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2012年08月31日

『社会学の方法-その歴史と構造』佐藤俊樹(ミネルヴァ書房)

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「社会学のマージナリティ 」

 「社会学って何なの?」とは昔からよく聞かれる質問である。

 多くの社会学者が経験していることだろうが、「文学部社会学科」のような専攻に所属していると、「社会科学なのか、人文科学なのか、ハッキリしてくれ」と言わんばかりの質問を受けることがある。


 いわば、社会現象をお金の動きから解明する経済学、法律から考える法学、権力から考える政治学とも違うし、かといって文学や歴史学でもない。だがこうしたマージナリティは、それこそが社会学という学問の特徴なのだろう。


 そして、社会学が論じるのが得意で、かつ今日では重要な社会現象となっているものはいくらでもありうる。たとえば、家族や友人関係であったり、ジェンダーの問題、宗教やナショナリズムの問題等、これらはお金や法律の問題として割り切れる(説明ができる)社会現象ではない。
 


 さて、本書は東京大学教授の佐藤俊樹氏によって書かれた社会学史のテキストだが、まずもって面白かったのは、こうした社会学のマージナリティが、まさに「生まれながら」にして宿命づけられていたという点だ。


 それは本書で取り上げられた、何人かの「偉大な社会学者」に関するある共通点から理解することができる。


「マートンをのぞく五人がともに「ロタールの国」、すなわちライン川中流域の都市群、ストラスブールやハイデルベルグやフライブルグに縁があるのに気づいたときは、ぞくぞくした。」(P429)


 つまり、「アルザス・ロレーヌ(ドイツ語では、エルザス・ロートリンゲン)」地方として知られる、フランスとドイツとの、まさにマージナルな地域に、「偉大な社会学者」たちは深い縁を持っていたというのである。


 例えば、デュルケームが社会学を切り拓こうとした19世紀のフランスとは、市民革命や産業革命を経たのちに、そうした政治的経済的な進展だけによらない、新たな社会秩序が求められた時代であり、だからこそ、マージナルな学問としての社会学がそこで登場してきた。


 その際にデュルケームが、アルザス地方に縁持つユダヤ人(アルザス・ユダヤ人)であり、二重の意味でマージナルな存在で、アウトサイダーであったからこそ、今日の社会学につながる重要な出発点を記すことができたのではないかという。


 このように本書は、「偉大な社会学者」たちの学説を取り上げながら、「机上の空論」として並び立てて称揚するのではなく、むしろその人生や歴史的背景に分け入りつつ、かといってそこを不必要に掘り下げすぎずに、一貫したストーリーを持った社会学の歴史として描き出しているところに大きな魅力がある。


 著者に言わせれば、どうしても学説史のテキストや講義では、先達の学者を「偉大なる聖人」として扱ってしまいがちなのだが、「偉大」であるのはその学問的業績についてであって、むしろその個人としては、「人間くさい」背景を掘り下げてみたかったのだという。


 そしてその努力こそ、まさに本書を、人文科学的な視点(人生や歴史的背景の探求)と社会科学的な視点(社会学史)とのマージナルな魅力をもった一冊に仕立て上げているものと思われる。

 加えて本書の魅力を記せば、一人の社会学者によって、一貫して書かれた社会学史のテキストであるという点も重要である。というのも、専門分化の進む昨今において、こうしたテキストは共著で書かれることが多いし、「概説」の講義もオムニバス形式で担当されることが多いからだ。


 著者が、自分なりの一貫した視点で社会学の歴史をまとめる上で取り上げているキーワードは、「常識をうまく手放す」「社会が社会をつくる」(P4)というものである。


 これは、先にも記したとおり、社会学がマージナルな学問であるという点と大きく関連している。


 一見、主流の社会科学から外れているかに見えるからこそ、引いた目で「常識を手放す」ことができる。だが、結局のところ、社会学も完全に社会の外に出ることはできない。社会学自身も、あくまで社会の中で社会に影響を受けざるを得ないが、それでもそうした立場からも社会に影響を及ぼすことはできるのである(「社会が社会をつくる」)。


 デュルケーム、ジンメル、ウェーバー、パーソンズ、マートン、ルーマンへといたる流れをダイナミックに追いつつ、社会学的な思考の特徴をうまく捉えた本書は、できることなら、社会学を学び始めた大学生にはぜひ読んでほしい一冊である。ややボリュームのある著作だが、その文体はわかりやすく読みやすい。


 またタコつぼ化の進む今日にあっては、研究者が読んでも十分に読み応えがあり、面白く意義深い一冊だと思う。


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