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2011年08月31日

『”日常系アニメ”ヒットの法則』キネマ旬報映画総合研究所編(キネマ旬報社)

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「“日常系アニメ”に関する総合的研究」

 本書が取り上げている“日常系アニメ”とは、具体的な作品名で言うならば『けいおん!』『らき☆すた』といったような、ごく日常のことを、大きなメリハリもなく、淡々と描き出した一連のアニメのことである。

 いや、ここではわかりやすさを優先して、あえて思い切り価値判断を込めた言い方をしよう。それは、驚くほどに“つまらないアニメ”のことだと。


 もちろん、これは私個人の感じ方であることをお断りした上で記せば、ドキドキハラハラのストーリー展開もなければ、感動的なエンディングもない。ただ、淡々とごくごく日常のことがつづられていくのだ。


 さらに続ければ、1970年代に生まれ、テレビアニメ全盛期に育ち、日常では味わえないような非日常的な興奮を、アニメ作品の数々から得てきた私自身からすれば、こうした日常系アニメがヒットすること時代、実に興味を引かれる現象である。


 あるいは、私と同じかそれ以上の世代の方ならば、こうした実感を共有していただけるのではないかとも思うのだが、一方で、こうしたアニメを好む若者たちに話を聞くと、また大変に興味深い回答が返ってくる。


 いわく、もはや日本社会の行き先は不透明化し、例えば就職活動一つとっても、なかなかうまくいかずに、安定した日々など想像し難い。そうしたリアリティを生きる若者たちにとっては、むしろほのぼのとした“日常的”なものこそが、ありそうもない“非日常的”なものに感じられるのだという。


 これはおそらく、ただ単にいくつかのアニメ作品がヒットしたということにとどまらない、大きな社会現象として捉えて行くべきことなのだろうと思う。


 この点で本書が評価に値するのは、その分析において、総合的な視点から進めているということである。すなわち、ただアニメ作品の内容を批評して終わりにするのではなく、製作者側に対する聞き取り調査やその背景の分析、あるいはアニメ作品の流通経路、そして何よりも、こうした作品が受け入れられる社会背景についての分析といったように、多角的な視点から検討が進められていることが本書の記述をよりシャープなものにしていよう。


 しいて言うならば、こうしたアニメの主たる視聴者やファンに対する込み入った調査がもし組み込まれていたならば文句無しだったのだが、この点は、メディア論者であるわれわれの課題と受け止めようと思う。


 いずれにせよ、本書は面白く読める著作であり、非常によく書けている著作だと思う。たとえて言うならば、学部4年生がこうしたテーマの卒論に取り組みたいといってきたときに、お手本とすべき参照文献の筆頭に挙がってくるような著作だと思う。
 


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