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プロの読み手による書評ブログ

『Just Kids』 Patti Smith(Ecco Press)

 Just Kids

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パティ・スミスとローバート・メイプルソープのニューヨーク」


 2001年にビート詩人のグレゴリー・コーソが死んだ。僕は、ニューヨークのロワー・イーストサイドでおこなわれた彼の葬儀に出席した。

 その席で一番印象に残ったのは、パティ・スミスだった。彼女は、ギターの弾き語りで「スターダスト」を歌った。彼女が歌っている間、彼女の声とギターの音が空中に質感をもって漂っている感じがした。

 歌が終わると彼女は、泣きそうな笑顔を浮かべ「グッバイ・コーソ」と小さく手を振った。

 

 その時には、パティとコーソがどんな関係にあったか知らなかったが、今回読んだ「Just Kids」で、パティにどの本を読んだらいいかのリストを作り、どの辞書が一番いいかを教え、彼女に創作の道を進めと励まし、セント・マークス教会でおこなわれていたポエトリー・リーディングに連れていったがコーソだと知った。

 そのほか、同じビート詩人のアレン・ギンズバーグは、パティのことを「プリティ・ボーイ(可愛く、若い男)」だと勘違いして声をかけ、食べ物を凝り、そこから交流が始まったことも分かった。

 こんな、出来事を知るのは僕にとって無情の喜びだ。特のその場所が、僕が住んでいるニューヨークならばなおさらだ。

 しかし、「Just Kids」はパティ・スミスの自伝ではない。これは、パティと彼女のボーイフレンドだった写真家ロバート・メープルソープのふたりの物語と、60年代終わりから70年代初めのマジカルなニューヨークの街を描いた回想録だ。

 67年にニューヨークで出会ったパティとロバートの生活は家なし、文無しの生活から始まる。パティはスクリブナー書店に仕事をみつけ、ロバートは身体を売り生活費を工面した。

 生活が変わるのは、ふたりがチェルシー・ホテルに住み出してからだ。

 そこでジャニス・ジョップリンジョニー・ウィンター、コーソ、バロウズなどと知り合い、ふたりはチェルシー・ホテル、マックスズ・カンサスシティ、それにアンディ・ウォーホルのファクトリーと、ニューヨークのアート/ロックシーンのマジカル・トライアングルとも言える世界に入り込んで行く。

 「 最初に会った時、彼はとても恥ずかしがり屋だった。彼はマックスズ、チェルシー、ファクトリーの難しい領海を泳ぎ、自分を見つけていった」

 彼女はトッド・ラングレンとも知り合い、パンクロック・バンドを結成し、当時まだ誕生したばかりのエネルギーに溢れていたCBGBに出演する。

 一方、ロバートは煌めくハイアート・ソサエティに惹かれていき、ふたりは別々の道を進むことになる。

 スクリブナー書店、CBGB、ファクトリーなどはもう消えてしまった。ロバートも89年にエイズで命を失っている。

 「Just Kids」は興奮、ノスタルジア、喪失感、それに憧憬がごちゃごちゃに詰まった火の玉を心に投げつけられたような気持にさせられる本だ。


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