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2006年09月18日

『グーグル Goole-既存のビジネスを破壊する』 佐々木俊尚 (文春新書501)

グーグル Google-既存のビジネスを破壊する →bookwebで購入

 1998年にインターネットの検索エンジン技術を携えて設立されたグーグルが、あっという間に、米国ハイテク企業の中でマイクロソフトに次ぐ第2位の地位に駆け上がり、さらに拡大しつつある実態と、その背景に流れているインターネット社会の変化の方向を、わかりやすく解説した本である。
 ただし、アメリカンドリームを実現したこの会社を単純に賛美する成功物語ではない。グーグルが手に入れ、さらに拡大しようとしているインターネット社会の権力の構造に読者の目を向けさせ、警告を発している書でもある。

 検索は、ほしい情報がどこにあるのかを見つけてくれるものであり、商品の流通やサービスの提供などの経済活動の基盤となると期待されて、早くから注目され、多くのIT企業がそのための検索エンジンを開発してきた。そのため、グーグルが設立された当時、インターネットの検索エンジンはすでにたくさんあった。しかし、それらのエンジンがウエブページの重要性を評価するための自動認識の仕組みの裏をかいて、検索結果のトップに自分のページを持ってくる工夫が横行したために、検索結果が利用者の目から見てごみの山になり、検索機能は急速に役立たなくなりつつあった。

 そんな時、裏をかくことの難しい新しい検索エンジンを開発したのがグーグルである。これによって、利用者から見るとインターネット検索が役に立つものに復活し、同時にグーグルは、一人勝ちによって現在の力を獲得した。
 さらにグーグルは、キーワード広告というアイデアによって、バナー広告や、ポータルサイトサービスや、さらに従来からのTV広告の世界までをも脅かしているという。また、検索から排除すべきものというレッテルをグーグルに貼られると、もはやインターネットの世界では生きていけないほどに、グーグルは権力を持ちつつあるという。
 興味深いと同時に恐ろしいと感じることは、グーグルのこの躍進が、何かずるいことや強引なことをやって得たものではなく、人々が自らインターネット社会の恩恵を受けたいと思って行動する結果だという点である。たとえば、現在、グーグルは gmail というとてつもなく快適なインターネットメール環境を希望者に無料で提供している。また、地域は限定されているものの、希望者が無料で無線LANに接続できるサービスも開始しようとしているとのことである。
 人々が喜々としてこれらのサービスを享受する背後で、グーグルは、各個人がメールや検索でどのような情報をやりとりしているかについて、膨大なデータを蓄積しつつある。そしてこれが、効果的に広告をだすための基礎データとして役立ち、グーグルの本業である検索とキーワード広告の力ともなる。

 グーグルが目指しているものを、著者は、アテンション・エコノミーという言葉で表現している。これからの時代は、金や時間や生産量をどれだけ多く持っているかが優位なのではなく、「ひとからどれだけ注目(アテンション)されるか」が最大の価値基準になっていくという。情報は際限なく作り出されて増えていくが、世界中のアテンションの量は、人口が有限であるために有限であり、アテンションの希少性は今までになく高まっている。そのなかで、より多くのアテンションを獲得できる企業がこれからのメディア産業、広告産業において優位に立つことができる。
 検索エンジンが、無用な情報や有害な情報を排除するフィルターの機能は、情報の「引き算」機能である。一方、誰がどのような情報をほしがっているかを把握し、望まれる情報を確実に届けることのできるアテンションナビゲータは、情報の「足し算」機能である。グーグルのビジネス的な成功は、この「足し算」機能の魅力によってもたらされている。
 一方で、快適なサービスを無料で人々に提供しながら、それを通して、情報の流れの中心に立って多くの情報を蓄積し、もう一方でその情報を利用してアテンション・エコノミーの覇者になりつつある。それがグーグルである。

 本書は、この潮流の大きさと速さと深刻さとを、迫力のある筆で語っている。上の私の解説などでは、その迫力は到底伝えきれるものではない。にもかかわらず、この迫力に圧倒されて、本書を紹介しないではいられないという気になった次第である。 。

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2006年09月01日

『無限と連続-現代数学の展望』遠山啓(岩波新書)

無限と連続-現代数学の展望 →bookwebで購入

 名著として定評のあるこの古い本を、最近読みなおす機会があった。学生時代に読んで、数学へのあこがれをかき立てられた本であったが、今読みなおしても、なお感動できることにあらためて驚かされた。実は、ちょっと調べたいことがあって、確認のためにぱらぱらと眺めるだけのつもりだったのだが、読み出したらやめられなくなって一気に最後まで読んでしまったのである。

 この本では、数学の中の基本的な(しかし奥深い)話題を四つ選んで、とてもやさしく、かつ丁寧に解説してある。一つ目は無限集合の大きさを測る話、二つ目は群などの抽象代数の考え方、三つ目はトポロジー、四つ目は変換と幾何学の話である。式はほとんどなく、どの話題も身近なところから説き起こして、歴史的背景、携わった数学者の立場や信念などにも立ち入りながら、いつの間にか読者を引き込んでしまう。具体的なイメージが持ちやすい例や、考え方を端的に理解できるたとえなどもたくさんちりばめてある。

 たとえば、無限集合の大きさを比較する話題では、ふたつの集合の間に1対1対応がとれるときに、それらが同じ大きさの無限大であるとみなすという定義から出発して、全体がその一部と同じ大きさであるなど、有限のものを数えているときには起こりえない不思議な世界へ連れて行ってくれる。と同時に、のような無限という禁断の世界を開拓した数学者カントールが、その後心の病に冒されたことなども紹介し、数学が先人の血のにじむような努力と犠牲によって作り上げられてきたものだという厳粛な歴史も教えてくれる。

 また、トポロジー(この本では「トポロギー」と表記されている)の話題では、距離の概念から出発して、閉集合に到達した後、今度は、閉集合から出発し直して、より高い位相空間という地点に登る発展の道を示すと同時に、この道を「推理のスイッチバック」と呼んで、これが、数学理論を作る上での常套手段であることなども紹介している。また、「同じ集合に対しても、閉集合の指定が多ければ多いほど位相は弱くなる」などの解説は、通常の教科書で勉強していたのではなかなか悟ることのできない
考え方の勘所とでも言うべきものを、あっけないぐらいにさりげなく、そして惜しげもなく教えてくれる。

 と、いろいろ紹介しようと試みながら、私なんかの下手な解説では、この本のすばらしさはとても表せないという非力を感じざるを得ない。話は、ギリシャ時代へ飛んだり、ルネッサンス時代へ飛んだりと、広い知識がおしゃれな織物のように組み合わされるが、決して博識の押しつけではなくて、優しさにあふれた本である。


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