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2010年04月18日

『ただいま おかえりなさい』作・戌井昭人 絵・多田玲子 (ヴィレッジブックス)

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「ただいまと言ってページを開こう」

戌井昭人さんを初めて見たのは、東京・初台のLIVE-BAR The DOORS に「ボヘミアン・カフェ 〜ケルアック・トリビュート・ビートニク・2001〜」を聞いた日だ。ムロケンさん、ロバート・ハリスさん、ビデオで佐野元春さんらが登場するなか、戌井昭人&鉄割アルバトロスケットの「けんちゃん曼陀羅」があまりに裏切りのいかさまで胸躍り、そのあと根津の宮永会館に鉄割の公演を観に行ったところこれまた裏切りの乱雑で胸破れたのだった。戌井さんはその後141回芥川賞候補に「まずいスープ」が選ばれるなど、書き手としての活動も多い。

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『ただいま おかえりなさい』は戌井さんの観察日記のような夢の話のような短い文章が113個、それぞれに多田玲子さんのイラストがつく。章立てはなく、ところどころに多田さんのイラストが大きく入る。どのページでも開いたところから読み始め、どこで読み終えても読み飛ばしても何度読んでもかまわない。状況が可笑しかったり登場人物が奇妙だったり、言葉の響きがよかったり妄想の坩堝だったり意味不明だったり、ひとつひとつがばらばらに面白い。いずれも書きっ放し出しっ放し的颯爽感があるのは多田さんの受けがあるからだろうか。鉄割のために書きためていたネタなのか、書き下ろしなのかわからないが、戌井さんと多田さんの交換日記のようでもある。

     ※

ところでこのタイトルは何なんだろう。誰が誰に言っているのか。考えたところで戌井さんの頭の中なんかわかるわけがないので、この本を適当に開いて読みはじめるときに「ただいま」と言おうと思う。モップを持って踊っている男やみかんをのせたボール、ドーナッツバスやあぶらや座布団レース会場や誘拐された弟を待ち続ける兄、ぼけた菩薩やガスコンロを背負った男や注射だいすき小学生やタンバリン持って出てったひと、あんみつ建設、ハエにスズメにクワガタムシ……たくさんのいきものから「おかえりなさい」と声が返ってくると思うので。

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『ラジオ深夜便 母を語る』聞き手・遠藤ふき子(NHKサービスセンター)

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「すべての「母」に贈りたい」

NHKラジオの「ラジオ深夜便」は今年で20年をむかえたそうである。昭和天皇のご容体報道に備えてはじめた深夜の放送が、緊急報道を第一にして今も毎晩静かに流れており、人気のコーナーがいくつもある。なかで「母を語る」というおよそ1時間のインタビューは1995年から遠藤ふき子アンカー(隔週で番組を担当するアナウンサーをこの番組では「アンカー」と呼ぶ)が聞き手をつとめ、現在も月1回の放送が続く。これをまとめた3冊目の本が『ラジオ深夜便 母を語る』で、刊行時(2009年9月)までに放送で伝えてきた158人の「母」の中から、10人の姿を再録している。

もくじより


母を一人の人間として振り返るとき(谷川俊太郎・詩人)

スノビッシュな女性でした(山田洋次・映画監督)

母の第二ラウンドを戦う(林真理子・作家)

死の床で得た母との和解(山折哲雄・宗教学者)

平凡に生き、平凡に死んだ(新藤兼人・映画監督、シナリオライター)

ぼくの絵にはみな母の空気がある (中島潔・画家)

祖父と母、母と私(青木玉・随筆家)

母に捧げる子守唄(松永伍一・詩人、エッセイスト)

実の母と、育ての母と(やなせたかし・漫画家)

世話さしてもろうて、ありがとう(綾戸智恵・ジャズシンガー)


いずれの母子も苦難と喜びをともに過ごした逸話にあふれていて、成長した「子」が穏やかに振り返り、「母」の生きた時代の匂いまで感じさせてくれている。読みながら、私自身の母に思いが及ぶ。母と私には「語る」ほどの逸話はないが、母が生きた時間への単純な敬意を覚えて、母に、それは私の母に限らずすべての「母」に、この本を贈りたいと思った。生まれた限り誰にも「母」がいて、誰もが「母」を考えることができるというのはすごいことだと、そんな当たり前のことを強く思った。


あとがきに、遠藤ふき子さんが書いている。ご自身の母親としての悩みが、このインタビューをはじめたきっかけだそうである。自分の経験だけにとらわれて一喜一憂していたのが、いろいろなお母さんの話を聞いて、親子の関係も母親の生き方もさまざまあるという当たり前のことに気がついて、すっと楽になったそうである。今まさに子育てで悩んでいるお母さん方にも、この本を贈りたい。ご自身の中にある「母」をそのままに感じられるように、10組の母子と遠藤さんがきっと背中を包んでくれる。


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