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2004年11月30日

『オブジェクト指向への招待—思考表現のための新しい方法 』春木良且 (近代科学社)

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オブジェクト指向とは1つの思想である。オブジェクト指向プログラミングを学んでいる人で、この点を勘違いされている方は多い。例えば、C++やJavaは確かにオブジェクト指向プログラミング言語であり、オブジェクト指向の発想をプログラミングに反映させることができる。しかし、オブジェクト指向プログラミング言語を使えば必ずオブジェクト指向になるわけではない。この点はとてもとても注意しておく必要がある。正直なところ、単にJavaを使っているだけで内容は古典的なプロセス指向を脱していないプログラマはごまんといるのだ。  よいオブジェクトプログラマになるためには、まずオブジェクト理論の発想を身につける必要がある。本書は端的にプログラミングの助けになるような記述はないが、オブジェクト世界へのよい導き手になるであろう。初出は89年にまで遡るが、内容は決して古くない。CをC++にする前に、まず自分の頭の中身を変革しよう。

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2004年11月29日

『Solarisシステム管理 』城谷洋司(アスキー)

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商用UNIXとして巨大な成功を収めるSunMicrosystemsのSolaris。本書はSolarisのすべてが分かるリファレンスの決定版である。製本技術者を挑発するようなページ数とあまりの情報量に裏技大全集的な色合いすらある。Solarisは基幹システム向けOSとして多くの重要な業務に供されているため、そのシステムに従事している人は多い。しかし、開発の経緯から、その構造は決して一枚岩ではなく、全体を理解するのは非常に困難である。結果として、自分が使う機能だけを把握して騙しだまし業務を遂行しているエンジニアも多数に上る。  それも一つのアプローチではあるのだが、夏休みなどのまとまった時間に本書を用いてSolaris全体像の理解に勤しんでみてはどうだろう。すでに書いたように著者はリファレンスとしての利用を想定して執筆しているが、ここは一つ隅々まで精読してSolarisを自分のものにしてしまうことをお薦めする。いくつになっても良書に出会うと学生の頃のような知的好奇心が込み上げてくることを実感させてくれる1冊。久しぶりに楽しい徹夜をしよう。

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2004年11月28日

『MCSE教科書 TCP/IP—試験番号 70‐059 』ティッテル,エド/ハドソン,カート/スチュワート/J,マイケル(翔泳社)

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MCPというのはMicrosoft社が行っている資格試験で、Windowsなどの技術力を認定するものである(MCSEはその上位資格)。こうしたベンダが行っている試験は、教材や受験料が高く、また以前はWindowsの信頼性も低かったことから、揶揄的に「MCP=危険物取扱技術者」などと呼ばれたこともある。したがって、IT技術者の中にはMCSEと聞いただけで拒絶反応が出てしまう人もいるのだが、MCSEは決してMicrosoft製品の詰め込み教育ばかりをしてMicrosoft信者を作り上げようというものではなく(その側面も強いが)、きちんとした基礎技術を理解させるようなカリキュラムになっている。  特にここで紹介したTCP/IPの試験は秀逸で、ともすれば机上の学習で終わってしまいがちなTCP/IP関連知識が、実装製品ではどのように使われているのか詳細に問われる。試験制度が変わってしまったので、当該書籍は若干手に入りにくいかも知れないが、資格を取得する予定のない人やUNIX教徒も読んでおいて損はない一冊。

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2004年11月25日

『シャーロック・ホームズの帰還 』ドイル,アーサー・コナン(河出書房新社)

シャーロック・ホームズの帰還 →bookwebで購入

暗号理論は数学と密接に結びついている。したがって、暗号の本質に触れるためには高等数学を避けて通るわけにはいかないのだが、初学者には本書のようなアプローチもありだ。本書収録の「踊る人形」において謎を解明していく方法は、換字式暗号の作成・解読プロセスそのものである。一般的な暗号入門書を読んで、「暗号アルゴリズム」「鍵」などの概念に馴染めなかった方には是非お薦めしたい。
 もちろん、物語としての面白さは折り紙付きである。コナン・ドイルは「最後の事件」で執筆に手間のかかるホームズシリーズを一度は終わらせてしまったが(プレッシャーから解放された喜びを綴った手紙まで残っている)、読者の声を無視できなくなり満を持して再開した後の最初の短編集が本書だ。「金縁の花眼鏡」など、ミステリ作家として脂が乗り切っていた頃の珠玉の短編が楽しめる。

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2004年11月24日

『すべてがFになる』森博嗣(講談社)

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ネットワークやセキュリティの学習を始めようと思ったときに、ネックになりやすいのがテクニカル・タームの多さである。出てくる都度、調べていけばよいのだがとても面倒くさい(これを解決するためにハイパーテキストが生まれたという話題は今回は取り上げない)。こういう状況で一般的に使われるのが用語集で、その利便性を認めないわけではないのだが、言葉の意味だけを把握しても利用シーンがイメージできない、という悪循環にはまりやすい。やはり技術というのは使えてナンボであるから、「実際にこう応用できる」というベストプラクティスがあるとよい。 その用途に使える小説として本書を紹介した。著者の森氏は某国立大学の助教授。超多忙にも関わらずメールのレスポンスが速い謎の人物。仕事術の本を書いたら中谷彰宏の上を行くかも。一つ一つの言葉に対する思い入れが強く、語彙にぶれがない。安心してテクニカル・タームを学ぶことができる。基本的にはミステリだが、おたく要素やアカデミック要素も強いのでこの種の世界が好きであればミステリファンでなくても楽しめるであろう。大学教員の生活風景を覗きたければ同著者の「水柿助教授の日常」(幻冬舎)もおすすめ。

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2004年11月23日

『アラン・ケイ』ケイ,アラン・C.(アスキー)

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エンゲルバートを紹介したので、続けてもう1人だけ偉人伝シリーズを。アラン・ケイはパーソナル・コンピュータという概念を初めて提唱した先駆的研究者である。1960年代のコンピュータというのは、重戦車のような代物だった。大きくて重く、日本の1LDKには入りきらないほどの図体で鎮座ましまし、多くの信者に傅かれてやっとこ動いていたのである。これを1人1台体制で使えるようにしよう!というのは常人の発想ではない。「将来コンピュータの重量は、1.5トン以下になるかも知れない」と予想する科学雑誌や「家庭にコンピュータを欲しいと思う人などいる訳がない」と公言するコンピュータベンダ社長がいた頃の話である。神社が神棚になって家庭に入るくらいのインパクトがあるのだ。  しかし、現実を見れば世の中はアラン・ケイの構想どおりに動いたのである。その後もアラン・ケイはオブジェクト理論、GUIなどに重要な足跡を残し、Apple Macintoshにも大きな影響を与えた。我々がアラン・ケイになることは難しいかも知れないが、彼の発想に対する姿勢やその実現手法は多くのエンジニアの参考になる。ジャズ・プレイヤとしても有名。

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2004年11月22日

『ブートストラップ—人間の知的進化を目指して』バーディーニ,ティエリー(コンピュータ・エージ社)

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ダグラス・エンゲルバートをご存じだろうか。本人を知らない人でも、「マウスを発明した人」というと、「へーっ!」となる。現在のGUI環境に欠かせないデバイスを生んだ男である。マウスのプロトタイプ開発は1964年、今でこそ「マウスくらい俺でも思いつけそうだな」と思うが、テキスト文字、スタンドアローンが当たり前の時代に、すでにマウスや分散インターネット技術を考案していた先見性には舌を巻くしかない。  こんな風に書くと、いかめしい技術界の巨人を連想してしまうが、実際の印象は「お茶目なおじいちゃん」といったところである。私は何故かbad boyと呼ばれて笑われた。すでに引退していてもおかしくない年齢であるが、未だ研究活動を通して技術界にインパクトを与え続けている。本来であれば、彼の著書を推薦したいのだが、あまりよい和書がない。そこで今回は、その人柄も含めて、孤高の天才の闘いを肌で感じられる1冊をチョイスした。

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2004年11月19日

『TCP/IPバイブル 』ウォッシュバーン,ケビン(ソフトバンク)

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どんな世界にも「そこに行けばなんとかなる」「あの人に聞けば必ず分かる」というキーポイントがある。宗教のことで分からないことがあれば、取りあえず中沢新一の本を読もうかとか、アニメのことで知りたいことがあればまずは秋葉原に行こうとか、その類の「聖地」である。TCP/IPの場合の「聖地」は本書である。書物だから聖書であろうか。書名もそのものずばりである。  TCP/IPは現代ネットワーク技術の礎である。ネットワーク業務に関わってTCP/IPに触れない日はない。したがって、TCP/IPに関わるトラブルにも毎日事欠かないわけであるが、何か分からないことがあったら、取りあえず本書を読めばどこかに理由が必ず書いてある。読み通すのも一興だが、通常はリファレンスとして使う。何がどこに書いてあるか頭に入れておけば、詳細事項はトラブルの時に読めばよい。多くのネットワークスペシャリストが机の中に隠してある1冊。

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2004年11月18日

『マスタリングTCP/IP入門編 』竹下隆史/村山公保/荒井透/苅田幸雄(オーム社)

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先にはっきり断っておくと、本書は「入門編」と銘打ってあるが、決して取っつきやすい書物ではない。インターネットの中核技術であるIP(インターネット・プロトコル:インターネット上の通信規約)について、淡々と修行僧的な静謐さで解説が続けられる。イラストや図解も最小限であるし、カラーページもない。そこには、最後まで読み通してもらうために起承転結を考えよう、などといった要素は一切欠落しており、ただ正確に技術を伝えるという真摯さだけがある。  本を販売する、という命題だけを考慮するのであれば「~時間で分かる」というスタイルの書き方の方が効果があり執筆も楽なのだが、残念ながら技術の神髄は数時間で理解できるほど甘くない。本書を読み通せば、口当たりのよい書物だけが読者の益に資するものではないことが分かる。時間がなければ3章だけでも読んでおこう。

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