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2010年03月14日

『世界の果てのビートルズ』ミカエル・ニエミ(新潮社)

世界の果てのビートルズ →bookwebで購入

「ターンテーブルで踊るほろ苦い青春」

 今大会、スウェーデンから唯一出場しているのがミカエル・ニエミ。そもそも、スウェーデンという名前はよく聞くけれど、実際にはどんな国なのかあまり分からないのではないだろうか。洗練されたデザインと充実した福祉制度、そんな程度だと思う。なにより僕がそうだ。スウェーデン作家の本は書店に並んでいたとしても、なかなか手に取られることは難しい。そんな初めの印象を打ち壊すのが、日本での彼のデビュー作となった『世界の果てのビートルズ』だ。

 ビートルズという慣れ親しんでいる言葉がタイトルにあるために、特にビートルズ好きにはスウェーデンがぐんと近づく。しかし、本を開いて読み進めて行くと「あれ?」と思う。その内容はどろりとしていて薄暗く、初めに持っていたスウェーデンのイメージはそのどろりとしたものに飲み込まれてしまう。「あれ、僕の洗練されたストックホルムは?」と、作り出したイメージが小説のイメージに負けてしまうのだ。
 
 舞台となっている場所はスウェーデンの北の外れ、「笑えるほど最果ての村」。村は閉鎖的でケンカが絶えず、娯楽といえば密造酒とサウナくらい。主人公であるマッティの小さな家の姉の部屋で初めて聴いた「ロックンロール・ミュージック」の描写は、音楽を見事に文章で表現している。ギターが鳴りスポットライトが当たり、その衝撃をエネルギーにしてこの物語は疾走していく。

 最初に感じたどろりとした不快感も彼らの無邪気さで微笑ましいものになり、バカバカしい暮らしが懐かしいものへと変わる。それは僕の幼かった青春時代と重なり、羨ましくさえ思う。そうすると「ロックンロール・ミュージック」に乗って、世界の中心はパリでもなく、ロンドンでもなく、ニューヨークでもなく、この世界の果ての村となる。

 また、ここではあり得ないような幻想も起こる。それは「荒々しい自然との濃密な交流から生じる感覚をありのままに描いたものであり、その感覚は祖先から受け継いだもののひとつ」だ。この現実と幻想を行ったり来たりするのも、音楽のリズムに乗って揺れているようで心地が良い。

 ミカエル・ニエミの著作は日本ではまだこの一冊のみであり、彼は今僕がもっとも次回作を期待している作家のひとりである。そして、スウェーデンが世界の強豪を相手にどれだけ善戦するかも楽しみである。

“To me that is a modern rock and roll music”
ほら、「ロックンロール・ミュージック」がギターの爆音と共に聴こえてきた。


(紀伊國屋書店ピクウィック・クラブ 田川智史)


■ワールド文学カップ参戦中!
  『世界の果てのビートルズ』と合わせて読みたい本■

・藤沢周『ブエノスアイレス午前零時』河出文庫
日本の辺境、といってもこちらはひなびた温泉宿。
距離ではなく、心境が作り出した辺境の話。
・タブッキ『インド夜想曲』白水uブックス
音楽が鳴るわけではない。出来事は曖昧。
だけど、物語を通じて確かに音が聴こえてくる。


→『世界の果てのビートルズ』をbookwebで購入

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