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2011年04月27日

『血のジレンマ―サンデーサイレンスの憂鬱』吉澤 譲治(NHK出版)

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 1991年 米国から輸入された1頭の種牡馬が日本の競馬界に革命をもたらした。彼の名は“サンデーサイレンス”。優秀な競走成績を残しながらも、血統的には高い評価をされなかったため、母国米国では種牡馬となれず、日本に来たといわれていた彼が、三冠馬ディープインパクトの父となり、昨年、世界最高峰のレース凱旋門賞の2着馬ナカヤマフェスタや今年ドバイワールドカップの勝ち馬ヴィクトワールピサの祖父となった事は記憶に新しい。(ちなみに2011年の皐月賞出走馬18頭のうち16頭が父系または、母系に彼の血を持つ。つまりこの16頭全てサンデーサイレンスの孫)彼が導入され、その仔や孫たちの活躍により、日本の競馬レベルは世界的なものとなり、JRAの悲願であった競馬先進国の証しとなるパートⅠ国入りができたといっても過言ではない。彼の死後9年が経過した現在でもその影響力は絶大であり、ここ十数年、毎年のように彼の仔や孫が日本競馬の根幹をなす大レースを勝ちまくっていた。しかし、その確固たる地位を脅かす出来事が昨年はっきりと記録にあらわれ、いま大きな曲がり角を迎えていると著者は言う。彼の遺伝力が並はずれているがゆえに必然的に起きた「血の飽和」状態。過去に欧米で起こった同じような現象を取り上げ、日本のサラブレット生産界に起こっている事象、即ち富の一極集中と格差が拡大する馬産の現状を憂い、サラブレット産業の在り方に疑問を投げかけている。その解決策として、サンデーサイレンスの血脈は世界的にはまだ、受け入れられる素地が十分にあり、欧米に輸出することにより、嘗ては「名馬の墓場」とさえ言われた日本から、今後の世界のサラブレッド生産におけるリーダー役となりえることができ、またなるべきであると、根拠となる具体的な例を挙げて本書は説明している。

 その通りになるかどうかは、五年以上の歳月を経ない限り明らかにはならないが、競馬の世界でもグローバル化が進む今日、日本が世界に誇る貴重な血統を日本国内だけで消費することは誠にもったいない話であり、この血を広めて、過去の革命的種牡馬であるセントサイモン、ネアルコ、ノーザンダンサー、ミスタープロスペクターなどと比肩しえる地位を築いて欲しいと切に願う。近い将来、たくさんのサンデーサイレンス直系の子供たちが輸出され、国内外を問わずサンデーの子孫による世界各国のダービー制覇や凱旋門賞勝利の朗報を聞くことができると思うのは私だけであろうか。

 また、戦後日本の競馬界において、サイアーラインを伸ばし曾孫・玄孫の世代まで優秀な子どもたちを出し続けた種牡馬はほとんどおらず、彼もまた、同じ轍を踏んでしまうのか、興味が尽きない。ブラッドスポーツとも言われる競馬。サラブレットの血統と生産に関して奥行きの深さを感じさせる1冊である。


(販売促進部 松葉文比呂)



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