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2009年04月19日

『奇跡のリンゴ』 石川拓治(幻冬舎)

奇跡のリンゴ →bookwebで購入

 よく売れている本だと聞いて読んでみたのだが、うわさどおりにすごい本であった。青森県津軽平野のリンゴ農家の木村秋則さんという方が、無農薬農業というものがあることを偶然に知って、自分もそれをリンゴ栽培でやってみようと思い立ち、7年間の壮絶な努力の結果、その夢を実現した物語である。
 
 現代のリンゴ栽培の姿は、農薬をふんだんに使って害虫による被害を避けながら、品種改良をほどこし、肥料もたっぷり与えて、生産性を上げるための努力を積み重ねて到達したものである。その結果、確かに同じ面積のリンゴ畑で、昔より格段に効率よくリンゴを生産できるようになった。が、その反面、リンゴの木自体は、農薬と肥料に守られた過保護な環境でしか実を結ばないひ弱なものに変わっていった。

 そのような状態で、農薬の使用を突然中止すれば、ひ弱な木は自力では害虫から身を守ることはできず、あっという間に葉が虫に食われて、果実はおろか花すら咲かない木に変わってしまう。農薬なしでリンゴの木を守るためには、害虫が嫌う何かを見つけて散布するか、害虫を手でつまんで取り除くかしかなかろう。木村さんは、何年もこれをやった。酢が虫除けに効くと聞けばいろいろなタイミング、いろいろな濃度で散布してみるし、泥水が効くと聞けばそれでやってみる。また油が効くと聞けば油を木の幹に塗ってみる。でも効かない。虫を指でつまんで取り除く作業も、800本もあるリンゴの木にはほとんど無力である。

 でも、それしかやってみることはなく、リンゴが1個も収穫できない年が何年も続いた。生活を支えるために、冬季の出稼ぎや、夜のアルバイトもやった。変人扱いされるだけでなく、周りのリンゴ畑からは、発生した害虫や木の病気が移ってくると嫌われ、木村さんは孤立していった。

 万策が尽き、首をくくろうと夜の山へ深く分け入ったところで、人手の加わっていない自然林のたくましさに気づく。そして、その秘密が土にあることに思い至る。そこで、リンゴ畑の土を山の土のようにしようと思いつく。草は刈らない。地中の窒素を増やす働きをする芋を植える。その他の野菜も一緒に植える。これによって、リンゴの木は少しずつよみがえる。そして、ついには実をつける力を取り戻す。

 ここから先は、下手な要約より、直接この本を読んでもらうのがよかろう。

 この本の言葉を借りると、「リンゴの木は、リンゴという果実を生産する機械ではない。リンゴの木もまた、この世に生を受けたひとつの命なのだ。」 

 このリンゴの木を、自然から切り離し、農薬と肥料漬けにした現代栽培法は、欲望によって肥大化した文明の一面であり、木村さんの闘いは、この人間の欲望から、リンゴの木を救い出し、元の姿に戻す闘いであった。そして、この木になったリンゴはとてもおいしいそうである。よく売れている本だから、すでに書評も多いだろうが、この読後の感激を忘れたくなくて、これを書かずにはいられなかった。