« 『旧約聖書の誕生』加藤隆(筑摩書房) | メイン | 『マキァヴェリアン・モーメント―フィレンツェの政治思想と大西洋圏の共和主義の伝統』ポーコック,ジョン・G.A(名古屋大学出版会) »

2010年03月18日

『イザベラ・バード「日本奥地紀行」を歩く』金沢 正脩(JTBパブリッシング)

イザベラ・バード『日本奥地紀行』を歩く →bookwebで購入

「130年後のバード『日本奥地紀行』」

 イザベラ・バードは一八三一年生まれの富裕なイギリス人女性である。イギリスのレディー・トラベラーの第一人者として知られており、日本には明治一一年にやってきて、日光から新潟、そして北海道のアイヌ村まで、馬車と徒歩で歩いた。それが『日本奥地紀行』であり、妹に宛てた書簡を集めたものである。この手紙には、スケッチも掲載されており、当時を忍ばせる。

しばらく前にNHKラジオの朗読の時間で、バードの手紙の朗読をしていて、ウォーキングをしながら楽しく聞いた。日光あたりのすぐに思い浮かべることのできる景色や建物(金谷ホテル)もあれば、まるで異国ではないかと思わせるような記述もある。とくに当時の日本の村人たちの描写を読むと、あっけにとられることもある。

 この書物は、街道歩きの第一人者である著者が、同じく徒歩と自転車で、バードの歩いた道筋を訪問し、多数の写真を撮影して、明治の昔をしのぼうというものである。朗読を聞いていたため、新聞に広告が掲載されたときから、読みたいと思っていた。

 また、越後と米沢を結ぶ米沢街道の一三峠の縦走コースは、「バードが歩いた時代の原風景が今も色濃く残っており、緑の中を行くので〈イザベラ・グリーンロード〉と呼ぶのがふさわしい自然豊かな峠歩きコースである」(p.72)という。詳細なウォーキングマップも掲載されていて、旅心をそそる。

 ただしバスなども通じていないところが多く、タクシーを利用しないとアクセスが大変らしい。今に思えば、明治一一年に西洋の女性が通訳つきとはいえ、たった一人で日本のこうした田舎を歩くというのは、よほどの勇気が必要だったことだろう。宿に宿泊するとすぐに障子に穴が開けられて、この「珍物」を皆で覗きにくるし、数百人を前にして食事をとらねばならないこともあったようだ。バードは「プライバシー・ゼロ」と何度も嘆いている。おまけに蚤と蠅と蚊の大群に襲われ、持ち込んだ小さなベッドの上でどうにか夜を過ごすことも多かったらしい。

 それでも日本の豊かな景色、とくには荒涼とした景色がバードには気にいったらしい。「いたるところに村が散在し、灰色の草屋根に覆われた木造の家屋や、ふしぎな曲線を描いた屋根のある灰色の寺が姿をみせている。そのすべてが家庭的で、生活に適しており、美しい。勤勉な国民の国土である。雑草は一本も見えない」(p.20)と書き残している。掲載されている多数の写真を見ると、日本の自然はまだバードの見たままを残しているところもあるようだが、国民の気風と風景はずいぶん変わったに違いない。

 バードはその生涯のうちに、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、マレー半島、インド、チベッド、朝鮮、中国、モロッコなど多数の国を訪問している。それでも明治二七年には日本を再訪し、二八年と二九年の夏は日本で過ごしていることからも、日本がお気にいりだったことがうかがえる。「ゾッとするような魚と野菜の料理」(p.171)は、がまんできなかったらしいが。

 最近はすっかり旅行案内が完備され、インターネットには画像が集められ、読んだり見たりしただけでも、行った気分になれるのが、はたして良いことかどうか、いささか疑問になる。大きな地図一枚だけで、ひたすら旅行を敢行したバードにならって、いつか旅行案内なしの旅に出てみたいと思ったりした。登山でも、地元の五百メートルしかないような小さな山でも、北アルプスの著名な山より、登るのには苦労することがあるものである。そしてそれなりの満足感も。


【書誌情報】
■イザベラ・バード『日本奥地紀行』を歩く
■金沢 正脩著
■JTBパブリッシング
■2009/12
■175p / 21cm / A5判
■ISBN 9784533076718
■定価 1890円

目次
第1章 横浜から新潟へ(船は東京湾を進む;横浜上陸 ほか)
第2章 新潟から山形・秋田・青森へ(木崎から砂丘地帯をゆく;十三峠を縦走する ほか)
第3章 函館から森・室蘭・苫小牧・平取へ(函館は風の都;静かな蓴菜沼のほとり ほか)
第4章 平取から伊達・礼文華・函館・横浜へ(噴火湾の伊達紋別へ;湖のような有珠湾 ほか)
資料 イザベラ・バード(バードの挿絵ウォッチング;イザベラ・バード 紀行家への軌跡と旅の個性 ほか)



→bookwebで購入

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://booklog.kinokuniya.co.jp/mt-tb.cgi/3640