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2009年07月30日

『2011年 新聞・テレビ消滅』佐々木俊尚(文藝春秋)

2011年 新聞・テレビ消滅 →bookwebで購入

「私たち自身が一生懸命考えて、新しいメディアを作っていけばいい」

日本のテレビ、新聞などのマスメディアのビジネスモデルがまもなく崩壊する、ということを事実を元に提示したノンフィクション。著者は、IT分野を専門に、ネットとリアルの世界の両方を取材してきた、この分野の第一人者、佐々木俊尚氏。佐々木氏は毎日新聞で約12年、事件記者してきたという経歴の持ち主。紙媒体というオールドメディアと、ネットという新しいメディアの特質の両面を知った貴重なジャーナリストです。

マスメディアのビジネスモデルが揺らいでいることは、この書評欄でも再三にわたって伝えてきました。

新聞の発行部数を偽装する「押し紙」問題を追求した、黒藪哲哉氏の「危ない新聞」、記者クラブの崩壊をユーモアたっぷりの筆致で描いた、上杉隆氏の「ジャーナリズム崩壊」。ほかにも多数のメディア批判の書が刊行されるようになりました。

しかし、はたから見て、どんなにひどいビジネスをしていようが、それが法的に問題にならず、キャッシュフローが動いている限りにおいて、そのビジネスモデルは崩壊しません。

本書では、そのビジネスモデルが崩壊していることを、さまざまな事実をもとに検証していきます。

今年2008年は、日本のジャーナリズムが手本としてきた、アメリカの新聞ジャーナリズムが崩壊した年でした。

アメリカでも日本同様に、読者の新聞離れによる購読者数の減少と、それにともなう広告収入の減少がずっと続いていました。そこに昨年夏に発生したリーマンショックによる金融危機が追い打ちをかけて、バタバタとアメリカの新聞社が経営危機、廃刊に追いやられていきました。アメリカでは失業したジャーナリストたちが新しい職を求めてさまよっています。

あのニューヨークタイムズでさえ、いつ倒産してもおかしくない、と見られています。

佐々木氏は、アメリカで起きたことは3年遅れで日本にやってくる、という仮説をもとに、日本のメディアビジネスモデルの変化を読み取っていきます。

ウィンドウズが発売されてインターネットによる情報革命が始まり、二つの変化が、マスメディアのビジネスモデルを揺るがしています。

第1に、インターネットの普及によって、情報は無料で入手可能、という常識が人々にゆきわたったこと。

第2に、情報を伝達・入手するために必要なインフラコストが極限まで安くなったこと。

このふたつの大転換によって、インターネットが登場する以前の、マスメディアから読者への一方通行型の情報提供(それに付随する広告)によるビジネスモデルが通用しなくなりました。

ひとりでも、ひと昔前のマスメディア並みの情報発信力をもつことが可能になったのです。

テレビ、新聞、雑誌の現場で働く人たちも、自分が所属するメディア企業としてのピークが過ぎたことは知っています。でも、どうしたらいいのかわからない。私の知人が所属する新聞社では、30代の記者のうつ病が増加しているといいます。将来が見えない。団塊の世代の新聞記者たちは、自分たちの退職金のことしか念頭にありません。記者クラブでの発表資料からのリライト作業ばかりさせられてきた(新聞紙面の多くは発表モノばかりです)、多数の記者たちは閉塞感のために立ちすくんでいます。


ネットの掲示板にアクセスすれば、既存のマスメディアへの批判が溢れています。なかには的外れの批判もあるでしょう。その一部のネットユーザーを敵視、軽視してきたのが日本のマスメディアです。

アメリカでは、オールドメディアの代表格の企業群が、積極的にネットをビジネスに採り入れてビジネスモデルの再構築を急いでいました。日本のように片手間ではなく本気で。しかし、ネットによる情報革命によって、もうネット以前に維持できた収益・組織・人材を維持することはできなくなったのです。

本書を読むと、3年後の2011年といわず、遠からず、日本のマスメディアの崩壊が「表面化」することに納得できます。

これからの数年で、大手の新聞社、テレビ局、雑誌発行元の出版社が、倒産、破産していくことでしょう。または、大規模なリストラの断行、それに抵抗する社員たちによる労働争議も勃発することでしょう。大手記者出身のホームレスも出てくるかもしれない。私の身近では、フリーライターの先輩がホームレスになりました。(すごい雑誌を作るという構想があるんだけど、石井も参加しないか?とたまに電話がかかってきます)

どんな不況になっても、信頼される情報を提供するジャーナリズムは生き残ります。きちんと取材した記事を読みたいというニーズはある限りジャーナリストに仕事はある。ただし、そのジャーナリストとは、大きなメディア組織に所属する社員とは別のワークスタイルになっていることでしょう。

旧来型のマスメディア産業が崩壊するのであって、ジャーナリズムはこれからも必要とされる、と佐々木氏は強く語りかけてきます。

「私たちにとって必要なのは、新聞やテレビじゃない。必要な情報や良質な娯楽、そして国民として知らなければならない重要なニュースにきちんと触れられるメディア空間だ」

「私たち自身が一生懸命考えて、新しいメディアを作っていけばいい」。

情報革命によって、そのメディア空間をつくるためのインフラは整っています。
あとはやるだけですね。



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2009年07月20日

『旅の夢かなえます』三日月ゆり子(読書工房)

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「旅は異文化コミュニケーションであり、そして人生そのもの。」

日本は諸外国と比較すれば、高速道路、鉄道、バスなどの交通インフラが縦横に張り巡らされた便利な国だと言えるでしょう。
しかし、日本はどんな人でも自由に移動ができる国になったのでしょうか?

ユニバーサルデザインという視点で見ると、まだそのような社会になっていないようなのです。

本書には、言葉が通じない外国をひとりで旅する全盲の人、頸椎損傷の人が登場します。

身体がうまく動かない障害者、それだからこそ、自分の力で旅をする楽しさは格別!

旅をした当事者のシンプルな感動が、素直でストレートな文体でまとめられています。

目が見えない人にとって、海外旅行の醍醐味の一つ異国の風景を楽しむことができないのでは? と目が見える私は捉えてしまいます。

それは目が見える人間の先入観に過ぎません。

取材者の三日月氏による丁寧なインタビューを読んでいると、その全盲の人が視覚以外の全感覚をつかって、旅を楽しんでいることが伝わってきます!

障害学という学問があります。障害とは、個性的な身体を持った人を排除する社会の側がつくっている、という立場にたつ学問です。

障害のある人達が旅をする上で、立ちはだかるのは、まさに「障害者を排除する社会の仕組み」。

その仕組みに気づいた起業家たちが、問題を解決し、障害をもった人達のための「普通の」旅行ビジネスを提供しています。

しかもその主役は中小企業です。

ユニバーサルデザインの発想で障害者をターゲットにした旅行ビジネスを展開しているのは、大手旅行代理店ばかりではないか、と思っていました。

現実は違います。数人規模の旅行会社が、最高のサービス、ホスピタリティを提供できている。

なぜそんなことができるのでしょうか。

障害者も、普通のサービスを求めている、普通の顧客、普通の人。

その当たり前のことを知った上で、その個性的な身体にあわせたサービスを提供することができているからです。

つぶれかけた下町の旅館経営者は、外国人客を泊める旅館経営を目指しました。

英語は片言しかできない。外国人ビジネスマンのためのゴージャスな内装はない。英語が堪能なアルバイトの人もいない。

それでも、ひとりひとりのお客様のニーズに懸命にこたえていくうちに、すばらしいホスピタリティの旅館だ、という評価が外国人の間で高まっていきます。

旅館の主人は、外国人のお客様が連日宿泊して忙しくなります。でも、日本人宿泊客だけだったときよりも楽しい。ストレスがない。

その理由は、旅館側と宿泊客の立場の違い。

日本人宿泊客は、旅館では上げ膳据え膳を期待し、旅館経営者よりも自分たちの立場が上だと考えて宿泊しにきます。旅館の主人も、お客様のほうが立場が上、と教え込まれてきました。

しかし、外国人客は、宿泊にホスピタリティを求めるけれども、自分でできることは自分でやる、という考え。旅館の主人は、求められたことにこたえていくことに専念して、満足してもらえたといいます。

 旅とは異文化コミュニケーション。

 異なる身体を持った人(障害者)、異国の文化をもっている人(外国人)は、普通の日本人とは違う何かを求めています。旅という非日常のなかでは、その違いが際だちます。そこが楽しい、だから旅なのです。

 ちょっとしたトラブルを楽しみながら、人は旅をします。それは人生そのものでもあります。


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2009年07月01日

『奇想ヤフオク学』橋本憲範(平安工房)

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「古本を3億円売って世界一周!」

6年間で3億円の古書を売り切った、伝説の古書店エーブックスの店主が書いた、ヤフオクビジネスのすべて。
この本の存在をまったく知らなかった。

まずはこの書籍にたどり着くまでのことを書きます。

自動車の広報の仕事のなかで、ハイエースを使って多様なライフスタイルを送っている人について調査をしていました。

移動する古書店、という試みをしている人で、東京以外の地方都市でいないかなぁ、と。

「ハイエース」「古書」という二つのキーワードで検索してみます。水と油のようなコンセプトのキーワード検索だと思いました。そのなかに、エーブックスの店主のブログが見つかりました。

http://abook.jugem.jp/?eid=450

頼んでおいたハイエースが来た。 待望の仕事専用の車である。これで家族に気兼ねなく仕入れにいけることになる。

ハイエース(正確にはレジアスバン)を選んだのは、荷物が積めないから、買うのを控えるということにならないようにしたいという思いからだ。
普通の駐車場が利用でき、最大級の積載となれば、ハイエースになる。
トヨタ以外にも似たような車はあるが、金もない私の家にちょくちょく訪ねてきていたトヨタのセールスマンの売上げにしてあげようという気持ちも少しはあった。
荷台が大きければ、いらない荷物を積んでおくこともでき、簡易の倉庫としても使えるだろう。


こういう人を探していた! とガッツポーズ。

と、それからブログを読み込んでいくと、たいへんな文章力。しかも、書籍も出していることがわかりました。

本書は、この伝説の古書店エーブックスのブログ本です。

文章がうまいのは、それもそのはず。店主は放送作家の経験があり、小説家志望でした。作品のいくつかが小説の賞の最終選考に残るほどの実力の持ち主。

その橋本氏が35歳。2000年。小説家デビューのために仕事を辞めて背水の陣で執筆に集中したものの、作品は書けず行き詰まる。そのときに蔵書をヤフオクで売って小遣い銭稼ぎをするように。その魅力にはまってしまい、ヤフオク専門の古書店経営に踏み込んでいきます。

橋本氏は、サラリーマン歴2年半。あとは放送作家、小説家になるための糊口をしのぐための宅配便ドライバー、というフリーランスの仕事の経験はありますが、インターネットにも古書業界にも詳しくない、いわば素人。

ダメになったら辞めればいい、という脱力系の決意からはじめたビジネス。業務の効率化と改善への努力が、売り上げアップにつながることを知り、商売人として目覚め成長していきます。

リアル店舗の経営に挑戦して失敗したり、アルバイトを雇って社会貢献をしようとするけれどすぐに退職したり。

経営者としての普通の経験を積んでいく姿を、肩の力を抜いたブログ文体でサクサクと描かれます。

橋本氏は、古書を大量に仕入れ、大量に売り切るというノウハウをもったために、同業者からその豪腕ぶりが噂になるほどになってきます。

しかし、ある日儲かっていても充実感がない、と気づいて、古書ビジネスを辞めることに。店じまいをしたときに、税務署の調査員3名が突然やってきます。
これで、一巻の終わりかな、と思いきや、2007年に1年かけて世界一周の旅に出てしまいます。きっちり貯めていたんですね。さすがです。

こういう人生、いいよね。

無冠の帝王みたいでさ。


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