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2006年11月21日

『フーコー・ガイドブック』ミシェル・フーコーほか(筑摩書房)

フーコー・ガイドブック →bookwebで購入

「フーコーの思考と生活の見取り図」

『フーコー思考集成』全一〇冊の主な文章がちくま学芸文庫で、フーコー・コレクションとして、『狂気・理性』『文学・侵犯』『言説・表象』『権力・監禁』『性・真理』『生政治・統治』の六冊の文庫にまとめられて、読みやすくなったことを祝いたい。これでフーコーが電車の中で読めるようになったと、喜んでおられる読者も多いことと思う。
ところでこの『フーコー・ガイドブック』は、このフーコー・コレクションの別冊という位置づけで刊行されたものだ。この本は三つの部分で構成される。第一部はフーコーの主要著作の解説であり、第二部はフーコーのコレージュ・ド・フランスの講義レジュメであり、第三部はフーコーの年譜である。

第一部は、「フーコーの頭」についてのわかりやすい解説から始まって期待を抱かせてくれるのだが、著作の解説としては少し簡略にすぎて、それほど効率的な導入とはなっていないように思われるのが残念だ。著作解説と用語解説を同時にやろうとしたのが裏目に出たのかもしれない。

それよりも第二部は、コレージュ・ド・フランスの一一年分のレジュメがまとめられていて、とても便利だ。フーコーが毎年発表していたレジュメは、まだコレージュ・ド・フランスの講義が刊行されていない年度のものもあり、一覧性があって、フーコーの晩年の営みを一望できる。

このコレージュ・ド・フランスのレジュメは『思考集成』の原著が刊行される以前から一冊の著書として刊行されていて、実はぼくはこの著作の翻訳を出したくて、いろいろと努力したのだった。ぼくにとって念願だった本がこのような形で成立していることに、複雑な気持ちを抱かずにはいられないが、こうしてレジュメがまとまった一冊になったことは、読者の一人として素直に喜びたい。

これからコレージュ・ド・フランスの講義録が次々と刊行されてくるだろうが、フーコー最後の十数年間の軌跡をたどるためには、フーコーみずからその年の講義について要約した文章は、何度でも立ち返るべき大切な記録だと思うのだ。

第三部は、『思考集成』の第一巻の冒頭に収録されていた年譜で構成される。最後までフーコーを手伝っていたダニエル・ドフェールが作成したこの年譜は、フーコーの活動について背後から照らし出す貴重な証言となっているのである。たとえば1953年1月に『ゴドーを待ちながら』を観劇して、「一つの断絶」とみなし、それから「ブランショとバタイユを読んだ」(二五六ページ)という証言(そして次にニーチェとハイデガーにたどりつくのである)。そしてルネ・シャールの詩を暗唱できない人は、昼食に招かれることはなかった(二六〇ページ)という晩年にいたるまで続くネル・シャールの詩作品への偏愛の証言。

サドとビシャが西洋的な人間の身体のうちに、死とセクシュアリテを位置づけたというノートからの抜き書き(二六五ページ)は、『狂気の歴史』の背景をあかしているし、サピアとウォーフの理論にたいして、「問題は言語ではなく、発話可能性の諸境界そのものなのだ」という指摘は、『言葉と物』のモチーフを浮き彫りにする。アルジェリアで「毎日ギリシア的に身体を鍛え上げ、日に焼け、厳格な生活を身につけるという自分の生の新たなスタイル」(二七三ページ)を構築し始めたという記録には、ついほほ笑んでしまう。

この年譜を読むだけでも、フーコーの思考と生のスタイルがどのように変わっていったかをいろいろと想像することができるだろう。誰でもいい、ある一人の思想家の生活と思考のスタイルの襞のすみずみまで知っておくこと、それはぼくたちに自分の生き方で袋小路に入ったような気がするときに、そこから脱出するために役立つものなのだ。

こんなとき、彼ならどうしただろう、どう判断し、どう決断しただろう。その思考の道筋が自分なりに思い描けるような思想家を一人でも確保しておくことは、とても大切なことだと思う。その意味でもこの小さな、それでいて中身のぎっしりと詰まった本は、とても貴重な手引きとなるだろう。

【書誌情報】
■フーコー・ガイドブック
■フーコー・コレクション (文庫)
■ミシェル・フーコー (著), 小林 康夫 (編集), 松浦 寿輝 (編集), 石田 英敬 (編集)
■筑摩書房 (2006/11)
■326ページ
■ASIN: 4480089977
■価格:1,365円


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