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2010年04月28日

『ミクロコスモス ― 初期近代精神史研究第1集』平井浩ほか(月曜社)

ミクロコスモス ― 初期近代精神史研究第1集 →bookwebで購入

「近代初期の思想の多彩な研究」

 最近には珍しい作りの本だ。近代初期のさまざまな思想的な思想についての研究を集めて一冊にしたものであり、パラケルスス、デュシェーヌ、画家コペルニクス、ニコラウス・ステノなどの研究、さらに百科全書空間の役割をはたしたルネサンス庭園の研究、ルドルフ二世とその宮廷の研究など、多彩である。ルネサンス庭園では自動人形が取り付けられて、さまざまな動作をしてみせたというし、パラケルススの「徴」の概念は、ミクロコスモスとマクロコスモスの照応を示す医学の実例としても、楽しく読める。

 とくに有益だったのが、ゴルトアマー「初期近代の哲学的世界観、神秘学、神智学における光シンボル」と、フィチーノ「光について」の翻訳である。ピコについて「光の思弁が哲学・宗教や自然哲学・形而上学、そして最終的には自然学にいたるまでの議論の根幹をなしている」(p.259)ことが示され、フィチーノでは「太陽の光は、宇宙の自然学・形而上学的な総体と霊的諸力がもつ支配的な意義とを表現した至高なる一者像である」(p.261)ことが確認される。

 興味深いのはパラケルススが、自然の光が「人間の星辰的身体(アストラル・ボディ)の内部で」(p.275)働くと考えていることだろう。この光は「自然を構成し、貫く原理」であり「自然を光で照らして満たす原理」(p.276)であるというのであり、マクロコスモスを作りだす光が、ミクロコスモスである身体を内側から照らしだすのである。

 またベーメの逆説的な光も魅力的だ。光と火は、「地獄であり神の憤激でもある闇と相対峙している」(p.285)のであり、神は光のうちにも、死のうちにもあるのである。「その二元論は、光が闇の前提とされる逆説的な特徴をもつ一元論的な対立関係として」把握され、「かくして宗教改革的な神の概念が、シンボル・概念性の神秘主義・錬金術的な二元論と並んで登場する」(同)という不思議さがある。

 フィチーノの「光について」の翻訳もありがたい。不可視の光は、非物体的な光であり、物体的な要素から導くことができず、「諸物体よりも上位にあって比類ないほど豊かな、あえて言えば、より明瞭な光に起源をもつ」(p.297-8)はずであり、地上の光からこの不可視の光に上昇する必要があるとフィチーノは考える。「月下の[すなわち地球の]光を暗闇から、つまり星辰的な光を物質から分離して、そこから超天界の光まで、さらにまた理性的な火から知性的な光まで、知性的な光から可知的な光へと昇り」、さらに神的な光に到達するという。グノーシスを逆転させたような上昇の行程は、新プラトン派のプロティノスのように、人間の心の歓喜のうちで、「天空の笑い」のうちで行われるものなのだろうか。光の形而上学を考える上で、このルネサンスの一連の文献は重要な位置を占めることになるだろう。

 なお参考文献が豊富なのも助かる。たとえばノストラダムスの学術的な研究について、この時期の解剖学について何を読めばよいか、一目でわかるようになっている。同人誌的な趣もある書物だが、今後の展開に期待したい。

【書誌情報】
■ミクロコスモス ― 初期近代精神史研究第1集
■平井浩ほか
■月曜社
■2010/02
■365p / 22cm / A5判
■ISBN 9784901477727
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/imgdata/4901477722.jpg
■定価 3150円

○目次
記号の詩学――パラケルススの「徴」の理論 菊地原洋平
ルネサンスにおける世界精気と第五精髄の概念――ジョゼフ・デュシェーヌの物質理論 平井浩
画家コペルニクスと「宇宙のシンメトリア」の概念――ルネサンスの芸術理論と宇宙論のはざまで 平岡隆二
百科全書的空間としてのルネサンス庭園 桑木野幸司
アーヘン作《トルコ戦争の寓意》シリーズに見られるルドルフ二世の統治理念――《ハンガリーの解放》考察を通して 坂口さやか
ハプスブルク宮廷におけるディーとクーンラートのキリスト教カバラ思想 小川浩史
伝統的コスモスの持続と多様性――イエズス会における自然哲学と数学観 東慎一郎
ニコラウス・ステノ、その生涯の素描――新哲学、バロック宮廷、宗教的危機 山田俊弘
初期近代の哲学的世界観、神秘学、神智学における光シンボル クルト・ゴルトアマー(岩田雅之訳)
光について マルシリオ・フィチーノ(平井浩訳)
ルネサンスの建築史――ピタゴラス主義とコスモスの表象 桑木野幸司
ノストラダムス学術研究の動向 田窪勇人
ルネサンスの新しい身体観とアナトミア――西欧初期近代解剖学史の研究動向 澤井直


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