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2005年09月23日

『グッドラック―戦闘妖精・雪風』神林 長平(早川書房)

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 「人と機械の関係を考える」というと、バイオテクノロジにおける倫理ドクトリンやドイツ観念論哲学のように堅い話を想像してしまう。コンピュータテクノロジに関わる人間としては、「いつかはちゃんと考えなくちゃ」と思いつつ、「辛い思索になりそうなので先延ばし」にするのが標準的な処世術であろう。
 でも、自分の代わりに登場人物が悩んでくれる小説だったらどうだろう。彼が七転八倒しても所詮は他人事、自分の心が痛むわけではない。万一、彼が真理に到達してくれれば、自分が思索を放棄した後ろめたさも忘れられそうだ。加えて小説として面白ければ言うことはない。
 そんな都合のいい話があるだろうか? ある。神林長平作品、とりわけ戦闘妖精-雪風シリーズは抜群の筆致で人と機械の問題を切り出してくれる。特に、最近のマイクル・クライトンの作品のような説教臭さを感じさせないところが秀逸である。背景にどれだけの熟慮と推敲があろうともエンターテイメントに徹している姿勢が素晴らしい。倫理や哲学に興味がなくても、機械工学好きなら「メイヴ-雪風」のディテールを読むだけでも元は取れる。フェアリイの虚空に舞う雪風の姿態はこよなく美しい。
 余談だが、引っ越しのどたばたで大事にしていた雪風の初版をどこかにやってしまった(本読みとして大変恥ずかしいことである)。文庫本で改訂版が出ているはずなので、新宿の紀伊國屋本店に行ったら、「かーびー」さんという、どこからどう見てもアングロサクソンの店員さんが流暢な日本語で親切に応対してくれた。紀伊國屋書店の店員さんのクオリティの高さは以前から言わずもがなだが、随分ボーダレス化も進んだなあ、と年寄り臭いことを考えた。

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