• 愛読者諸兄諸姉。週2回(火・金)ということで2007年5月にスタートしたぼくの書評ですが、近々100回目を迎えるところで一応決着ということにさせていただきます。

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  • 高山宏の読んで生き、書いて死ぬ
    ―ぼくの中に貪婪の書評魔が帰ってきた―

    かつては一日に一冊読んだ。そして気に入ったものがあれば諸誌紙に週二、三冊は書評を載せてもらっていた。書評に名を借りた論文というスタイルで、よくものを書いた。読みについても魔と呼ばれ巧者と言われ、達人の名をたまわった。十年も前のことである。 長い長い中断が入った。

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  • 紀伊國屋創業80年記念・連続セミナー“9 days talk live”
    「学魔・高山宏、知の系譜と人文科学の未来を語る」
    2007/9/8(土) 13:00~15:40 新宿・紀伊國屋ホール
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2007年06月22日

バルトルシャイティス著作集 1 『アベラシオン-形態の伝説をめぐる4つのエッセー』 J.バルトルシャイティス[著]種村季弘、巌谷國士[訳](国書刊行会)

アベラシオンアナモルフォーズイシス探求鏡

デザイン愛への誘惑者

極私的なことでいえば、今年2007年上半期最大の欣快事は、リトアニア出身の幻視家ユルギス・バルトルシャイティス(Jurgis Baltrušaitis)の『アベラシオン』および『イシス探求』が重版なり、久しぶりに、バルトルシャイティス著作集(全4巻)が揃って購え、揃って読めるようになったことである。

極私的というのは、後に企画魔とか知の総合商社とかいわれることになるぼくの最初の「企画もの」が、30になってすぐのこのバルトルシャイティス著作集だったからで、故澁澤龍彦氏の面晤の栄に浴すことができた初めてにして実は終りの唯一の機会を、この企画相談のための北鎌倉行きが恵んでくれたからである。当時国書刊行会にいた宮崎慶雄氏とつれだって鎌倉にお邪魔して夜っぴいての楽しい歓談の様子は、拙著『ブック・カーニヴァル』に懐しく綴ってある。本当に面白い人だった。

画期的といわれた「東西庭園譚」他、澁澤氏の文章のいたる所に顔を出すバルトルシャイティスという異様な名が気掛りでならず、手に入れた『アナモルフォーズ』の目次構成と溢れる図版のもの珍しいことに仰天し、そのどんぴしゃのタイミングで、某版元での澁澤監修バルトルシャイティス作品集企画が頓挫したという噂を聞いたぼくは、ぼくなりの腹案をもって澁澤氏と向い合ったのである。そうか、では『アナモルフォーズ』は君が、『イシス探求』は詩人学究の有田忠郎氏が適任だと澁澤氏はいい、『アベラシオン』を自分と種村[季弘]氏で、『幻想の中世』(Le Moyen Age fantastique : antiquités et exotismes dans l'art gothique)は辻佐保子氏でいこうと仰有った。そして、書き込みがあちこちにある貴重なバルトルシャイティス本を、コピーをとったら返してくれればよいからといって、若造二人にどんっと貸してくれた。

辻邦夫夫人はいかにも手堅い美術史家らしく、面白おかしそうな後のバルトルシャイティス本ばかりやるのは変だ、古代・中世の東中欧域の図像学を試みた初期の作品をこそと仰有って、バルトルシャイティスの<今>性をはっきり売ろうとしていたぼくの意図とはいきなりずれ、では人選を改めてといってのんびりしている間に、別の版元から『幻想の中世』が出てしまった。第一、やがて澁澤氏が他界されてしまい、企画自体腰くだけになりかかったところで、『アベラシオン』の独訳(Imaginare Realitaten, 1984)を入手、これを種村氏にプレゼントしたところで一挙に愁眉を開き、巖谷國士氏との夢のコンビの共訳なった。企画進行中の1978年に出た老大家の新刊『鏡』を、『幻想の中世』の代わりに入れることに決め、当時急に親しくなっていた才人美学者の谷川渥氏に頼んで、企画は体をなした。

遅れて却って良かったのは、1980年代に入って、大詩人イヴ・ボンヌフォワが監修してバルトルシャイティスを改めて世に出そうというガリマール社の「逸脱の遠近法」叢書が出たからである。ぼく担当の『アナモルフォーズ-光学魔術』(1984)に一番大きな増補が加わり、長い歪曲遠近法の歴史が中国の話で尻切れとんぼに終る感のあった旧版を一挙にジャン・コクトーや『セミネール』(1973)のジャック・ラカンへと開いた絶対不可欠な文章が出て、『アナモルフォーズ』は画竜点睛をとげた。

澁澤・種村ブームと俗称される映像的想像力に満ちた百学連環の知に決着のついた1990年を迎えてすぐのバルトルシャイティス著作集全4巻は、世界的にみても最高最良の幻想文学・文化論をつくりだした澁澤・種村両大人(うし)の文業にも画竜点睛をとげさせたものであるということが、監修者としてのささやかな誇りと自負である(勿論、澁澤氏亡き後にぼくに監修者を名乗る意力のあったはずはない)。心残りは『幻想の中世』の続巻たる『覚醒と驚異』を積み残したことで、後、親しい大仏教学者でオリエンタリズム研究の第一人者、彌永信美氏に頼んで平凡社刊をめざしたが、もうかなり経ってしまっている。

ロマン派を<学>として今日に媒介するゲーテの、<今>に生きるべき最大の業績は、形態学(morphologia)である。それは実は古代の学ないし術だったのを16世紀マニエリスムがロマン派に媒介したものだったことをバルトルシャイティスが明らかにした。だから同じ西欧月光派の精神史を循環史観として掘り起こそうとしたG・R・ホッケの『迷宮としての世界』(1957)の最有力の霊感源が『アベラシオン』(1955)や『アナモルフォーズ』(1957)であるのは当然なのだ。と書くだに、A.ブルトンの『魔術的芸術』(1957)を含め、1950年代後半に爆発したこのモルフォロジカルな知とは何だったのか。

動物に似る人の顔、聖像に似る石の模様、森に似るカトリック聖堂、そして楽園に似る18世紀ピクチャレスク庭園――「形態の伝説をめぐる4つのエッセー」と副題される『アベラシオン』を、デジタルを装う永遠の「類比・類推」の術(アルテ)たるべきデザインを愛する人たちに、改めてお奨めしよう。





バルトルシャイティス著作集

アベラシオンアナモルフォーズイシス探求鏡

  1. 『アベラシオン-形態の伝説をめぐる4つのエッセー』
    種村季弘・巌谷國士 訳
    ---“Aberrations : essai sur la légende des formes”

  2. 『アナモルフォーズ-光学魔術』
    高山宏 訳
    ---“Anamorphoses ou Thaumaturgus opticus”

  3. 『イシス探求-ある神話の伝承をめぐる試論』
    有田忠郎 訳
    ---“La quête d'Isis - essai sur la légende d'un mythe”

  4. 『鏡-科学的伝説についての試論、啓示・SF・まやかし』
    谷川渥 訳
    ---“Le miroir : essai sur une légende scientifique, révélations, science fiction et fallacies”


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