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2010年04月30日

『監獄ビジネス-グローバリズムと産獄複合体-』アンジェラ・デイヴィス(岩波書店)

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「監獄ビジネスの危険性」

 グローバリゼーションの時代に、資本が国内市場で新たな市場を開発するための重要な手段の一つが、公的な領域で行われるべき業務を民営化することにあるのはよく知られていることだろう。

 公共機関は、税金で雇った公務員に担わせてきた仕事を民間の業者に委託することで、人件費を節約することができるかもしれない。また競争原理を導入することで、コストを低減できるかもしれない。さらに役所には適切な人材が存在していないかもしれない。ごく身近なところでは、最近は市立図書館の貸し出しカウンターの業務を、民間の書店に委託する例が多いようである。

 これなどは、別に専門の司書を配置して相談業務を担当させれば、それほど問題にはならないかもしれない。しかし最近では国家としてのもっとも枢要な部門でも、民営化が進んでいる。たとえば軍隊や監獄などである。この強制的な暴力を行使する業務は、国家権力のもっとも重要な任務とみなされてきたものであり、こうした分野での民営化は、きわめて大きな問題を引き起こしかねない。

 本書はアメリカにおける監獄業務の民営化に焦点をあてて、それが引き起こしているさまざまな問題を浮き彫りにする。アメリカでは一九八〇年代から監獄の大量増設が開始され、薬物の厳罰化と「スリー・ストライク」の規定によって、囚人の数は爆発的に増大した。国が率先して、監獄に収容する国民の数を増大させているのである。一九六〇年代には囚人の数は三〇万人台だったが、二〇〇七年には二三〇万人台へと一〇倍近くに増大しているのである(p.3)。アメリカの有色人種の三人に一人は、生涯のうちに一度は監獄暮らしを経験することを見込む必要があるほどだという。

 重要なのは、この監獄の業務に民間企業が関与する傾向が高まっており、それが囚人の数をさらに増大させる可能性があるということだ。大手の企業は、監獄の設計段階から関与し、監視やシステムの運営の技術を提供する。『ウォール・ストリート・ジャーナル紙』によると、ウェスティングハウスなどの大手企業は「犯罪対策設備の開発に乗り出し、国防技術をアメリカの街頭で利用できるように、機械設備の更新を進める特別部局を設置した」という(p.93)。

 また民間企業は、監獄の運営に必要な設備や物品の供給によって大きな利益をえている。「建築資材から電子装置、衛生用品にいたるあらゆる種類の商品や、給食から治療、予防医療までのさまざまなサービスを提供」(p.94)しているのであり、こうした企業は「監獄制度の恒久化に強い利害関係をもつようになった」(同)のである。

 さらに民間の監獄も増大しており、州政府はこうした監獄での業務に税金から手数料を支払っている。「これらの株式会社は、収監者をできだけ長く留め置き、施設を一杯にしておくことに強い関心を抱いている」(p.102)のは、経済の論理としてごく当然のなりゆきだろう。そこには、「産獄複合体」(p.5)と呼ばれるべきものが成立しているのである。

 民間企業が監獄業務にかかわることには、いくつもの重要な問題がある。第一に、すでに指摘されたように、企業の利潤を重視する観点からは、囚人の人数が増大すること、そして収容される期間が長くなることは好ましいことであり、これが暗幕の圧力となって、収容者の増加と収容期間の長期化を招くことになる。収監者の更生という監獄のほんらいの目的が見失われて、監禁産業となってしまうのである。

 また、こうした民間の監獄では、公的な機関に求められる説明責任というものがほとんど意識されない。そのため、国の施設以上に、内部でどのようなことが行われているかが不透明になる。一九九七年にはテキサス州のある民間の監禁施設での虐待を写したビデオが公開されて、大きなスキャンダルとなったことがあった(p.102)。さらに一九七四年に禁止されるまで、監獄では「無数の化粧品やスキン・クリームが実験として囚人に試されていた」(p.96)という。囚人は動物実験の対象となる動物と同じまなざしでみらていたのである。

 これらの事例はアメリカが中心であるが、すでにパッケージとした監禁システムが海外に輸出され初めているという。その効率の良さに、南アフリカ、トルコ、オーストラリアなどの諸国が関心を寄せているという。公共の業務を民営化したときに起こる問題について、さらに鋭い視線が向けられるべきだろう。

【書誌情報】
■監獄ビジネス-グローバリズムと産獄複合体-
■アンジェラ・デイヴィス著
■上杉忍訳
■岩波書店
■2008.9
■9,157p
■ISBN 9784000224871
■定価 2300円


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