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2010年04月26日

『マキァヴェッリの生涯―その微笑の謎』ヴィローリ,マウリツィオ(白水社 )

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「実にヴィヴィッドに描かれた生涯」

 マキアヴェッリの肖像画はたしかに、口元に皮肉な、そしてどこか悲しげな微笑を浮かべている。本書は、マキアヴェッリの生涯のさまざまな出来事と、彼の野心の蹉跌の歴史をたどりながら、その微笑の謎を解こうとする意欲的な伝記である。

 もちろん微笑の謎は、ほんとうの意味で「解く」ことはできない。それでもマキアヴェッリの生来の笑い好きの性格と、その生涯の多数の蹉跌の事情を考えてみれば、その微笑の謎も少しは「わかった」つもりになるくらいはできるだろう。著者が行っているのもそのくらいのことであり、微笑の謎は数回にわたって推測される。

 たとえば「わたしたちはようやくニッコロの微笑の意味がわかりかけてきた。微笑が口元で消え、痛みを隠すことはわかった。自らの愚かさに気付かないまま、様々な感情に左右され、動揺する人間たちに、マキアヴェッリは微笑みかける」(p.184)のように。あるいは「その手紙は、ニッコロが例の微笑の裏側に隠していた表情を、わたしたちに他の何よりもわかりやすく教えてくれる」(p.272)のように。

 それでも城壁の上にたって裾をめくって秘部をみせて「いくらでも子どもを作ることはできる」(p.46)と、復讐を誓ってみせたカテリーナ・ウフォルツァ、フィレンツェの支持がえられないとわかって「一瞬にして失望の面持ちに変わった」ヴァレンティアーノ公が、「想像を絶する」暗殺計画を思いついた瞬間、そしてマキアヴェッリの拷問など、かれの生涯を彩るさまざまなエピソードが、実にヴィヴィッドに描かれていて、映画をみているような気持ちになる。

 マキアヴェッリは、フィレンツェを共和国として自立させるためにさまざまな計画を立て、軍隊を設立して防衛に成功したりもするが、ルソーのジュネーヴとは違って、支配地域である農村の兵士たちは、祖国防衛の意欲は高くなく、やがてはスペイン軍に敗退して、メディチ家がふたたび支配者となるのだった。

 『君主論』を著したのは、このマキアヴェッリの最初の蹉跌の後、書記官を解任された後のことであり、蹉跌の後のマキアヴェッリの行動と思想の密接な関係をたどるのも、きわめて興味深い。『ディスコルシ』や『フィレンツェ史』を書きながら、マキアヴェッリがどのような歴史的な事件に直面していたか、それが書物にどのように反映していったか。普通の著者とは異なり、マキアヴェッリはイタリアの歴史の重要な局面のうちで、まさに当事者として活躍しながら、そこで学んだ教訓を著書のうちに書き記していったのである。

 最後に皇帝軍がフィレンツェを強奪しようとするのを、マキアヴェッリは友人となっていたグイッチャルディーニとともに懸命に阻止することができた。それによって「軍隊というより、もはや「絶望した大群と化して」(p.275)いた皇帝軍はローマに進軍し、略奪したのだった。そして死の床にあったマキアヴェッリは夢をみた。貧しく苦痛に満ちた顔付きの人々が「天国にゆこう」と誘いあっている。高貴で威厳に満ちた人々が「われわれは地獄に落ちる者よ」と語っている。そこにはプラトンも、プルタルコスも、タキトゥスもいる。夢から覚めたマキアヴェッリは友人に、自分は地獄に落ちるほうがましだと語るのだった。

【書誌情報】
■マキァヴェッリの生涯―その微笑の謎
■ヴィローリ,マウリツィオ著
■武田好訳
■白水社
■2007/06/20
■289,9p / 19cm / B6判
■ISBN 9784560026250
■定価 3570円


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