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2005年12月28日

『サキ短編集』サキ(新潮文庫)

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 クリスマスソングが流れる頃になると、仮想世界にばかりも没入していられなくなる。何せ、仮想メディアにまでクリスマス情報が氾濫し始めるのだ。オンラインゲームをしている時にまで、「クリスマスの予定はもう決まりましたか?」といった広告が流れてくる。余計なお世話である。
 この時期、リアルとまったく関わってこなかった仮想世界の住人が取りうる態度は二つある。そんな情報の届かないよりディープな仮想空間へ堕ちていくか、自分より不幸な者を観察して自分の傷をなめるか、である。後者によく使われるテクストがO・ヘンリやディケンズである。賢者の贈り物を読んで、「少なくとも僕はもう少し豊かだ」とつぶやいたことのあるSEは多い。
 しかし、上記のような用途に使うのであれば、O・ヘンリやディケンズは救いのあり過ぎる話である。結局自分の周りにあのような感動は存在しないのだ。であれば、もっともっと読後感の悪いプロットを..と求めた結果、たどり着くのがサキである。お世辞にも国内で普及しているとは言えないし、現在では少し入手も困難かも知れないが、一読の価値がある。端的な文体で構成された短編は読んでいて心地よく、オチがついた後の居心地の悪さもまた折り紙付きである。二律背反な背徳の恍惚に酔って欲しい。メリークリスマス!

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2005年12月04日

『九マイルは遠すぎる』ハリイ・ケメルマン(早川書房)

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「九マイルは遠すぎる、ましてや雨の中ともなれば」
 このフレーズからいったいどれだけの思索を導き出すことができるだろうか。
 ミステリに登場する探偵役はいくつかの類型に分類することができる。マッチョもいるし、変人もいる。数多の推理作家が個性的な主人公を登場させようと苦心するが、安楽椅子探偵というのも確立された探偵類型の1つである。
 安楽椅子探偵は、現場に赴かない、動かない、聞き込みもしない。もちろん、こうした原則を遵守して小説にするのは大変な労苦を伴うため、本人は動かなくても協力者がやたらとまめに聞き込みや現場百回をやってくれる安楽椅子探偵もいる。
 しかし、『九マイルは遠すぎる』の安楽椅子探偵っぷりは純度100%の本物である。協力者さえ安楽椅子探偵の前を動かず、伝聞だけで推理が進行していく。
 少なすぎる情報量から推論を積み重ねていくので、牽強付会があるのはやむを得ないが、蓋然性があるように読ませてしまう作者の力量は確かである。ケメルマンは特に本書が有名だが、気に入ったら『金曜日ラビは寝坊した』も読んでおきたい。
 たまにはこんな話を読み、師走の多忙でどれだけ自分の想像力が減衰しているか、確かめてみるのも一興だ。

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