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プロの読み手による書評ブログ

森一郎(もり・いちろう)

森一郎
1962年生まれ。東京大学文学部卒業。東京大学助手、東京女子大学教授を経て、現在、東北大学大学院情報科学研究科教授。博士(文学)。専攻は、哲学・西洋近現代哲学史(ニーチェ、ハイデガー、アーレント等。) 著書に、『死と誕生 ハイデガー・九鬼周造・アーレント』(東京大学出版会、第21回和辻哲郎文化賞受賞)、『死を超えるもの 3・11以後の哲学の可能性』(東京大学出版会)等。訳書に、『ハイデッガー全集 第79巻 ブレーメン講演とフライブルク講演』(創文社)。

『ハンナ・アーレント』矢野久美子(中央公論新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「20世紀のメインストリートを駈けぬけて」 自分の所属がこの四月から変わり、仙台に住み始めた。この書評空間も一区切りを迎えるとのこと、その最終回として駆け込みで投稿しようと思い立った。となると、やはりこの一冊。アー…

『ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」』高瀬毅(文藝春秋)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「廃墟の時間性」 昨年の収穫の一つと紹介されていたのを目に留め、急いで読んだ。もとは2009年に平凡社から出ていたものの文庫化。五年近く前からの話題作に、やっと気づいた自分の迂闊さが情けない。気を取り直して思うに、何…

『マルクス 資本論の思考』熊野純彦(せりか書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「時間のエコノミー、時間のテクノロジー」 今どき七百頁余のマルクス論を書き下ろす。しかもカントやハイデガーの主著の翻訳を完成させる片手間に、である、いや、ひょっとすると『純粋理性批判』や『存在と時間』の訳業のほう…

『バッカイ バッコスに憑かれた女たち』エウリーピデース(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「好奇心は人間を破滅させる」 新訳なら古典だってよかろうと――『ビリー・バッド』を扱った前回に味をしめて――、先ごろ岩波文庫から出たエウリピデス(ギリシア語人名の長音は以下省略)の傑作悲劇を選ぶことにした。新訳と言っ…

『ビリー・バッド』メルヴィル(光文社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「哲学小説のプレゼント」 昨暮、名作の新訳が出たので本欄でも取り上げたいと思っていたら、こんなに遅くなってしまった。まさか、夏休みの課題感想文になってしまうとは。いたずらに馬齢を重ねる身を嘆きつつも、子どもの頃の…

『戦争の技術』マキァヴェッリ(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「徴兵制のルネサンス」 ちくま学芸文庫は、玉石混淆の気味はあるものの、相変わらず健闘している。たとえば、二年前の2011年3月10日に出た、マキァヴェッリ『ディスコルシ――「ローマ史」論』。3・11大震災のあおりでそれほど注目されな…

『哲学の起源』柄谷行人(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「イソノミアの再発見」 本書では、ハンナ・アーレントの革命論、なかんずく「イソノミア」論が取りあげられている。アーレントに入れあげてきた私のような者にとって、その哲学者の中心問題に、著名な批評家が注目してくれるのは、喜ば…

『哲学原論/自然法および国家法の原理』トマス・ホッブズ(柏書房)

→紀伊國屋書店で購入 「近代的なものの原典」 ついに出た。ホッブズの哲学体系三部作の完訳。哲学要綱草稿付き。2012年の読書界の収穫と言えば、本書を挙げなくてはならない。総計1700頁に及ぶ大冊(!)の重みは、優に大辞典に匹敵する。持ち運びには不便こ…

『学校を災害が襲うとき 教師たちの3・11』田端健人(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 「震災をプラスに変える」 あの日から二年が経とうとしている。今も引きも切らず出されている3・11関連本の中で、本書にめぐり会えた読者は幸せである。ここには、東日本大震災の経験が明らかにし、今後も伝えていくべき何かが、記され…

『芭蕉 最後の一句』魚住孝至(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「詩人哲学者の臨終の一句」 松尾芭蕉の最後の一句として有名なのは、「旅に病(やん)で夢は枯野をかけ廻(めぐ)る」である。大坂への旅の最中であった。享年51歳。西行、宗祇、李白、杜甫といった先人と同じく、旅に死すのは本望であ…

『椅子と日本人のからだ』矢田部英正(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「物作りの哲学者」 素朴な疑問を抱き、素直に驚き、率直な問いを立てる。常識や先入見を鵜呑みにせず、自分で考え、調べ、読み、また考える。そういう単純な営みが、哲学である。 本書にはその営みが生きている。のみならず本書では、…

『ローマ皇帝ハドリアヌスとの建築的対話』伊藤哲夫(井上書院)

→紀伊國屋書店で購入 「フマニタスとしての建築」 現代日本は建築大国である。古代以来の伝統建築の分厚い蓄積と、ライト、レーモンド、タウト、コルビュジエらに導かれて近代建築をわがものとしてきた実績。この二柱に支えられて、今日、安藤忠雄、伊東豊雄…

『道徳哲学序説』ハチスン(京都大学学術出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「〈リベラリズム〉の教科書」 原著 A Short Introduction to Moral Philosophy は1747年刊。一年前に出た翻訳だが、画期的な本邦初訳だし、古典はいつまでも古びないのだから、まだ湯気が立っていると言ってもよかろう。私としては、前…

『パリ 都市統治の近代』喜安朗(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「ポリス的なものの近代的概念」 新書洪水のなか昨秋出た一冊だが、地味ながら考えさせられることが多かったので紹介しておきたい。十九世紀前半フランス民衆運動史が専門で、長く日本女子大で教鞭をとった著者は、トクヴィル『フランス…

『アウシュヴィッツ以後の神』H.ヨーナス(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 「いま、神はどこに」 2009年の収穫といえる哲学書の翻訳を、一つ紹介しておこう。「神」について語ることは、現代いかにして可能か。二十世紀を生き抜いた哲学者ハンス・ヨーナス(1903-1993)は、本書に収められた晩年のエッセイ三篇…

『ローマ喜劇』小林標(中央公論社)

→紀伊國屋書店で購入 「悲劇か喜劇か」 夏の終わりに出た本書は、すでに方々で話題になっているようだが、私にとって間違いなく今年の収穫の一つなので、本欄でも取り上げることにした。恐るべし中公新書、と唸らされた一冊。 この書を読むまでは、悲劇はも…

『技術への問い』M.ハイデッガー(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「テクノロジーの本質を問う」 この書評欄で取り上げるのは専門分野にあまり近くない書籍のほうがよさそうだと思っていたが、さっそく第二回から、自分の仕事に直近の新刊を紹介することになった。これはもう声を大にして言い立てるしか…

『マルクス・アウレリウス『自省録』――精神の城塞』荻野弘之(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「書物の運命」 毎週日曜、某新聞の書評欄を眺めては、いつも思う。なぜ新刊本ばかり取り上げるのか。もっとよい本ならいくらでもあるのに――。 活字離れとか学術出版の危機とかよく言われるが、じつは今の世の中、新刊本が洪水のように…