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2013年01月30日

『ライジングサン』藤原さとし(双葉社)

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「今どきの若者からみた自衛隊」

 本作は、自らも自衛隊入隊経験のある漫画家、藤原さとし氏によって書かれたマンガであり、現在『漫画アクション』で連載中である。

 主人公の甲斐一気は、「夢もとりえもない平凡な日々を送る」(裏表紙より)普通の若者だが、ある日の自衛官との出会いをきっかけとして、高校卒業後に予定していた会社への入社を取りやめ、自衛官を志すことになる。今のところ、本作が重点的に描いているのは、入隊してからの3か月間、正式に任官される前の自衛官候補生として厳しく鍛えられていく過程である。


 これまでにも、自衛隊を描いた漫画は決して少なくなかった。たとえば、かわぐちかいじ氏の『沈黙の艦隊』や『ジパング』のように、かなり高度で専門的に実戦部隊の様子を描いた漫画であったり、日辻彩氏の『突撃!自衛官妻』のような、面白おかしくネタ化した漫画などは存在していたのだが、本作のように、今どきの若者の目線から、いわゆるビルディングスロマンのように描かれたものはあまりなかったように思われる。


 この点において、ごく一般人の目線からリアルに、なおかつわかりやすく実態をとらえ、普通の若者が徐々に自衛官になっていく様子を描いた本作は、貴重な価値を持つと言ってよいだろう。


 「平和ボケ日本」と称されるようになってからすでに久しいが、この社会に生きる若者たちが自衛隊入隊というシビアな体験を通してどのように変わっていくのか、今後の展開を見守りたいと思う。


 ただ期待を込めて、やや辛口のコメントも記すならば、ヒューマンドラマの割合が多いがゆえに、単行本一冊当たりの情報量が少なく感じられる点は残念である。もっと自衛隊に関する、あまり知られていないような実態や情報を増やしてもいいのではないだろうか。


 読者への配慮やわかりやすくする工夫もあるのだろうが、女性キャラが頻繁に出てきたり、登場人物同士の葛藤や衝突を頻繁に描くのならば、別に素材が自衛隊でなくてもよいような気もしてしまう。


 この点で、シビアな体験が若者たちの成長にもたらす影響を描いたマンガとしては、韓国の徴兵制を取り上げた『軍バリ』(原作イ・ヒョンソク、漫画イ・ユジョン)のほうが情報量は多かったように思う。徴兵制の軍隊と志願入隊の自衛隊との違いはあるものの、『軍バリ』のほうが、徴兵後の男性主人公の変化に特化しつつも、一方で社会背景も要所要所に加味しながら描いていくことに成功していたのと比べると、本作は主人公のキャラ設定からしてもやや平板なものに思われなくもない(そのキャラの浅さが、現代日本の若者らしいのかもしれないが)。


 だが、いずれにせよ、法律論や制度論を真正面から論じることも重要だが、こうした文化的な表象を通して、自衛隊についての理解を進めていくことの必要性を教えてくれる作品として本作を評価したいと思う。


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