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2010年05月29日

『事件現場清掃人が行く』高江洲敦(飛鳥新社)

事件現場清掃人が行く →bookwebで購入

「孤独死と自殺の現場処理をするという仕事がある。」

 ご縁があって、孤独死現場となった部屋の特殊清掃をすることを生業とする社長と立て続けに出会った。1人は女性。1人は男性の社長である。
 おもしろそうな仕事だと思い、現場を見させていただきたい、と話した。1人は、見せられない、ひとりは是非見て欲しい、と言った。

 まだ僕は現場を見ていない。

 友人のノンフィクション作家が浜松に遊びに来たとき、事件現場清掃人について「週刊プレイボーイ」に連載されている、すごい現場だぞ、と言う。じつは、その業界の知り合いがいる、と話しが弾んだ。

 短期間で3人の人間から、特殊清掃の世界について教えられた。しかし、断片的な情報だけである。

 まとまったノンフィクションを読みたい。そこで「事件現場清掃人が行く」を手に取った。

 孤独死や自殺がニュースになっているが、「特殊清掃」とはその現場を清掃して復元する仕事である。

 現場は汚れている。人間は死ぬと腐敗する。その腐敗臭にひかれて蠅が死体に卵を産む。卵から生まれたウジが、死肉をたべて成長する。そして羽化して蠅となる。部屋中に充満する腐臭。死肉を食らう蠅とウジの饗宴となる。

 現場にいって、窓に黒いカーテンがひかれている、とおもって近づくとすべて蠅だった。そんな目を背けたくなる現場である。

 著者の高江洲はこの業務だけに絞って稼いでいる。

 この仕事を始める契機となったのは自殺者の遺族との出会いだった。自殺した人間の部屋は汚れている。このままでは賃貸物件としては使い物にならない。大家は、遺族の両親を責めるのである。あんたの子供のせいだ。親は謝るしかない。

 特殊清掃をする業者はすくない。安い価格で受ける業者は、質の低い仕事をして、大家を困らせる。大家にも、遺族にも喜ばれる仕事として、高江洲は特殊清掃に賭けることにしたのである。

 超高齢社会。未婚社会。単身者社会。この3つはつながっている。ひとりで孤立して死んでいく「孤独死」のリスクがあるということだ。

 高江洲は1000件をこえる事件現場を清掃してきて、自殺と孤独死が増えていることを身をもって知った。

 現場は凄絶ではあるが、人間が腐乱して死んでいくというのは自然の摂理。人が孤独になるのは、家族や社会からの孤立を選択した結果でもある。高江洲は、孤独死を防止するために声高に、社会が間違っている、とは言わない。現場清掃のプロとして、孤独な死を選択したとしても、その死体と部屋を清掃するというニーズがある、遺族からの心からの感謝の言葉があるから、天職だと思った、と重苦しく語るのだ。

 僕が浜松で出会った社長もおなじことを言っていた。「普通の商売と違う、本当に感謝されるいい仕事なんですよ」。

 ビジネス書としても価値のある一冊だ。孤独死の周囲には、大きなビジネスチャンスがあるのだ。孤独死を防止するための取り組みから、孤独死になってしまったあとのケアまで。死を巡るビジネスについては、成熟した日本の経済のなかで成長分野の一つである。

 死のタブー視は、特殊清掃を日陰のビジネスにおとしめるだけ。それでは、遺族にすべての処理を任せることになり、悲劇の連鎖が止まらない。プロによる、ビジネスによって悲しみが止まるのである。
 


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