• 愛読者諸兄諸姉。週2回(火・金)ということで2007年5月にスタートしたぼくの書評ですが、近々100回目を迎えるところで一応決着ということにさせていただきます。

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  • 高山宏の読んで生き、書いて死ぬ
    ―ぼくの中に貪婪の書評魔が帰ってきた―

    かつては一日に一冊読んだ。そして気に入ったものがあれば諸誌紙に週二、三冊は書評を載せてもらっていた。書評に名を借りた論文というスタイルで、よくものを書いた。読みについても魔と呼ばれ巧者と言われ、達人の名をたまわった。十年も前のことである。 長い長い中断が入った。

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  • 紀伊國屋創業80年記念・連続セミナー“9 days talk live”
    「学魔・高山宏、知の系譜と人文科学の未来を語る」
    2007/9/8(土) 13:00~15:40 新宿・紀伊國屋ホール
    盛況のうちに終了しました。 講演レポートはこちらから-->

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2007年09月08日

■講演レポート「学魔・高山宏、知の系譜と人文科学の未来を語る」

紀伊國屋創業80年記念・連続セミナー“9 days talk live”
第75回新宿セミナー@Kinokuniya
高山宏トークライヴ
「学魔・高山宏、知の系譜と人文科学の未来を語る」

2007/9/8(土) 13:00~15:40 新宿・紀伊國屋ホール

上記トークライヴは盛況のうちに終了しました。高山先生、お越し下さったみなさま、ご協力下さったみなさまに、この場を借りてお礼申し上げます。

アイボリーのスラックス、シックな和柄アロハ、サングラス姿の高山先生が登場し、舞台の縁に立たれた瞬間から、私たちはうねりと透徹のタカヤマ・ワールドに巻き込まれることになりました。

「人文科学のエッセンスを伝え、31年の英文学研究から見えてきたこと、未来への展望を語る」という趣旨説明の後、記憶術、王立協会、暗号学、デフォー、ピクチャレスク、百科事典といったテーマが次々と連鎖しながらエピソード満載で語られ、深く響く声と粋でしなやかなお話しぶりに圧倒され魅了され、そして笑わされ通しの二時間半でした。1660年、王立協会の設立以降、大きく展開する近代(英国)の表象文化史、観念史。その思想、その知が現在に接続することを確かに感じ取れる講演で、「文学をメディアとして位置付けよう」「“Literature”(文字で書かれたすべてのもの)全体の中で“Imaginative Literature”(文学)を位置付けよう」という主張には説得力がありました。

締めは“History of Ideas”。「脱領域」をマニフェストに謳い実践したクラブ・オヴ・ヒストリー・オヴ・アイディアズのこと、“Dictionary of the History of Ideas”のこと、Symbol、Myth、Metaphorが人文科学を支えるテーマであった60年代後半~70年代初めの雰囲気――。詳しく伺いたかったのですが、時間が足りませんでした。例えば“reality”(realとはどういうことか)、例えば“Encyclopedia”(知識を囲いこむ、とはどういうことか、時代や地域を横断して一つの歴史として記述する中で自ずと領域を超えるセンスが養われる)など、自分なりの“Idea”、新しい人文科学へのアプローチ方法を見つけて欲しい、というメッセージをいただいて、講演の幕が閉じました。

終演後、NTT出版『超人 高山宏のつくりかた』刊行記念サイン会も開催。黒の見返しに、銀の流麗な筆記体。為書・イラスト・学魔ならではのフレーズ(“悪魔的にあなたのぼく”)付き。美しく、洒落たサインでした。

ライヴ性の強い講演でしたので、テキストでは再現しきれません。復習には『近代文化史入門-超英文学講義』(または『奇想天外・英文学講義』)を中心に先生の著書を読まれるのが一番かと思いますが、いかがでしょう?
・・・として済ませるのも乱暴な気がいたしますので、以下に講演内容のメモ(つや消しの感がありますが)と講演中に言及された本のリストを載せます。

なお、当ブログ「高山宏の読んで生き、書いて死ぬ」へのトラックバック歓迎です(高山先生より)。お待ち申し上げます。

(文責:紀伊國屋書店「高山宏トークライヴ」企画運営スタッフ一同)




    ■記憶術(Ars Memorativa)

    ・本が貴重品であった中世~ルネサンス期にキーとなるのは記憶
     基本的文献を頭の中にアーカイヴ

    ・メモランダム/速記/写本 ―哲学の歴史を大きく変える

    ・記憶術の中から分類学が発生。王立協会の言語革命にもつながる

    ・記憶vsメモ。メディアとは何だろう?

    ■1660年と1966年

     1660年―王立協会の設立、デフォーの誕生
            ヨーロッパ文学・文化の転換点、近代の始まり

     1966年―フーコー『言葉と物』とフランセス・イエイツ『記憶術』が
           同じ瞬間に世に出たことが20世紀後半の人文科学の
           展開の鍵。1660年代を捉える視座

     [→高山宏『メデューサの知』]

    ■ロンドン王立協会

    ○設立の背景に、30年戦争に続くピューリタン革命。厭離穢土の切迫

    ○virtuosi(自然科学系学者集団)による“知的吉本興業”
     eccentric(イギリスで育まれてきた不思議な文化、sporting、
     周囲を喜ばせる・驚かせる)

    ○普遍言語運動
    ・王立協会による普遍言語の追求はambiguousな言語を否定
     文学的言語が封殺された300年

    ・薔薇十字団の思想に基づく教育啓蒙的秘密結社という性格

    ・ベイコン主義と、ヤン・コメンスキー(ボヘミアで薔薇十字団の親分、
     1640年代にロンドンに亡命)
     ――自然科学にウェイト、ラテン語ではなくヴァナキュラー(英語)
        による万人のための教育、言葉とモノの乖離を超克する方法
        としてヴィジュアルも導入(コメンスキー『世界図絵』)

    ・ジョン・ウィルキンズとライプニッツ
     universal languageと0/1 Binary

    ・言葉がrealでない、universalでないと悩んだ末に行き着くのが、
     絵や0/1 Binary

    ・文学とメディアの関係

    ■暗号学

    ・サミュエル・ピープスの日記(1660/1/1~1669/12/31)は
     記述中に謎の暗号を含む

    ・この時期、ヨーロッパ最強の暗号文化
     王立協会の普遍言語運動と表裏


    ■ダニエル・デフォー(1660-1731)

     ・王立協会の設立(1660年)~確立期にその生涯が重なる

     ・ジャーナリスト、商人、株の投機、プロジェクター(社会的発明家)、
      パンフレッティア(250余のパンフレットを通して提言)、変節者、
      スパイ、友人に王立協会員多し

     ・「メルカトール・サピエンス(知ある商人)が、これからの世界を
      動かしていくだろう」(デフォー)

    ■『ロビンソン・クルーソー』(1719年)

    ○従来は
     大塚史学/イアン・ワットの小説社会論的(中産階級勃興の象徴)
     /カルチュラル・スタディーズ的(帝国主義、植民地支配の表現、
     ニュー・コロニアリズム小説のはしり)な読みばかり
     
    ○デフォーを捉える新しい視座
    ・「僕の名前は Robinson Kreutznaer なのに、イングランド訛りで
     Robinson Crusoe と呼ばれている」
     Robinson Crusoe>Robinson Kreutznaer>Rosenkreuzer
                                   (薔薇十字団)
     ロビンソン・クルーソーが薔薇十字団員であるかもしれない可能性
     [→岩尾龍太郎『ロビンソンの砦』]

     cf.) メルヴィル『白鯨』の出だし“Call me Ishmael.”

    ・詳細なデータ、詳しい記述 → リアルという感覚が生まれる

    ・ウンベルト・エーコ『前日島』
     『ロビンソン・クルーソー』を投影
     ――哲学者(記号論)・小説家であるエーコはどう捉えているか

     エマヌーエレ・テサウロも登場 ―ゴス(倒錯、恐怖、流血)の
     状況がヨーロッパを席捲した16世紀終わり~17世紀初めに
     テサウロは「芸術は退屈している人を驚かせれば、それでよい」

    ■real/fact/data

    ○OEDによると
     “real”1601年初出/“fact”1632年初出/“data”1646年初出

    ○“fact”と“data”
    ・“fact”“data”はピューリタンが持っている日常的感覚
     ピューリタンから資本主義が生まれた

    ・だからこそピューリタン革命の結果成立した王立協会に、また
     スウィフトやデフォーに、“fact”“data”の概念が流れ込み、
     virtuosiによってその意味が大きくなった

    ○“real”と“uncertain”
     1660年から50年の間にデフォーのリアリズムに行き着くのはなぜ?
     ――realの強迫観念。世界に実体がないからこそ
        実体をこの手に掴みたい(palpable)
        17世紀、“substance”は哲学用語の最先端であり、
        17世紀後半、“uncertainty”が時代のキーワード。
        現代の問いでもある。確実なものはないのか?
        確実でないものを確実にする方法はないのか?

     [→J.ロック『人間悟性論』をぜひ読んでほしい
       ;哲学書は英語で読むと分かりやすい]

    ■百科事典

    ○encyclopediaは知識・教養を/enclosureは土地を囲い込む
     encyclopediaとは何だろう?改めてゼロから考えてみよう

    ○Encyclopedia Britannica
    ・エディションごとに一変。とりわけ15th ed. は画期。序論で一巻。
     ぜひ見てほしい

    ・発行所はエジンバラ。初期のBritannica執筆陣は
     スコットランド啓蒙主義の経済学者・政治学者ばかり。
     マニフェストに「English(イングランド人)には書かせない」

    ・15th ed. の序論巻のどのページにもサークルがたくさん
     書かれている。なぜ円なのか?
     「百学連環」=西周によるencyclopediaの訳語
     [→世界出版文化史展「百学連環-百科事典と博物図譜の饗宴」
     9/22~12/9、印刷博物館]

    ■スコットランド文化

     スコットランド(エジンバラ)vsイングランド(ロンドン)
      cf.) 明治維新期の「仙台(“伊達者”)vs 東京」
     ・Encyclopedia Britannica
     ・ハリポタも「エジンバラvsロンドン」の構図で説明がつく
     ・19世紀アメリカ合衆国を支える思想はスコットランド啓蒙主義

    ■ピクチャレスク(the Picturesque)

    ・世界を一枚の額縁に閉じ込める、世界を切り取る、コンポジション
     「絵になる」とは?

    ・18世紀演劇の役者絵(舞台上の役者の身振りをスケッチ)
     →タブロー・ヴィヴァンというジャンル

    ・クロード・ロラン・グラスとAgainst Nature
     ――自然に背を向け、クロード・ロラン・グラス(楕円形の手鏡)に
        映して肩越しに風景をスケッチ、セピア・トーン
     [→J・K・ユイスマンス『さかしま』の英訳は“Against Nature”]

    ○18世紀限定の現象。なぜ18世紀に突然現れピークを迎えたのか?
     ――背景にジャコバイトの反乱
        イングランドがスコットランド貴族を殲滅させ、その広大・景勝な
        土地を手に入れた時、新しい美意識(picturesque、sublime)
        と土地所有の欲望が生まれる
        測量士を兼ねた画家を伴い風景を描かせる=土地所有の感覚

     ――絶対王政のフランスに対抗
        イタリアを模倣。イタリアから絵を買い(あるいは画家に模写させ)
        三次元の庭として再現したのが、英国式風景庭園
     [→ピーター・グリナウェイ『英国式庭園殺人事件』
                原題“The Draghtsman's Contract”]

    ■新しい人文学へ

    ○1970年代後半~1980年代の荒俣宏に、人文科学が生きていく
     ための手掛かりがある
     [→荒俣宏「暗号学左派」(『別世界通信』に収録)
       ;王立協会による普遍言語構想の17世紀後半における意味]

    ○デフォー、平賀源内、エドガー・アラン・ポーの三人組にこそ
     “文学とは巨大な社会的構造”と捉える手がかり

    ○「百科全書的」(ノースロップ・フライ)、百科事典の内容を何人か
     のキャラクターで運用してみせる小説、小説の姿を借りた百科事典
     ウンベルト・エーコ、佐藤亜紀、高野史緒、宇月原晴明

    ○Fact/Fiction、History/Story
     二項対立ではない
     語源レベルで捉えつなぐ感覚・洒落が、人文科学には大事

    ○History of Ideas
    ・クラブ・オヴ・ヒストリー・オヴ・アイディアズ(観念史派)、
     最初のマニフェストに脱領域宣言

    ・“Dictionary of the History of Ideas”[観念史事典]
     (1968-1972)  邦訳:平凡社『西洋思想大事典』
     これを上回るレファレンスは未だなし。ぜひ見てほしい
     哲学事典の中で唯一、“Uncertainty”という項目あり
     Symbol、Myth、Metaphorは、60年代後半~70年代初めに
     人文科学を支えたプライドあるテーマであり、文学が他と
     違う根本的な原理であると断言できるキーワード。
     『西洋思想大事典』はその方針で項目分配と記述をした

    ・学魔をつくる方法=“History of Ideas”。履歴書の職業欄に
     一語と言われたら、“Historian of Ideas”と書くつもり



    【参考】

    高山宏『近代文化史入門―超英文学講義』(講談社学術文庫)
        または『奇想天外・英文学講義』 ※品切重版未定
        『超人 高山宏のつくりかた』(NTT出版)
        『表象の芸術工学』(工作舎)

    ミシェル・フーコー『言葉と物』(新潮社)

    ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』〈〉〈〉(東京創元社)
              『前日島』(単行書/文庫〈〉〈〉)(文藝春秋)

    ダニエル・デフォー『ロビンソン・クルーソー』(完訳あり

    岩尾龍太郎『ロビンソンの砦』(青土社) ※品切重版未定

    ハーマン・メルヴィル『白鯨』

    J.ロック『人間悟性論』
    Locke, John“An Essay Concerning Human Understanding”

    J・K・ユイスマンス『さかしま』(澁澤龍彦訳、河出文庫)
    Huysmans, J. K. “Against Nature

    ピーター・グリナウェイ『英国式庭園殺人事件』(紀伊國屋書店)

    荒俣宏「暗号学左派」(『別世界通信』月刊ペン社→ちくま文庫)
                ※品切重版未定

    ノーマン・コーン『千年王国の追求』(紀伊國屋書店)
                ※絶版、ノーマン・コーンは2007年7月物故

    Wiener, Philip P. (ed.)
    “Dictionary of the History of Ideas”(古書として入手可能
    平凡社『西洋思想大事典』1~4+別巻

    9/22~12/9、印刷博物館「百学連環-百科事典と博物図譜の饗宴」


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