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2013年07月30日

『君曜日-鉄道少女漫画2』中村明日美子(白泉社)

君曜日-鉄道少女漫画2 →紀伊國屋ウェブストアで購入

「鉄道少年と鉄道少女のさわやかラブストーリー」

いいマンガである。久しぶりに爽快な読後感を味わった。

 本作は、中村明日美子による鉄道少女漫画の2作目であり、前作同様、小田急線沿線に住む、登場人物が織りなすラブストーリーが描かれている。評者の見たところでは、あきらかに前作よりも面白い。
前作では、ケーキ屋の奥にある秘密の鉄道模型ジオラマ・スペースを中心に、そこに偶然集う人々、それぞれの群像が小田急線を舞台に描かれていた。


 舞台設定は、そのまま引き継がれているものの、前作では個別のエピソードがバラバラな上に、舞台設定に鉄道が用いられる理由が判然とせず、無理やりな印象すらあったのに対して、本作では、一人の鉄道好き少女と、彼女に好意を寄せる少年、そして、少女がひそかに思いを寄せるサラリーマンのエピソードだけに絞りこまれている。


 そのために、話の筋が一本通っているだけでなく、何よりも少年の一途さと無鉄砲さがとてもさわやかである。だからこそ本作を読んで感じたのは、鉄道と少年という存在の相性の良さであった。


 実は、熱心な鉄道ファンなのは少女の方であって、少年は、C58とD51の違いも分からないほどに、鉄道には無知である。だが、なんとか彼女のハートを射止めようとして、必死に努力をし、時に失敗を繰り返しながら、それでもめげずに前進を続けていく。


 それと並行して、はじめは怪訝な表情をしていた少女も、徐々に少年のことを理解していくと同時に、ほのかにあこがれていたサラリーマンへの想いをやがて断念することになる。


 最大の見せ場は、たまたま3人が同時に邂逅する機会が訪れ、その直後に、少年がサラリーマンに対して、以下のように告げるシーンだ。

「……あんたさあ もっとしっかりしろよ」
「もっとちゃんとしっかりしろよ ・・・俺もがんばるからさ」

 この、頼りなさげな中にも前向きさを感じさせるセリフからしても、実は本作の主人公は、鉄道に詳しい少女なのではなく、一途に思いを寄せる少年というべきなのだろう。その向こう見ずながらも、筋の通った前向きさ、無鉄砲さが、あたかも爆走する蒸気機関車のようであり、この少年こそが「鉄道」のような存在なのだ。


 一人の鉄道ファンとしていうならば、鉄道とは実物を愛でるものであり、だからこそ少女マンガのようなジャンルとは到底相いれないはずのもの、と決めつけていたのだが、本作を読んで、その印象は全く変わった。このような鉄道の楽しみ方もあっていい。


 (少女)マンガが好きな人、鉄道が好きな人、実に多くの人に本作のさわやかさを味わってほしいと思う。


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