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プロの読み手による書評ブログ

勝田有子(かつた・ゆうこ)

勝田有子
1960年神奈川県小田原市生まれ。早稲田大学フランス文学科中退。順天堂大学医学部卒業後、日本医科大学助手を経て、積善会曽我病院勤務。
1998年から2005年まで、ニューヨークの The William Alanson White Institute および National Psychological Association for Pychoanalysis にて、精神分析と児童・青年のための精神療法のトレーニングを受ける。
現在、小田原市にて開業。曽我病院にて非常勤。医学博士。

[著書]
『日本の狂気』 (日本評論社, 2007, 共著)
"On Deaths and Endings" (Routledge, 2007, 共著)
『開かれた心―精神の論理を探求する』 (里文出版, 2005, 共訳)
『石へ』 (新風舎, 2005)
"Eroticisms : Love, Sex, and Perversion" (iUniverse, 2003, 共著)

『ファン・ホーム―ある家族の悲喜劇』アリソン・ベクダル(小学館集英社プロダクション)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「マンガと文学のキメラ」 わたしは滅多にマンガを読まない。マンガの書評を書くのも初めてだ。犬も歩けばという具合に、出会った活字本をあれこれと書評空間で紹介してきて、7年目の浮気となる。 アメリカで大ヒットし、数々の…

『セラピスト』最相葉月(新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「弔いの邪推」 わたし自身の職業柄、無関心ではいられない一冊が登場した。精神医学と臨床心理学におけるそれぞれの巨匠、中井久夫と河合隼雄に触れているというのも、興味を惹く大きな要素だった。それにしても、表紙を占める…

『サイコパスを探せ―「狂気」をめぐる冒険』ジョン・ロンソン(朝日出版社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「精神医学批判をロード・ムーヴィーする」 アメリカの精神科診断基準であるDSMを批判する著作が、本国アメリカにおいても少なくないことは、今までも機会あるたびに書いてきた。だが、本作の出来映えは異色だ。鹿爪らしい論評…

『夜中に犬に起きた奇妙な事件』マーク・ハッドン(早川書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「読んで学ぶ自閉症」 昨年、アメリカの精神科診断基準DSMが19年ぶりに改訂され、自閉症スペクトラム障害(Autistic Spectrum Disorder: ASD)という新たな診断基準が登場した。アスペルガーの呼称も抹殺され、あれだけ世間を騒…

『対人恐怖』内沼幸雄(講談社現代新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「羞恥の発掘」 今回の枕の一冊は、”Seeing and Being Seen: Emerging from a Psychic Retreat” (John Steiner, Routledge, 2011) 。防衛の牙城に引き籠る心的事態(Psychic Retreat)の解明に勤しんできたシュタイナーの第二作…

『Tale for the Time Being』Ruth Ozeki(Canongate Books Ltd.)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「訳すと、『有(う)時(じ)物語』なんです。」 この本を読むまで、ルース・オゼキという作家の名は聞いたこともなかった。今春に上梓された本書は、デビュー作の“My year of Meats” (1998) 、“All Over Creation (2003)” に次ぐ…

『サイコバブル社会―膨張し融解する心の病―』林公一(技術評論社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「精神科医、快刀乱麻を断つ!」 最近、『それは「うつ」ではない』(A・ホーウィッツ / J・ウェイクフィールド著 伊藤和子訳 阪急コミュニケーションズ 2011)を読んだ。うつ病の歴史・社会的背景を綿密に追跡し、精神医学のア…

『日本美術応援団』赤瀬川原平 山下裕二(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 日本美術を「乱暴力」を尺に観る 過ぎた夏のこと、伊藤若冲という絵師に嵌っていた。大根を入滅する釈迦に模した涅槃図は、わたしの好きな一枚だが、まだ実物にお目にかかったことがない。大根は、春から東北巡業中と知り、追跡…

『忘れられたワルツ』絲山秋子(新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「トカトントンの降臨」 絲山秋子は、2003年のデビュー以来、一定の質と量の執筆を維持しつつ、着々と成長している。粗暴な棘を孕んだ荒々しさと、心の機微を読む繊細さが巧みに同居するところに、この作家の醍醐味がある。二極…

『あなたに似た人』ロアルド・ダール(早川書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ノスタルジックな毒見」 先月、「マチルダ」を観た。ロンドンからブロードウェイに上陸し、新大陸でもトニー賞獲得の大成功を収めた、ダール原作のミュージカルだ。満員御礼、最後のチケット獲得に快哉の声を挙げたのも束の間…

『Mastermind : How to Think Like Sherlock Holmes』Maria Konnikova(Viking Press)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「シャーロック・ホームズを副読本とした脳科学書」 テレビを観ないはずだった私にも、毎週楽しみにする番組ができた。『ドクター・ハウス(House M.D.)』も、そのひとつで、かつて観た『ER』よりも遥かに面白い。医療ドラマに…

『皮膚感覚と人間のこころ』傅田光洋(新潮選書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ハード・サイエンスの彼岸」 皮膚は気になる存在として、臨床の随(まにま)に立ち現れる。著者が強調するように、発生学上、皮膚は脳や感覚器同様、外胚葉由来の臓器である。脳と皮膚は同郷の好(よしみ)なのだ。しかも、自己意…

『いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか』内藤朝雄(講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 「世に棲む寄生虫」 数ヶ月前、何気なくテレビの報道番組を見ていた時のこと、出演中のコメンテーターの奇趣に思わず目を奪われた。発語はつんのめるような早口に加えて迂遠。語彙は過激で煽情的。感情的なのにもかかわらず漂う機械的ギ…

『腰痛放浪記 椅子がこわい』夏樹静子(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「お遍路 乱れ打ち」 石を投げれば腰痛病みに当たる。それほどに世に腰痛持ちは多い。他人事ではない。わたしの腰痛歴も長く、鍼灸・整体の世話になること頻々で、不思議なことには、五十肩に苦しんでいる間だけは腰痛から解放されてい…

『幻談・観画談 他三篇』幸田露伴(岩波文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「露伴という不易流行」 幸田露伴は、大政奉還の年に生まれ(漱石・子規・熊楠と同じ歳)、明治・大正・昭和の戦後に至るまで、文筆業を貫いて80歳の天寿を全うした。言文一致の揺籃期から無頼派の隆盛までの歳月は、昭和・平成の80年間…

『極楽・大祭・皇帝―笙野頼子初期作品集』笙野頼子(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「三尺玉の祟り」 『二百回忌』を読んだら風邪をひいた。病床で『母の発達』を読んだら、支離滅裂な夢を見続けた。プロットはあったような気がするが、飛躍が過ぎて、脳が追いつけない。今となっては、イメージの残滓すらない。床上げし…

『随筆 本が崩れる』草森紳一(文春新書)

→紀伊國屋書店で購入 ―「書刑または屈葬」の現場検証― 父は、貧乏性で、滅多に単行本を買わなかったが、日課の本屋通いは死ぬまで続いた。耄碌しても、徘徊の行き先は本屋と決まっていたから、警察のお世話にもならずに済んだ。その父が、早晩死の床となる枕…

『Still Practicing : The Heartaches and Joys of a Clinical Career (Psychoanalysis in a New Key)』Sandra Buechler(Routledge )

→紀伊國屋書店で購入 「精神分析家の二つのS」 「先生のしている治療法は50年後も存在していると思いますか?」どうして、今、この質問を?表情や口調には糾弾や嫌味もない。顎をやや上げて視線を下げる、かつての彼に時折見られた不遜なジェスチャーもない…

『季節の記憶』保坂和志(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「文盲小説」 保坂和志の文体は、吉田健一から教養のおもちゃ箱を取り上げたような感じで、読点ばかりが続いてなかなか句点に辿りつかない。同じ句点のお預けでも、野坂昭如のような粘りや速いピッチはなくて、意地もなく(意気地がない…

『小説的思考のススメ―「気になる部分」だらけの日本文学』阿部公彦(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 ―小説の寺子屋― 著者の阿部公彦氏は、書評空間における仮想クラスメートとして、ずっと気になる存在だった。過去5年間、月に2本(も)という一貫したペースで書評を続ける難行を涼しい顔でこなしているように見えるからだ。しかも、書き…

『私が、生きる肌』ティエリー・ジョンケ(ハヤカワ・ミステリ文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ">―『蜘蛛の微笑』の形成手術― 2004年に翻訳出版された本書は、ついこのあいだまで『蜘蛛の微笑』というタイトルだった。原題『Mygale』(毒グモ)を文意に沿って意訳したものだ。ちなみに、イギリスでのタイトルは『Tarantula(タラン…

『Depression in Japan: Psychiatric Cures for a Society in Distress』Junko Kitanaka(Princeton University Press)

→紀伊國屋書店で購入 ―歴史は繰り返される 「神経衰弱」の木霊― 出先の本屋で探し物をしていたところ、ふと振り向いた棚に本書が横たわっていた。背負ったタイトルが職業的関心を惹いたものだから、パラパラと初対面の儀式を交わした後、家に連れて帰ること…

『あんじゅう』宮部みゆき(中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 「かぐや姫よりも切なく、ETよりも可愛い」 宮部みゆきの時代小説には、善人ばかりが登場する。人格は円満で、年齢相応に世知長けて、分相応をわきまえている。人並みにある短所も、相方(あいかた)に抱えられて帳消しになること頻り。こ…

『シズコさん』佐野洋子(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 生者の務め 本書は、題名が端的に示すように、著者の母親佐野シズコを描いたものだ。母親への積年の恨み辛み、無念と自己嫌悪など一切合財の想いを宿すシコリが、シズコの認知症と死を経て氷解するまでを描いたのが、『シズコさん』のあ…

『追悼の達人』嵐山光三郎(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ―嵐山光三郎という死に物狂い― 嵐山光三郎といえば、タモリのTV番組に出演するひょうきんな髭のおじさん、というイメージが拭えない。思えば30年近くも昔のことになる。矢継ぎ早にエッセイを執筆していたことなど露知らなかったわたしは…

『架空の球を追う』森絵都(文春文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ">―児童文学作家の成長グラフ― わたしの世間は狭い。お世辞にも社交的とは言えず、ラジオこそ聴くものの、テレビに至っては滅多に見ない。けれども、気紛れにリモコンを作動することはあって、なぜか「NHKのど自慢」に出逢う頻度が高い…

『明暗』夏目漱石(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「猫を追悼する」 『吾輩は猫である』を処女作とした夏目漱石は、未完の『明暗』を絶筆として、1916年(大正5年)49歳で他界している。僅か10年の執筆人生で、漱石は不朽の名声を残したわけだが、『明暗』は立体的な心理小説として、そ…

『槿』古井由吉(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「離魂サスペンス」 古井由吉の作品では、主人公が頻々と自らの背中を見る。そこには、客観視と呼べるような強(したた)かさはなくて、むしろドッペルゲンガーの危うさや仮初(かりそ)めさに匹敵する浮遊感がある。いっそ古風に、脱魂や離…

『辻』古井由吉(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「イタコ健在」 本書の表題は、小さく胸を打つ。口にもしなければ耳にもしなくなって久しい言葉が、懐かしさと戸惑いを生む。これが「交差点」では興醒めで、そうなると途端に、車やら煌々とした信号機やら、挙句にはアスファルトに引か…

『黒い画集』松本清張(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「天城越え」 先日、天城峠を訪れた。目的は中伊豆温泉巡りだったのだが、今にして思えば、一度は訪れてみたかった峠が、どこかで温泉道楽の行き先を定めていたのかもしれない。天城峠に惹かれたわけは、本書『黒い画集』に収められてい…