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2014年01月31日

『JR崩壊―なぜ連続事故は起こったのか?』梅原淳(角川書店)

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「長期スパンで考えるべき重要な社会問題」

かつて山本七平は、この国の行く末に大きな影響を及ぼすような重要な選択が、しばしばその場の雰囲気(=空気)に流されて決められてきたことを指摘した(『空気の研究』)。

 思い返せば、国鉄民営化当時も、そうした「空気」が充満していたことを、子ども心に覚えている。特によく言われていたのは、国鉄職員の勤務態度の悪さであり、それが民営化によって競争原理を働かせることで、改善されるに違いないといった「空気」が充満していていたように思う。


 もちろん、一般的な利用者にとっては、そうした身近でわかりやすい話題も重要ではあるが、それ以上に、生活インフラとしての鉄道の存在、分割することの是非、とりわけ厳しい経営環境が見込まれるいわゆる三島会社(北海道、四国、九州)の行方など、他に問うべき視点はいくらでもあったはずなのに、それが十分に掘り下げられていた記憶はない。


 こうした「空気」の支配は、近年でいえば郵政民営化やゆとり教育からの転換、そして原発の再稼働、あるいは過去に遡れば、太平洋戦争の開戦や軍艦大和の特攻作戦など、例を挙げればきりがない。


 こうした点に鑑みて、本書をネーミングするならば、「30年前に欲しかった一冊」というべきだろう。


 すでにニュースでも知られる通り、JR北海道においては、特急列車の火災、脱線事故など、重大なトラブルが相次いでおり、2014年1月現在でも、特急列車の一部が運休または減速運転を余儀なくされている。


 昨夏に稚内市を訪れた際にも、特急列車の運休を知らせるために、「札幌へお急ぎの方は高速バスをご利用ください」という掲示が駅に出されていたのを見て、非常に驚いた。


 そして著者が言うように、こうした問題の根幹は、実は「1987(昭和62)年4月に断行された国鉄の分割民営化にさかのぼって」考えるべき問題点であり、かつそれは「JR北海道固有のものではなく、JR各社ひいてはすべての鉄道事業者にも当てはまるものではないか」という。


 詳しい内容は本書をお読みいただきたいが、もともとJR北海道は極めて厳しい経営環境に陥ることは目に見えていたはずであり、さらに今後北海道新幹線が開業することになれば、ますます負担が重くなることは明白となる。
その上で、現在一部では、もはや「地方に鉄道は必要はない」といった極論から、「JR東日本が救済合併すべき」といった議論が、沸き起こりつつあるようだが、まさにこうした選択こそ、一時の「空気」に流されることなく、数十年後、百年後の影響を視野に入れて、慎重になすべき問題といえるだろう。


 そして繰り返せば、これはJR北海道だけではなく、強硬にリニア新幹線の建設を推し進めようとする他の会社にとっても、他人事ではない問題のはずであり、あるいは鉄道だけでなく、日本社会全体にも通ずる重要な問題点のはずである。


 よって、できるだけ多くの方に、「他人事ではなく自分のこととして」そして「自分だけではなく子や孫たちの問題として」お読みいただきたい一冊である。


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