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2014年04月20日

『アフター・テレビジョン・スタディーズ』伊藤守・毛利嘉孝【編】(せりか書房)

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「新しいメディア理論に向けての待望の一冊」


 まさに待望の一冊である。


 本書は、早稲田大学の伊藤守、東京芸術大学の毛利嘉孝、両氏を編者とする、新しいメディア理論の探求を企図した論文集である。


 その名が示すように、メディアの中心をテレビが占めていた時代はすでに過ぎ去った。だがテレビは完全に姿を消したわけではなく、一定の存在感を保ちながら、インターネットやケータイなどとともに複合的にメディアが利用される時代となっている。 


 日本社会において、こうしたインターネットやケータイの本格的な普及が進んだのが1990年代の中盤であるので、それからすでに20年近くが経つことになる。だがその間にも、インターネットはより高速で常時接続可能なものへと、さらにケータイもスマートフォンへと、その姿を変えてきた。


 このような技術面での驚異的な進歩の一方で、それを社会現象として捉えるための理論的な検討は立ち遅れてきたと言わざるを得ない。評者を含めた研究者の怠惰として批判されれば返す言葉もないが、この点で本書は、新たな時代のメディア研究のための、理論化の試みとして高い評価に値しよう。


 序文でも触れられていることだが、本書の位置づけを理解するうえでは、やはり同じくせりか書房から2000年に刊行された吉見俊哉編『メディア・スタディーズ』と対比することが重要である。


 同書は、それまでのいわゆる「社会心理学的なマスコミ研究」、すなわちテレビを中心にして、あくまで送り手と受け手の間の世界にばかり注視してきたメディア研究に対し、カルチュラル・スタディーズの視座から、文化的・社会的な文脈を持ちこみ、より発展的な研究を企図したものであった。


 だが『メディア・スタディーズ』がそれでもテレビを中心的な分析対象とせざるを得なかったのに対し、それから十数年を経た本書では、存分に新しいメディアが分析されることとなっている。


 本書の構成だが、大きく三部に分かれていて、まず第1部「デジタルメディア・デモクラシー」では、こうした新たなメディアに関する政治経済学的な分析がなされている。次いで第2部「デジタルメディアの物質性・媒介性」では、それまでのマスメディアとは違った、これらの新たなメディアのありようがまさにメディア論的に分析されている。そして第3部「身体・情動・デジタルメディア」では、メディアを利用する側に着目し、その身体性や権力の問題に着目しようとしている。


 文字通りの豪華メンバーによって執筆されていて、どの章も非常に興味深いが、しいて評者の個人的な好みから選びとるなら、やはり編者の伊藤氏が書かれた最終章「オーディエンス概念からの離陸」が興味深い。


 端的に述べるならば、そこで問われているのは、複合的なメディア利用状況の中で、もはや「テレビの視聴者」だけではなくなった、我々は一体何と名指されるべきなのか、という点である。


 先にも紹介したカルチュラル・スタディーズにおいては、それまでのマスコミ研究における「受け手」という概念を批判し、より広範な文化的・社会的文脈におかれた存在として捉えなおす「オーディエンス」という概念を設定してきた。


 だが、このカタカナ用語が適切な日本語訳も与えられないままに、メディアの状況は驚異的な変化を遂げてきた。今明らかなのは、それを利用する我々を呼び表すのに、少なくともこの「オーディエンス」という用語が、ふさわしいものではないということぐらいであろう(スマートフォンのオーディエンスという言い方はしないだろう)。


 この点について伊藤氏は、主としてタルドの模倣論に依拠しながら、さらにアーリの移動論などにも触れつつ、果敢に挑もうとしておられる。容易には結論の出ない探求だろうが、まさに今日のメディア研究における最重要課題の一つといえるだろう。


 あるいは本書全体を通しての感想として、こうした野心的な理論化の試みの著作を読んでいると、どうしてもそれと呼応した、実証的で経験的な調査の結果も読みたくなる。新たな理論化が進展するならば、それと呼応して、新たな調査も進展させ、それらの往復運動のもとに、メディア状況を捉えていくことが必要となろう。


 だがむしろこの感想は、本書の執筆者に向けられたものというよりも、それに大きな刺激を受けた評者自身の今後の課題とすべきものかもしれない。


 この刺激的な論集を、ぜひ多くの方にお読みいただきたいと思う。




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