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2013年03月25日

『鉄旅研究-レールウェイツーリズムの実態と展望』旅の販促研究所(安田亘宏、中村忠司、上野拓、吉口克利)(教育評論社)

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「鉄道そのものを楽しむ、成熟した旅行文化へ」

 本書は、JTBグループのシンクタンクである、旅の販促研究所が刊行している「旅のマーケティングブックス」シリーズの第6冊目にあたる。そうしたシンクタンクの存在そのものもさることながら、これまでにも「長旅時代(ロングツーリズム)」「食旅入門(フードツーリズム)」「犬旅元年(ペットツーリズム)」「祭旅市場(イベントツーリズム)」「島旅宣言(アイランドツーリズム)」といったユニークなテーマを掲げた著作が刊行されてきた。

 そして本書は、鉄道で旅すること、そのものを楽しむこと(レールウェイツーリズム)を主眼に、鉄道と旅の歴史的な関係の説明に始まり、さまざまな魅力的な「鉄旅」の事例がふんだんに織り込まれていて、それだけでも読んでいて楽しくなってしまう一冊である。


 だが、評者の関心を最も惹いたのは、第2章「鉄旅の実態」における「鉄旅調査」の結果であった。もちろん、インターネット経由の300サンプルに満たない調査データではあるけれども、こうしたテーマで行われた計量的な質問紙調査はあまり存在していないように思わ、その点でも、今日の旅行文化を理解する上で資料的価値のある結果と思われるし、何よりもその結果が面白いのである。


 詳細に記して本書購入の妨げになってもいけないので、さわりを述べるぐらいにしておくが、他にも選択肢がある中で、「意識的に鉄旅を楽しんでいる人は意外と多いことが確認」(P65)され、魅力的な路線や地域にあえて鉄道で旅行に行ったり、あるいは、鉄道そのものに乗ることを目的とする人も決して少なくなく、何よりもこれらの人々は旅行から得る満足度がかなり高いのだという。


 ここから伺えるのは、これまでただの移動手段でしかなかった鉄道が、そのものを旅行の目的として楽しむような、ある種の成熟した旅行文化が本格的に広まりつつあるということではないだろうか。


 一部の熱心な鉄道ファンにおいては、そうした旅行は以前から見られていたものだが、それが一般の人々へも広まりつつあるような、そんな動向が感じられるのである。


 実際に最近耳にした話では、島根県の出雲大社が若い女性を中心に大人気で、東京発の寝台特急は週末になるたびに満席になるのだという。


 寝台特急と言えば、飛行機や新幹線よりも遅く、そして値段も安くはなく、不便さや前時代的なものの象徴として、瞬く間に姿を消し、今や東京駅発の列車は一本しか残っていないのだが、それが逆に大人気と言うから、不思議なものである。


 だが、鉄旅の魅力が見なおされるのならば、それを通して、他の交通機関の魅力も見なおされる時が来るだろうし、そうした試みを繰り返し重ねていって、楽しみあふれる成熟した旅行文化がますます発展することを心から願うばかりである。


 旅行好きの人は勿論のこと、そうではない人に対しても、本書だけでなく、シリーズの他の著作も合わせてお勧めしたい。


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2013年03月24日

『マンガでわかる社会学』栗田宣義/著  嶋津蓮/作画  トレンド・プロ/制作(オーム社)

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「日本初のマンガで読む社会学テキスト」

 本書は、おそらく日本で初めてのマンガで読む社会学テキストである。といっても、100%のページがマンガで占められているわけではないが、各章ごとにマンガでのイントロダクションや概略説明がストーリー仕立てでなされた後で、数ページの「フォローアップ」という文字ページでさらに理解を深めるような構成となっている。

 授業で使うか、自習用にするかは迷うところだが、ノリがいいクラスならば、講義時間の前半をマンガの読解およびそれを元にしたフリートークなどにあてて(あるいは、マンガは読みやすいので事前に読んでおくことを課題としてもよいだろう)、後半を文字ページの内容を中心としたまとめにあてるといった構成も可能だろう。


 著者の栗田宣義氏は、常に斬新な試みを続ける一方で、研究内容には定評のある社会学者ということもあり、「フォローアップ」の文字ページの内容もしっかりとしているので、「マンガで学ぶなんて・・・」と敬遠せずに、初学者は一度手に取って見るとよいだろう。


 評者も学部生のころから、より分かりやすい社会学テキストはないものかと思案を巡らせてきたこともあり、このような形で、なんとか社会学の魅力を初学者に伝えようとするその著者の姿勢については、拍手を送りたいと思う。


 ちなみに学部生の頃の評者は、大学受験参考書で定着しつつあった「実況中継」スタイルの大学の講義テキストができないものかと思案していた。だが最近では、語り口調の社会学テキストも増えてきたので、より分かりやすさを重視するなら、本書のように思い切ってマンガをメインにするというのも、「アリ」な選択と言えよう。


 その一方で、気づいた点を1つだけ記しておきたい。


本書は「マンガでわかる」という斬新なスタイルをとりながらも、内容においては、きわめてオーソドックスである。すなわち「規範」「行為」「役割」「集まり」「社会化」といった基礎概念にあたるものを順番に押さえたうえで、やや各論的な内容として「ジェンダー」に触れ、最後に付録として調査法が紹介されている。


 こうしたスタイルの著作である以上、おそらく専門的な研究書よりは発行部数を多くすることを求められ、その分、「最大公約数」的にオーソドックスな内容にすることが求められたのではないかと推察する。


 だがそのことが、わざわざ女子大学生を主人公とするマンガをメインにしたことと、どこまでマッチングしているかという点には、やや疑問が残るといわざるをえない。マンガは、今日では多くの人が読むメジャーなメディアではあるが、登場人物の心情を掘り下げつつ、ストーリーをより身近に思わせて感情移入を誘うメディアであるならば、もっと女子大学生の日常生活をメインにした内容に徹底してもよかったのではないだろうか。


 具体的に言うならば、第6章でのジェンダーに関するもの(バイト先のカフェの店長からセクハラを受けている悩みなどが事例)であったり、そのあとのエピローグで触れられている様々な社会問題とその解決(反原発運動など)といった内容を冒頭に持って行った方が、読者がより関心を持ちやすかったのではないだろうか。


 これは昨今において、社会学テキストを作るときには、ほぼ誰しもが通らざるを得ない悩みでもある。今までならば、学問の道具立て(基礎概念)を教え込んでから、応用編として各論に進んでいったものが、そもそも学生たちの社会問題への関心の乏しさゆえに、まずその関心を喚起するところから始めなければならない、という問題があるのである。


 マンガを生かして、なおかつ登場人物をせっかく女性に限定してストーリー立てているのだから、あえて「最大公約数」を狙わずに、「一点突破全面展開」的に女子大生の目から見た社会とその問題から話を始め、そのための社会学へと進んでもよかったのではないだろうか(現実的な言い方をすれば、その構成ならば「女性のことを理解したければこれを読め」と男子学生にも薦めやすいように思われる。なぜか逆は想像しにくいのだが)。


 いずれにせよ、これからの入学後のシーズンに社会学を志す初学者だけでなく、関心があるならば、高校生や中学生…あるいは小学生にも、チャレンジしてみてほしい一冊である。


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『ポピュラー文化ミュージアム―文化の収集・共有・消費』石田佐恵子・村田麻里子・山中千恵[編著](ミネルヴァ書房)

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「ポピュラー文化のミュージアム化/ミュージアムのポピュラー文化化」

 待望の一冊である。子どものころ、博物館に出かけて、いつまでも飽きることなく展示物を眺めていたような興奮に近い感覚を持って読んでしまう著作である。

 日ごろ、研究書に対してそのような感覚を持つことはあまりないのだが、本書は、ポピュラー文化に関する様々なミュージアムを題材にした、その情報量の豊富さからしても、多量な展示物を眺めるときの、あの楽しさの感覚を持って読んでしまう著作である。


 思えば昨今では、ポピュラーな題材を扱ったミュージアムが増えてきた。本書の第8章で取り上げられているマンガ関連ミュージアムなどはその好例としてすぐに思いつくものだが、その中には大学と協力関係にあるものや、著名なマンガ家を記念したものなどが、いくつも存在する。


 これは、日本社会におけるポピュラー文化がその歴史的な積み重ねの中で、一定の成熟に達し、アーカイブされるほどのものになってきたということなのだろう。いうなれば、「ポピュラー文化のミュージアム化」という変化である。


 その一方で、ミュージアムそのものがポピュラーな存在になってきたという変化も存在するようだ。評者が担当した第9章の鉄道ミュージアムなどはその典型例だが、かつては軍国少年に対する科学教育の場であったものが、今日では、ノスタルジックな文化を消費する場へと変わりつつある。博物館といえば、おしゃべりをしていると怒られたような厳粛な場であったのが、今日のポピュラーなミュージアムでは、むしろ子どもたちが走り回るレジャーランドのような場であることが多い。これはむしろ、「ミュージアムのポピュラー文化化」ともいえる変化だろう。


 こうした2つの変化を、編者の一人である村田麻里子は、第1章において「ミュージアム・コンテンツの<ポピュラー文化>化」と「ミュージアム体験の<ポピュラー文化>化」とより正確に言い表している。


 その第1章も含まれた第一部では、こうした新たな現象をとらえるための、理論的な視座および調査方法の検討が行われている。そして続く第二部では、化粧品(第5章)、音楽(第6章)、映像コンテンツ(第7章)、マンガ(第8章)、鉄道(=マニア文化、第9章)、エスニック文化(第10章)といった具体的な事例の検討が行われている。


 巻末のおすすめミュージアムリストとあわせて、これらの事例やコラムの数々を見ているだけでも十分に楽しいが、しっかりとした研究アプローチ法を検討した第一部だけでなく、今後の行く末までも見据えた第11章と合わせて読む込むことで、こうした文化現象に対する理解が間違いなく深まることであろう。


 自らも参加している著作を高く評価するのには、やや躊躇するところがないわけでもないのだが、それでも本書は、昨今の日本のポピュラー文化研究書の中でも久々の傑作といってよい一冊だと思う。


 研究者だけでなく、ミュージアム好きの方に広くお読みいただきたい。


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