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2010年04月06日

『書いて稼ぐ技術』永江朗(平凡社)

書いて稼ぐ技術 →bookwebで購入

「出版不況のなかで読むライター指南本の読後感はほろ苦いに決まっているだろう!」

 出版物の生産地としての東京はいま揺れている。twitterだ、ブログだ、キンドルだ、iPadだあー、出版構造の大転換がきているぞー。だけどどーしよーもねー。光文社は倒産の危機だー。リストラなう、というブログをみていると、ぎゃはは、と苦笑するしかないという惨状。
 そんな出版不況のなかで、健筆をふるい続けているベテランライター永江朗さんの新刊。『書いて稼ぐ技術』。雑誌休刊が続き、専業ライターが次々と廃業、転業に見舞われる中、挑戦的なタイトルです。twitter検索で、「ライター」で検索すると、食えない、もうダメだ、あの編プロは経営危機だ、というつぶやきが、どーんとタイムライン表示されることでしょう。

 ライターはいい仕事だよ、文章を書くことで稼げますよ。永江さんはその脱力的な語り口でこんこんと説いていきます。
 

こんな時代だからフリーライターに、と私が考えるのは相対的に出版産業が不況に強いから、ということもありますし、それよりなにより、「いざとなったら会社より個人」と思うからです。会社はつぶれるけど、個人は死ぬまでつぶれません

 そう、永江さんは、会社が当てにならない時代であることは百も承知。たくさんの雑誌が休刊になり、編集部が解散していくのを見届けてきました。編集者やライターという職業に過剰な思い入れをもっていないのでしょう。いろんな仕事のひとつ、という割り切りがありますね。
 永江さん自身、会社員経験があり、副業としてライターをしているうちに、なし崩し的に専業になったタイプ。会社員と自由業の両方を知っている。こういう複眼思考は実に大切。フリーターからライターになったような(僕もそのひとり)タイプは、コンテンツでメシが食えること自体に興奮して、自分の仕事を俯瞰して見ることを避けていると思う。
 永江さんはライターの原稿料と印税収入で家まで建ててます。ライター専業で家を建てるのは反則だろう、と嫉妬してしまう同業者は多いでしょう(僕もそのひとり)が、本書を読むと、永江さんの金銭感覚と、仕事への取り組みを知れば、なるほど家が建つわけだ、と納得することでしょう。

 他の産業と比較すれば、出版社のビジネスモデルは脆弱。原稿料について確認なしで仕事が進むという、どんぶり勘定、義理人情に基づいた商習慣など、欠点についてはいくらでも上げることができます。しかし、副業としてみると、たいへん楽しい仕事です。
 僕は専業ライターとしては挫折組なのですが、この不況で専業を諦めるノンフィクションライターが増えてなんとなく楽しい(失礼!)。専業を辞めたとしても、人生が終わるわけではありません。会社に就職しても出来ることは多いことは意外と知られていないんじゃないかな。
 
 本書のなかで、僕の会社員としての仕事ぶりが紹介されています。リスク管理術(不動産術 194ページ)という章の一節です。
 

ライターの石井政之さんはワンボックスカーを改造した移動式書斎、キャンピングカーならぬスタディカーを販売しています。正確に言うと、石井さんが販売しているわけではなく、販売している会社に石井さんが所属しています。実際に見せてもらいましたが、ベンチとテーブルがあって、パソコンの電源も取れるようになっています。これなら景色のいいところに駐めて原稿を書けそうです。資料もたくさん運べますし、寝泊まりだって可能です。

 永江さんには、昨年夏の高遠ブックフェスティバルでお会いしました。勤務先のカスタムカーを移動書斎に仕上げて、浜松市から4時間かけて(若い社員に運転してもらって)長野県高遠入り。そこで、高遠ブックフェスの主宰者のひとりで、ライターの北尾トロさんに挨拶。広場で自動車を展示していると、ノンフィクション作家の早坂隆さん、ライターのナンダロウアヤシゲさん、河出書房新社の編集者らが歩いているので、あらー久しぶり!、と旧交をあたためて歓談(というほど、僕は人付き合いがまめではないのですが)。ワンボックスカーの中に書斎をつくって販売しようと思うんだけど、どーでしょうか、というネタで、あーでもないこーでもない、と意見をいただく。そんなやりとりを会社のブログにアップしたり、その様子を出版業界紙「新文化」の編集長に取材してもらったり。
 来週は、福祉車両のお客様訪問取材のために大阪南部まで出張の予定。シルバー業界紙にレポートを寄稿するチャンスもいただきました。 

 ライター専業やめても、なんとかなります。ライターというスキルと、市場が求めるものの結節点を見つけることは可能です。

 永江さんは、ライターを「好奇心代行業」と定義しています。いい表現です。「代行」だからビジネスになる。


 「出版業界の将来について私は楽観的に考えています。というのも、人は『知りたい』動物だからです。『知りたい』に応える仕事は常にあります」

 僕はこの一文を読んでぱーんと膝をたたきましたよ! リーマンショックから、全世界的に変化の時代になりました。人々は、自分がどういう時代に生きているのか、どうしたら幸福に暮らせるのかを「知りたい」と渇望しています。いまほどコンテンツが求められているときはありません。ネットやtwitterで情報を貪欲に収集できるようになりました。知りたいという欲望、コンテンツへの需要は高まっています。

 ライターってほんとうにいい仕事ですよ。



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