にある肥後藩細川若狭守邸内で、肥後藩の支藩新田藩家老の原尹胤(まさたね)の次女として生まれた。維新に際して熊本へ帰還し、そこで横…

『大塚女子アパートメント物語 オールドミスの館にようこそ』川口明子(教育資料出版会)

→紀伊國屋書店で購入 同潤会によって建設された女性専用アパート、大塚女子アパートメントの軌跡をつづる本書。 その設立は1930年。地上五階、地下一階、中庭を抱いたコの字型の建物には148の居室があった。地下には食堂と共同浴場、一階には応接室とミシ…

『近代日本の「手芸」とジェンダー』山崎明子(世織書房)

→紀伊國屋書店で購入 手芸、このドメスティックかつ趣味的な制作行為は、この不景気の世の中でも(いや、不景気だからこそというべきか)、いっこうに廃れることのない女性の活動ジャンルだ。手芸教本は手をかえ品をかえて出されつづけているし、手芸用品の…

『ふしぎ盆栽ホンノンボ』宮田珠己(講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ハノイのホテルのテラスで、著者はそれふと目にしたのだった。タイルばりの洗い桶風のものに水がはられ、そこに設置された岩のところどころには植物が生えており、あちこちに陶器製のミニチュアの建物や人形が配置されている。 このとき…

『物語としてのアパート』近藤祐(彩流社)

→紀伊國屋書店で購入 「乃木坂倶楽部」は、萩原朔太郎が妻・稲子との離婚後、ふたりの娘を連れ郷里の前橋に戻るも、ふたたび単身上京した昭和四年の末、ほんのひと月半をすごしたアパートである。彼はのちにそのときのことを詩に書いたが、著者は詩のなかに…

『新装版 鴨居羊子とその時代 下着を変えた女』武田尚子(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 下着デザイナーであるとともに、下着会社の社長でもあった鴨居羊子は、絵を描き、エッセイを書き、動物を愛し、各国を旅してまわり、フラメンコに熱中し、と、さまざまな顔を持つ女性であった。そんな多面性が魅力であることはたしかだ…

『私語り樋口一葉』西川祐子(岩波現代文庫)

→紀伊國屋書店で購入 明治二十九年の夏、本郷丸山福山町の崖下の家で、病床にある一葉がおもいめぐらすさまざま。樋口家の来歴、いく度も住みかえた家、歌塾・萩の舎での日々、兄と父の死、母と妹との困窮生活、小説の師・半井桃水、龍泉町での商売……。一葉…

『百日紅』杉浦日向子(ちくま文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「本郷もかねやすまでは江戸の内」 住まいにほど近い本郷三丁目の交差点、その角にある洋品店「かねやす」の店先に掲げてある川柳である。これによれば、現在の私の暮らす地域は、かろうじて江戸の町に含まれていたことになる。上り下り…

『アップルパイ神話の時代―アメリカ モダンな主婦の誕生』原克(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「アップルパイ神話」とは、二〇世紀前半のアメリカの主婦たちを「モダンな主婦」たらしめるためにメディアが作り上げた幻想である。本書は、その「モダンな主婦神話」の「巧妙な語り口」を読み解いてゆくことによって、「お袋の味」と…

『シズコさん』佐野洋子(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 母親にとって娘はもっとも近しい同性、つまりいちばんの批評家なので、女の人が母親について書いたものを読むのは楽しい(息子のそれはあまり読みたくないが)。わけてもこの、娘・洋子の書いた母・シズコさんのおはなしは格別である。 …

『展覧会カタログ案内』中嶋大介(ブルース・インターアクションズ)

→紀伊國屋書店で購入 よほどのことがないかぎり、展覧会カタログを買うということをしなくなった。いちばん最近買ったのは『時の宙づり 生・写真・死』(IZU PHOTO MUSEUM、2008)だが、これは書店売りされていたものたったので、写真集を買う感覚で手に取っ…

『駱駝はまだ眠っている』砂岸あろ(かもがわ出版)

→紀伊國屋書店で購入 七〇年代のはじめの京都。ヒロインは、烏丸今出川にある喫茶店・駱駝館の娘、森下ろまん、十四歳。 ろまんの母親がそれまでの仕事を辞め、娘とふたり、山科の実家を離れて喫茶店をはじめたのは、ろまんが学校へ行きたくない、と言い出し…

『小さな生きものたちの不思議なくらし』甲斐信枝(福音館書店)

→紀伊國屋書店で購入 受粉を手助けしてくれる蝶の到来を待つオオイヌノフグリ、きゃべつの葉裏で静かに成長するモンシロチョウの蛹、田んぼのあぜ道に燃え立つように咲くヒガンバナ、綿毛を風に乗せてまき散らすオオアレチノギク、捕獲したアオムシを巧みに…

『花泥棒』細江英公・写真 鴨居羊子・人形 早坂類・詩(冬青社)

→紀伊國屋書店で購入 「芸術ではなく商売」。下着デザイナー・鴨居羊子はかつて、自分のしていることはアートではなくビジネスなのだとくりかえし強調した。しかし、もともと画家か彫刻家になりたいと夢みた彼女の創造力は、会社という組織が大きくなるにつ…

『一箱古本市の歩きかた』南陀楼綾繁(光文社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 職業として古本を扱っていない人たちが、おのおののコンセプトで古本をセレクトし、段ボール一箱ぶんを持ち寄って集まり、市場をひろげる。「一箱古本市」なるイベントは、著者が住む谷中界隈で二〇〇五年の春に開催した「不忍ブックス…

『思い出を切りぬくとき』萩尾望都(河出文庫)

→紀伊國屋書店で購入 今年六十になる友人知人を思い浮かべてみる。彼らについていちどは、この人は萩尾望都と同い年、と思ったものである。自分がまだ二十代の頃は、二十一年長の人はとてつもなく大人にみえたもので、その頃から萩尾望都は私のなかではこの…

『日々の100』松浦弥太郎(青山出版社)

→紀伊國屋書店で購入 男性というものはとかくこだわり屋、というか、そうならざるをえない人たちなのではないだろうか。順応性と適応能力に長けた女性にくらべ、さまざまなことにいいかげんでいられる幅がせまいから、そのハンディをこだわりというものよっ…

『読まず嫌い』千野帽子(角川書店)

→紀伊國屋書店で購入 読み巧者は幼いころから本の虫、と思っていたら、「児童文学に漂う『お子さんには山葵抜いときました』的な感じが気持ち悪くて」小学生時代は漫画以外の本はほとんど読まなかったという著者が小説に目ざめたのは十三歳のとき、きっかけ…

『夏みかん酔つぱしいまさら純潔など 句集「春雷」「指輪』鈴木しづ子(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 ある女性俳人の遺したふたつの句集が一冊となった。 「春雷」より 畦(くろ)ゆくやマスクのほほに夜のあめ 霜の葉やふところに秘む熱の指 うすら日の字がほつてある冬の幹 冬雨やうらなふことを好むさが 昃(かげ)る梅まろき手鏡ふと…

『名残りの東京』片岡義男(東京キララ社)

→紀伊國屋書店で購入 電信柱から縦横にのびる電線、そのむこうにそびえるビルと青空。ささくれた羽目板やペンキの剥げた雨どい。荒物屋の店先に吊された亀の子だわしとほうき。日にやけて痛みきった均一台の中央公論社『世界の文学』。埃を被った商店の日よ…

『たのしい写真 よい子のための写真教室』ホンマタカシ(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 思い出をかたちに、というふれこみで写真を一冊の本のかたちに編集するという商品の、フィルム会社のテレビコマーシャルを眺めていて、思い浮かぶのは生まれたての自分のまるはだかが写された一枚からはじまる、父親の編集による分厚く…

『手紙が語る戦争』女性の日記から学ぶ会・編 島利栄子・観衆(みずのわ出版)

→紀伊國屋書店で購入 オトウサンオゲンキデイラッシャイマスカ。私モゲンキデマイニチガッコウヘカヨッテイマス。オトウサン私ハオトウサンガハヤクコナイカとオモッテイマス。オトウサンガクレバ私ハオモシロイノデスモノ。オトウサンハヤクメンカイニキテ…

『草かざり』かわしまよう子(ポプラ社)

→紀伊國屋書店で購入 使いおわったマヨネーズの容器を洗うとき思い出すのは、ほんの子どもの頃、夏、近所の友達の家の庭にひろげたビニールプールでの水遊びだ。うす黄色い中身の詰まっているときにはわからない、ぺかぺかとしたプラスチックの質感。その中…

『ニューズウィーク日本版ペーパーバックス アメリカ人 異人・変人・奇人』ニューズウィーク日本版編集部【編】(阪急コミュニケーションズ)

→紀伊國屋書店で購入 『ニューズウィーク』誌の投稿記事のアンソロジー。1972年より続く「My Turn」なるこのコーナーは、「オープンな編集方針を掲げるニューズウィークのシンボル的なページ」なのだそうで、まるまる一頁を割いた誌面には投稿者の写真が入り…

『猫毛フェルトの本』蔦谷香理(飛鳥新社)

→紀伊國屋書店で購入 よく、切った爪を捨てずに保存する性癖の持ち主がいるが、あれはいったいどういう心理に基づいているのだろう。切られた爪は自分の一部、それをゴミと一緒に葬り去るのは忍びない、という強烈な自己愛のせいなのか、それとも、たんぱく…

『TOKYO一坪遺産』坂口恭平(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 はじめてパリに行ったとき、その街並み、建築はもちろんだが、ああ、西洋だなあ、としみじみ感じたのは、建設現場のありようを見たときだった。ちょうどルーヴル美術館が「グラン・ルーヴル・プロジェ」、ミッテラン政権下の大再開発の…