書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

中山元(なかやま・げん)

『イスラームと西洋―ジャック・デリダとの出会い、対話』シェリフ,ムスタファ(駿河台出版社 )

→紀伊國屋書店で購入 「地中海の子、デリダ」 著者のムスタファ・シェリフは、デリダの生まれた国アルジェリアのイスラーム学者であり、駐エジプト大使や高等教育大臣を歴任した政治家で、哲学者である。著者はデリダの哲学に心酔しており、2000年の3月に、…

『石毛直道 食の文化を語る』石毛直道(ドメス出版 )

→紀伊國屋書店で購入 「近代日本の食事の歴史」 ぼくは紀伊国屋書店で刊行している『スクリプタ』のファストフードの歴史についての連載を毎号楽しみに読んでいる。同時代的に経験している出来事も、遅れたものものもあるが(マクドナルドはすっかり定着して…

『政治概念の歴史的展開〈第1巻〉』古賀 敬太【編著】(晃洋書房 )

→紀伊國屋書店で購入 「重要な政治的な概念の歴史的考察」 政治的な概念の歴史的な展開を考察するシリーズで、第三巻まで刊行されている。ドイツには『歴史的な基本概念』という9000ページに及ぶ大シリーズがあるが、それには及ばないものの、ひとつの概念に…

『幼児期と歴史―経験の破壊と歴史の起源』ジョルジョ・アガンベン(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「インファンスの二重の意味」 アガンベンの初期の著作であるこの『幼年期と歴史』は、『言葉と死』のような連続したセミナーではなく、論文集という性格をもつものである。ただし本書の「目玉」である「インファンティアと歴史」の文章…

『新世界の悪魔 ― カトリック・ミッションとアンデス先住民宗教』谷口智子(大学教育出版 )

→紀伊國屋書店で購入 「アンデスの神と悪魔」 テーマになっているのは、南米のアンデス地方において、カトリックの宣教師たちにキリスト教に改宗させられた現地の人々の宗教心の複雑なありかたである。大きく二つの部分で構成され、前半は一七世紀の改宗の直…

『共和主義ルネサンス ― 現代西欧思想の変貌』佐伯啓思/松原隆一郎編集(NTT出版)

→紀伊國屋書店で購入 「共和主義理論のわかりやすい入門書」 ポコックの力作『マキアベリアン・モーメント』の影響のもとで作られた書物であり、ほとんどすべての論文で、ポコックの恩恵が語られている。ポコックが示した共和主義の系譜をたどり直す論文と、…

『アドルノ-政治的伝記-』ローレンツ・イェーガー(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「逸話が楽しいアドルノ伝」 アドルノの孫弟子にある人のアドルノ伝。「政治的」という形容詞がついているが、それほど政治的なものではなく、むしろ音楽家としてのアドルノの顔が透けてみえるようなエピソードが多くて、おもしろい。 …

『聖なる共同体の人々』坂井信生(九州大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「ウェーバーのテーゼの検証」 この書物は、アメリカ、カナダ、メキシコに移住した再洗礼派の共同体のルポルタージュであり、アーミシュ、ハッタライト、メノー派の共同体の現在の状況が報告されている。映画『刑事ジョン・ブック目撃者…

『マックス・ウェ-バ-と妻マリアンネ ― 結婚生活の光と影』クリスタ・クリュ-ガ-(新曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「サブタイトルで引かないように」 ウェーバーの伝記は、妻のマリアンネのものが圧倒的な詳しさと当事者性から確固とした地位を占めている。しかし妻が書いたものだけに、どうしてもぼかされてしまうところ、描かれないところというもの…

『さらば、“近代民主主義”―政治概念のポスト近代革命』ネグリ,アントニオ(作品社)

→紀伊國屋書店で購入 「新しい概念の構築に向けて」 最近多数の著書が邦訳されているネグリであるが、この書物はネグリが珍しく政治哲学のさまざまな概念と思想について、正面から考察したものであり、何度でも読み、考えを練るに値する書物である。これまで…

『監獄ビジネス-グローバリズムと産獄複合体-』アンジェラ・デイヴィス(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「監獄ビジネスの危険性」 グローバリゼーションの時代に、資本が国内市場で新たな市場を開発するための重要な手段の一つが、公的な領域で行われるべき業務を民営化することにあるのはよく知られていることだろう。 公共機関は、税金で…

『ミクロコスモス ― 初期近代精神史研究第1集』平井浩ほか(月曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「近代初期の思想の多彩な研究」 最近には珍しい作りの本だ。近代初期のさまざまな思想的な思想についての研究を集めて一冊にしたものであり、パラケルスス、デュシェーヌ、画家コペルニクス、ニコラウス・ステノなどの研究、さらに百科…

『マキァヴェッリの生涯―その微笑の謎』ヴィローリ,マウリツィオ(白水社 )

→紀伊國屋書店で購入 「実にヴィヴィッドに描かれた生涯」 マキアヴェッリの肖像画はたしかに、口元に皮肉な、そしてどこか悲しげな微笑を浮かべている。本書は、マキアヴェッリの生涯のさまざまな出来事と、彼の野心の蹉跌の歴史をたどりながら、その微笑の…

『気候と人間の歴史・入門 ― 中世から現代まで』ル-ロワ-ラデュリ,エマニュエル(藤原書店 )

→紀伊國屋書店で購入 「スパンの長い歴史研究」 二〇一〇年の四月の半ばに、アイスランドの氷河の下の火山が噴火し、空に噴煙を吹き上げた。航空機が飛行する高さまで吹き上がったので、ヨーロッパの空からはほぼ一週間にわたって航空機が姿を消すことになっ…

『サンパウロへのサウダージ』レヴィ=ストロース,クロード、今福龍太(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「レヴィ=ストロースの「郷愁」」 サウダージとはある特定の場所を回想したときなどに、「この世に永続的なものなどなにひとつなく、頼ることのできる不変の拠り所も存在しないのだ、という明白な事実によって私たちの意識が貫かれたと…

『技術への問い』M.ハイデッガー(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「技術と科学の本質」 「技術への問い」は、ハイデガーが戦後の思想的な世界に復帰するきっかけとなった重要な講演の記録である。戦争責任を問われていたハイデガーが、一九五一年にやっと教職への復帰を認められた後、一九五三年にこの…

『グノーシス「妬み」の政治学』大貫隆(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「神話の内的な構成原理としての妬み」 旧約の神が「妬む神」であることはよく知られている。最近の新共同訳では、この訳語をふさわしくないと判断したのか、「わたしは熱情の神である」(「出エジプト記」二〇章五節)と訳しているが、…

『闘争と文化―マックス・ウェーバーの文化社会学と政治理論』野口雅弘(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「ニーチェの視点から読み直すウェーバー」 ウェーバーについて伝統的に語られている八つの通説にたいして、その反論を計画したもの。一読すると個別の論文を集めたもののような印象があるが、明確な計画のもとで書かれたドイツ語の博士…

『言葉と死 ― 否定性の場所にかんするゼミナ-ル』ジョルジョ・アガンベン(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「アガンベンの力技」 アガンベンが一九七九年から一九八〇年にかけた行ったセミナーの記録であるが、「そこで議論された考えと素材をわたしがだれにでも納得してもらえそうなかたちにまとめ直して提示したもの」(p.8)だそうである。し…

『新世界秩序批判―帝国とマルチチュードをめぐる対話』アトゥツェルト,トマス/ミュラー,ヨスト編(以文社)

→紀伊國屋書店で購入 「『〈帝国〉』の構想への一つの補足」 ネグリ/ハートの『〈帝国〉』が、フーコーの生政治の概念を新しい方向に展開させて、ぼくたちの想像力をかき立てたために、この構想を補足し、修正するための書物がまだつづいている。本書もその…

『カントの啓蒙精神-人類の啓蒙と永遠平和にむけて-』宇都宮芳明(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「啓蒙と道徳の関係」 この著作の中心的なテーゼは、啓蒙は究極的には道徳的な啓蒙であるということである。啓蒙は周知のように「未成年の状態から脱出すること」と定義されており、カントは啓蒙されていない状態を、「わたしは、自分の…

『プラトンのミュートス 』國方 栄二(京都大学学術出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「ロゴスとミュートス」 ハイデガーが『存在と時間』の冒頭でプラトンの『ソフィステス』を引用しながら、哲学の問いとは「いかなる神話(ミュートス)も語らないこと」(242c)だと語ったこともあって、哲学は神話とは対立したものだと思…

『ウィトゲンシュタインと精神分析』ヒートン,ジョン・M(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「トーキング・キュア」 ウィトゲンシュタインがフロイトを高く評価しているのは意外だが、よく考えてみれば、不思議ではないのかもしれない。どちらも語ることによる治療(トーキング・キュア)を目指していたからだ。ウィトゲンシュタ…

『マキァヴェリアン・モーメント―フィレンツェの政治思想と大西洋圏の共和主義の伝統』ポーコック,ジョン・G.A(名古屋大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「政治思想史の必読書の待望の翻訳」 本書は、政治思想史の分野で長らく注目されてきた書物であるが、大冊なために翻訳がなかなか刊行されていなかった。ぼくもこれまで英語で読んできたが、多くの読者とともに、日本語で読めるようにな…

『イザベラ・バード「日本奥地紀行」を歩く』金沢 正脩(JTBパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 「130年後のバード『日本奥地紀行』」 イザベラ・バードは一八三一年生まれの富裕なイギリス人女性である。イギリスのレディー・トラベラーの第一人者として知られており、日本には明治一一年にやってきて、日光から新潟、そして北海道…

『旧約聖書の誕生』加藤隆(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「行き届いた旧約入門書」 著者は新約学者だが、この旧約聖書への入門書も懇切丁寧な作りで、聖書への理解を深めるために役立つだろう。旧約聖書の基本的な構成、聖典としての確立の状況、ヤハヴェという神の名の呼び方の由来など、基本…

『精神分析の抵抗―フロイト、ラカン、フーコー』デリダ,ジャック(青土社)

→紀伊國屋書店で購入 「フロイトへの思い」 デリダのフロイトへの思いは強いものがあり、『エクリチュールと差異』に収録されたフロイト論「フロイトとエクリチュールの舞台」以来、長い取り組みがある。この書物に収録された三つの講演の記録は、これまでの…

『存在と無〈1〉現象学的存在論の試み』サルトル,ジャン=ポール(筑摩書房 )

→紀伊國屋書店で購入 「手軽に文庫で読めるようになったサルトルの主著」 サルトルの大著『存在と無』が文庫化されたのをきっかけとして読み直してみた。小説のように楽しめる本であり、三巻の最後の用語集なども、理解を深めるために役立つ。思えばベルクソ…

『ホフマンと乱歩 人形と光学器械のエロス』平野 嘉彦(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「二つの近代」 ホフマンの「砂男」は、さまざまなトリックが満ちていて、分析するのが楽しみだ。おまけと言ってはなんだが、フロイトの優れた分析があって、ホフマンの側からみても、フロイトの側からみても、分析しがいのある作品だ。…

『一六世紀文化革命. 1 』山本義隆(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「メディアとしての書物の力」 一五世紀の半ばに印刷書籍が一般に流通するようになったことが、科学の世界にどれほど大きな影響を与えたかを詳しくたどるこの著書は、書物論としても読み応えのあるものだ。それまで手書きで筆写していた…