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2007年05月15日

『 グーグル・アマゾン化する社会』森 健(光文社)

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「一極集中への警鐘」

Googleが/Amazonが/Web2.0が凄いという本が最近巷にあふれているが、 本書はこれらのサービスの凄さや面白さを宣伝する本ではなく、 ネットの進化によって発生する一極集中の問題について議論した本である。

ネット上のGoogleやAmazonなどのサービスのおかげで、 今までアクセスできなかった情報に簡単に触れることができるようになったのは間違いない。 沢山の情報が手に入るようになれば人間の行動は多様化しそうなものであるが、 実際はこのような予想に反し、 特定の本がベストセラーになったり特定の会社がひとり勝ちしたりする現象が最近はなはだしい。 簡単に情報を手に入れることができるようになったおかげで、 人気のあるものについての情報が簡単に行きわたるようになり、 誰もがその情報に流されてしまう可能性がある。 また、個人が積極的に情報ソースを選択する「パーソナル化」サービスが普及すると、 誰もが自分の好きな情報だけを見るようになり、 同じような意見をもつグループが固定化する可能性もある。 このような最近のネットのトレンドのおかげで 激しい一極集中が起こりやすくなっていることを著者は危惧している。

一極集中化に関連したトラブルは私も経験したことがある。 参加者が数万人いる掲示板において私がある意見を述べたとき、 対立意見を持つ複数の参加者から罵声をあびせられて 結果的に退散してしまったことがあるのだが、 数万人の参加者全員が私と対立する意見を持っているわけではなかったとしても、 掲示板の記事を見ると声の大きな対立意見だけが目に入るため、 ほとんど全員がその意見に賛成しているように感じられ、 そのような意見につい同調してしまうということは充分考えられる。 また、あくまで意見を異にする参加者は黙っているか退散するかしてしまうため、 同じ意見を持つ人間だけが残るということも充分考えられる。 このような掲示板では意見が一極集中しやすいのは当然であるが GoogleやAmazonのおかげでこれが世界的規模で発生しているとすれば 危険なことであろう。

一極集中の原因についての著者の考察は説得力があるし、 同調圧力についての似た考えの表明も増えてきているが、 残念ながらこの現象の証拠は全然示されていない。 しかし最近はネットワーク分析の研究者によってこのような現象の分析が行なわれている。 たとえばDuncan Wattsは、他人の評価が見える世界においては一極集中が起こりやすいという現象を 実験で証明している。 本書を裏付ける解析/実験結果は今後増えてくることだろう。

著者は一極集中について悲観的であるが、 このような現象はシステムの特性に起因するものであるから、 システムを変更すれば全く異なる状況になることも充分考えられると思う。 ネット上で誰かの意見に耳を傾けることは簡単だが、 別の人の意見にも耳を傾けることもやっぱり簡単なのである。 また、 人為的に情報の流れを制御して、 ガラパゴスのように分裂した環境を作ることができれば、 環境ごとに全く異なる進化がみられるかもしれない。 ちょっとした操作で神のように進化を制御できば実に面白いだろう。 現状のシステムでは一極集中の問題が確かに存在することをふまえて、 多様性を維持する新しいシステムを作っていきたいものである。

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2007年05月10日

『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル ブライソン(日本放送出版協会)

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「科学の歴史を楽しく学ぼう」

広い範囲にわたる科学の現状や発見の歴史について楽しく学ぶのに絶好の本である。
技術を扱う仕事をしている理系の人間でも、 「原子の中身はどうなってるの?」 「宇宙の果てとかビッグバンとかってわかってるの?」 「地球の中身はどうなってるの?」 「バイオって流行ってるみたいだけど何が面白いの?」 といった質問全部にちゃんと答えられる人は少ないだろう。 本書を読めば、 このような様々なテーマの研究の現状や歴史について楽しく学ぶことができる。
量子論から宇宙論、生命に到る広い範囲について、 人類が知っていること「すべて」を解説しようというのは 壮大で無茶な試みに聞こえるし、 実際買うのを躊躇するほど厚い本なのだが、 教科書的な無味乾燥さを全く感じさせることなく 科学者の人間模様や発見の歴史を魅力的に描きながら 幅広い分野の基本的な知識を解説することに見事に成功している。 すべてを順番に読まずに興味のある分野だけ読んでも大丈夫である。
ブライソン氏は「ドーナッツをくれる郵便局と消えゆくダイナー」などの著書をもつベストセラー作家で、 科学については全く素人だったそうだが、 一念発起して科学の歴史や現状を勉強して本書を書き上げたらしい。 ベストセラー作家だけあって語り口は軽妙である。 科学史が語られるとき普通は科学者の人格などについては語られないものだが、 本書では科学者のゴーマン伝説だの不倫関係だの 科学の内容と関係なくて教科書に載らないような裏話も 発見の歴史と組み合わせて語られているので、 分厚い本なのに飽きることなく読み進めることができる。 様々な物語を楽しみながら科学知識もついてしまうお得な本だと言えるだろう。
扱っているテーマが多岐にわたっているため、 各テーマについての解説量は多くないが、 細かいエピソードに到るまで参考文献や情報ソースが明記されており、 さらに深く勉強するための手がかりとすることもできるだろう。
科学の堅い知識を身につけるには 「ガリレオの指」のような啓蒙書が向いているのかもしれないし、 超ひも理論や宇宙論など人気の分野については ブルーバックスをはじめとする一般書や専門書が沢山出版されているが、 広い範囲の科学的知識を楽しく身につけるためには本書は最適である。 現在の科学の面白さについて少しでも興味がある人に自信をもっておすすめしたい。

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