• 愛読者諸兄諸姉。週2回(火・金)ということで2007年5月にスタートしたぼくの書評ですが、近々100回目を迎えるところで一応決着ということにさせていただきます。

    つづきを読む
  • 高山宏の読んで生き、書いて死ぬ
    ―ぼくの中に貪婪の書評魔が帰ってきた―

    かつては一日に一冊読んだ。そして気に入ったものがあれば諸誌紙に週二、三冊は書評を載せてもらっていた。書評に名を借りた論文というスタイルで、よくものを書いた。読みについても魔と呼ばれ巧者と言われ、達人の名をたまわった。十年も前のことである。 長い長い中断が入った。

    つづきを読む
  • 紀伊國屋創業80年記念・連続セミナー“9 days talk live”
    「学魔・高山宏、知の系譜と人文科学の未来を語る」
    2007/9/8(土) 13:00~15:40 新宿・紀伊國屋ホール
    盛況のうちに終了しました。 講演レポートはこちらから-->

« 2008年05月09日 | メイン | 2008年05月16日 »

2008年05月13日

『実体への旅-1760年-1840年における美術、科学、自然と絵入り旅行記』バーバラ・M・スタフォード[著] 高山宏[訳] (産業図書)

実体への旅 →bookwebで購入

彼女に目をつけるなんて流石だね、と種村季弘さんに言われた

バーバラ・M・スタフォード著書・邦訳書-->

この百回書評もあと一回を残すところとなった。取り上げたい本は今年刊のものだけで10冊も積み残しているし、「仲間褒め」を頼んでくる友人一統もいて、あの「千夜千冊」最終段階の松岡正剛さんの苦労が、文字通り十分の一くらいはわかった。が、この7月に最終巻『ハリー・ポッターと死の秘宝』の邦訳が出てまたひとしきり大騒ぎになるであろうハリポタの最後のあらすじ同様、この書評欄も最後の一冊は前から決まっている。

最終回の前に今回、大著の多いバーバラ・M・スタフォードの著書の中でもとびきりの大冊『実体への旅』を紹介したい。これを書き始める5分だか10分だか前に、ちょうど訳者あとがきを校了したところだ。本年7月末~8月初めに書店に並ぶはずだ。ぼくが見て最高の本だと思うし、相手を一番わかるのはこの自分だと思えばこその千両「訳」者であるはず(たぶんそうでないケースが多すぎるから上手くいかないのだろうね)。訳文を批評の対象にしなければ、こういう書評もあり得るだろう。

スタフォードについては、展覧会のカタログということで厖大な図版いちいちにクレジット交渉が義務付けられるのに嫌気がさした“Devices of Wonder”一点を除いて、規模の大小にかかわらず、そのすべてを自分の手で訳そうと決心した。こんな相手は長の翻訳家人生でも初めて。愛すべきタイモン・スクリーチの著書ですら、あるタイミングから翻訳者は自分で他に見つけてという話にした。

それほどの相手なのだ。ぼくと周辺のわずかな人間のみ知って夢中になっていた「アルス・コンビナトリア」だのマニエリスムだのが、18世紀身体論と結び付けられ、やっと1980年代に流行を見始めたカルチュラル・スタディーズ系身体論の汗牛充棟の世界から一点図抜けた怪物となった“Body Criticism”(邦訳『ボディ・クリティシズム』)をもって、初めてある程度のスタフォード・マニアがうまれたというのが実情だ。見たこともない図版が200だ、300だと詰まった造本に魅了されてのことだが、読み出すとそれをそっくり文字化したようなハイブリッドな「とんでる」内容なので、ドツボにはまるか、ゲロ吐いて横向くかだ。

この書き手、何者?と思い、慌てて前著“Voyage into Substance”『実体への旅』)、処女作“Symbol and Myth”(『象徴と神話』)を買い求めたマニアは、きっとぼく一人ではあるまい。

いわゆる景観工学・景観史の人々が一介の「英文学者」高山宏の名にたえず触れざるを得ないのは、1980年代にひょんなことでぼくが始め、徹底してやったピクチャレスク論のせいだが、やってみて驚いたのは、万事に遅い日本洋学界のみか、本場英仏でのピクチャレスク研究の遅滞ぶりだった。火付け役とされるDavid Watkinの“The English Vision”でも1982年。結果的にワトキン本に依拠することになったぼくの『目の中の劇場』が1985年。その只中に問題の“Voyage into Substance”『実体への旅』)。大、大、大ショックの一冊だった。

ピクチャレスク美学を、ヒトの側のサイコロジーを自然に押しつけて捏造したニセの「自然」と括り、それを突破するものとして、王立協会はじめ西欧諸科学アカデミーに宰領された(キャプテン・クック、ヴァンクーヴァー、ラペルーズ等の)「探検家」たちの「現場で」「直(じか)に」現象と対峙する「事実の文芸」と称すべき単純直截の目と言葉がうまれてきた、とする。聞いたこともない探険家たちの紀行報告の文章、見たこともない現地風景のスケッチといったディテールの面白さが、あっという間にハバーマスやブルーメンベルクの百年単位の壮大な近代史ビッグ・セオリーに絶妙にマッチさせられていく。

これだけ自在な超学者は、これから先も20年、30年、出てこまい。種村季弘氏を連想させるが、「さすがフェリックス・クルルをうんだ独墺圏の出身者。詐欺ではかなわないね」という見事なスタフォード評は、故種村氏の口から。流石だ。ウィーン出身の超の付くアートフルな書き手。「詐欺」とも訳せる「アートフル」がスタフォード鍾愛のキーワードであることなど、スタフォード・マニアにいまさら断るまでもあるまい。


バーバラ・M・スタフォード著書・邦訳書

1. Symbol and Myth : Humbert De Superville's Essay on Absolute Signs in Art
2. Voyage into Substance : Art, Science, Nature and the Illustrated Travel Account, 1760-1840
3. Body Criticism Body Criticism : Imaging the Unseen in Enlightenment Art and Medicine
ボディ・クリティシズム ボディ・クリティシズム-啓蒙時代のアートと医学における見えざるもののイメージ化
4. Artful Science Artful Science : Enlightenment Entertainment and the Eclipse of Visual Education
アートフル・サイエンス アートフル・サイエンス-啓蒙時代の娯楽と凋落する視覚教育
5. Good Looking Good Looking : Essays on the Virtue of Images
グッド・ルッキング グッド・ルッキング-イメージング新世紀へ
6. Visual Analogy Visual Analogy : Consciousness as the Art of Connecting
ヴィジュアル・アナロジー ヴィジュアル・アナロジー-つなぐ技術としての人間意識
7. Devices of Wonder Devices of Wonder : From the World in a Box to Images on a Screen
8. Echo Objects Echo Objects : The Cognitive Life of Images