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2007年01月11日

『ハワイ音楽パラダイス』山内雄喜・サンディー(北沢図書出版)

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「ハワイの風が吹く本」

 ハワイに一度でも行った人は、あの島に吹く不思議にやさしい心地よい風を覚えているだろう。まさにあの風がこの本の中に吹いている。

 この本は、ハワイ音楽のエキスパートでスラックギター奏者の山内と、フラダンスも踊る歌手サンディーの対談を基調とした構成で成り立っている。ところどころに挟まるコラムではハワイやハワイ音楽についてわかりやすく解説してあるので、たとえばスラックギターという楽器を知らない人(私もこれを読むまで知らなかった)でも、読んでいるうちにその機能はもちろんその楽器の心までわかり、彼らの世界に入り込めるようになっている。

 山内は少年時代に聴いたハワイ音楽にあこがれて、大学卒業後単身ハワイに乗り込む。飛び込みで門をたたいて内弟子となった先のギタリストやその仲間たちは、まさにハワイの風が育んだネイティヴハワイアン気質。優雅とすら呼べる彼らの生き様がなんとも面白い。彼らの生活の中に飛び込んで暮らした山内は、音楽の楽しみを大切にしたいからと、あえてアマチュアの道を選ぶ。帰国後家業を継いだという彼の本業はなんとコンニャク屋だ。コンニャクもイモから作るせいか、ハワイの人々の昔ながらの主食であるタロイモにも妙な親しみを感じるという。
 一方サンディーは、生まれは日本ながらハワイ育ちである。朝早くハチと戦いながら採ってきた花で作ったレイをつけて踊ると、自然から力をもらえるようでいくらでも踊れると言う。上手なフラはすばらしい風を生み、その風が見る者を包み込む。ハワイの歌や踊りは自然と切っても切れないもので、それは自然体で生きていくことにつながると言う。感覚的な内容ながらも幸せの青い鳥の所在が見えてくる感じがする。

 二人の素朴なミュージシャンの気張らない会話に溶け込み、同席しているような錯覚を覚えながら読み進むうちに、気がつくと自分が抱えていたつまらない焦りがすうっと消えていくのを感じた。
 日本に居ながらにしてハワイに連れて行ってくれる、行間からパラダイスの香りがしてくる本である。

(文中敬称略)


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2007年01月06日

『森のうた』岩城宏之(講談社文庫)

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「忘れかけていた青春をイヤという程思い出させられた」

 岩城宏之と山本直純という二人の指揮者が過ごしたハチャメチャで、だけどかけがえのない学生時代を岩城さん自身が回想して書いた本である。そこには、青春というひとことではかたづけられない程の情熱のもの凄さと小学生並みの欲望がある。
忘れかけていた青春をイヤという程思い出させられたし、また、音楽家がなぜ音楽をするのかも考えさせられた。

 二人が芸大に入学するところから始まって、指揮科でもない二人がまんまと学生オーケストラを組織し、その指揮者となってコンサートを成功させるまでの笑い転げる実話(?)の数々が綿々と綴ってある。この二人はなぜそこまで指揮をしたいのかわからないが、とにかく、どんな手を使ってでも指揮をしようとするのだ。ある時は人を騙し、ある時は人をおだてながらも、二人は指揮の仕方で大げんかをしたり、失恋を慰め合ったり。他に登場する若き音楽家のタマゴ達もそれぞれにキャラの立った存在で、なかなかおもしろい。

 外国にも簡単に行ける。どんなものでも簡単に手に入る。そんな時代になった今だからこそ失ってしまったのかもしれない人間の本能とも言える欲望をむき出しにして生きていた青年達。人に迷惑をかけて良いということは無いのだろうけど、この本の登場人物達は妙に魅力的だ。

 著者の岩城さんとドタバタを繰り広げるもう一人の主人公である山本直純は何をかくそう私の父である。だから、こんな本をココで紹介するのはちょっと恥ずかしいというか、アレなんだけれども、是非多くの人に読んでもらいたいと思う本なのである。2人ともあっちに逝ってしまった今、この本は2人からの遺言にすら思える。というと湿っぽすぎるのだけど、実際この本はまったく湿っぽくない。「俺たちの時代はこんなだったけど、こんな事をしたぞ。お前達は、今、何をするんだ?」と問いかけられている気がしてならない。音楽家である私にとって特にそう感じるのかも知れないが、いや、音楽家でなくとも時代による人々の雰囲気の違いには似たようなものがあるだろう。だがら、現代を生きるすべての人々に、本能的な情熱を喚起する貴重な本としておすすめしたい。

 と、ここまで書いて、この本が入手困難な状態にあることがわかった。でも折角書いた紹介文なのでアップさせて頂いた。この文を読んで本が欲しくなった方々、やり場のない気持ちにさせたことをお詫びします。いつか出版社が再版してくれることを祈りつつ・・・


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