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2006年09月01日

『無限と連続-現代数学の展望』遠山啓(岩波新書)

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 名著として定評のあるこの古い本を、最近読みなおす機会があった。学生時代に読んで、数学へのあこがれをかき立てられた本であったが、今読みなおしても、なお感動できることにあらためて驚かされた。実は、ちょっと調べたいことがあって、確認のためにぱらぱらと眺めるだけのつもりだったのだが、読み出したらやめられなくなって一気に最後まで読んでしまったのである。

 この本では、数学の中の基本的な(しかし奥深い)話題を四つ選んで、とてもやさしく、かつ丁寧に解説してある。一つ目は無限集合の大きさを測る話、二つ目は群などの抽象代数の考え方、三つ目はトポロジー、四つ目は変換と幾何学の話である。式はほとんどなく、どの話題も身近なところから説き起こして、歴史的背景、携わった数学者の立場や信念などにも立ち入りながら、いつの間にか読者を引き込んでしまう。具体的なイメージが持ちやすい例や、考え方を端的に理解できるたとえなどもたくさんちりばめてある。

 たとえば、無限集合の大きさを比較する話題では、ふたつの集合の間に1対1対応がとれるときに、それらが同じ大きさの無限大であるとみなすという定義から出発して、全体がその一部と同じ大きさであるなど、有限のものを数えているときには起こりえない不思議な世界へ連れて行ってくれる。と同時に、のような無限という禁断の世界を開拓した数学者カントールが、その後心の病に冒されたことなども紹介し、数学が先人の血のにじむような努力と犠牲によって作り上げられてきたものだという厳粛な歴史も教えてくれる。

 また、トポロジー(この本では「トポロギー」と表記されている)の話題では、距離の概念から出発して、閉集合に到達した後、今度は、閉集合から出発し直して、より高い位相空間という地点に登る発展の道を示すと同時に、この道を「推理のスイッチバック」と呼んで、これが、数学理論を作る上での常套手段であることなども紹介している。また、「同じ集合に対しても、閉集合の指定が多ければ多いほど位相は弱くなる」などの解説は、通常の教科書で勉強していたのではなかなか悟ることのできない
考え方の勘所とでも言うべきものを、あっけないぐらいにさりげなく、そして惜しげもなく教えてくれる。

 と、いろいろ紹介しようと試みながら、私なんかの下手な解説では、この本のすばらしさはとても表せないという非力を感じざるを得ない。話は、ギリシャ時代へ飛んだり、ルネッサンス時代へ飛んだりと、広い知識がおしゃれな織物のように組み合わされるが、決して博識の押しつけではなくて、優しさにあふれた本である。


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