« 2005年09月 | メイン | 2005年11月 »

2005年10月15日

『マヴァール年代記(全)』田中 芳樹(創元推理文庫)

4488592015 →bookwebで購入

 あまりにも有名な田中芳樹の作品であるが、一般的にはどのシリーズを最初に手に取るのであろう? 私の場合は、大学で政治学の講義を取っていたとき「政治を理解したければ、『銀河英雄伝説』か『ゴルゴ13』を読まなければだめだ」と言われたのがきっかけだ。『ゴルゴ13』はちょっと絵柄が自分好みではなかったので、『銀英伝』にした。その後、ずぶずぶと田中ワールドにはまっていったのだが、私はこの作家の描く架空歴史絵巻の側面に強く惹かれていたのだと思う。
 『銀河英雄伝説』はいわゆるスペースオペラ(宝塚という説もある)、『アルスラーン戦記』はファンタジィと(一応)分類されるし、実際その種の作品たらしめるコードがちりばめられているが、田中のこうした作品群を貫く本質は、英雄たちの野心と知謀が高密度に渦巻く、絢爛豪華な歴史絵巻である。
 近年はともかく、初期の田中作品はどれもが濃密なプロットと流麗な筆致に彩られ、作品として高い水準にある。何を読んでも「外れ」を引くことはないが、歴史絵巻である以上、できれば完結していて欲しいと願うのが人情である。その意味で安心してお薦めできるのが本書である。田中作品のシリーズものでは奇跡的に完結した作品である。『アルスラーン戦記』と比べると魔導系のコードが引かれている分、より人間の構成する歴史の部分に没入できるであろう。
 それにしても、『銀河英雄伝説』(外伝の5~6巻は?)、『アルスラーン戦記』(14巻完結の予定が延びるんですか?)、『タイタニア』(敢えて聞くまい)など、田中芳樹の宿題は数多い。せめて『アルスラーン戦記』と『創竜伝』の完結は目にしたいと思う今日この頃である。

→bookwebで購入

2005年10月04日

『コンピュータには何ができないか―哲学的人工知能批判』Hubert L. Dreyfus(産業図書)

thumb-no-image.gif →bookwebで購入

「できることの範囲に含まれないこと」=「できないこと」は必ずしも正しい認識ではない。エンジニアは、それがシーズからニーズを作り出すのであれ、その逆であれ、「できること」に着眼して発想する。開発現場で「できないこと」を主軸に考察を加えていたら、上司に怒られるだろう。「ここは大学の研究室じゃない」と。
 しかし、自分の従事する技術の限界を掌握しておくことは非常に重要である。コンピュータは、要素還元主義的な知識フレームの積み重ねによって確実に「できること」の範囲を拡大している。このまま進化して人間を代替する存在になり得るのか、ゲシュタルトの壁はシリコンの挑戦を跳ね返してしまうのか。これは単に知的興味の問題だけでなく、将来の技術発展の方向性を左右する命題である。本書の刊行はすでに10年以上前に遡るが、記述の内容は些かも古色を感じさせない。知性としてのコンピュータに対する洞察は端緒を開いたばかりである。

→bookwebで購入