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2009年05月22日

『働き方革命』駒崎弘樹(筑摩書房)

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「失われた世代が、働き方革命を起こす!」

  日本人はワーカホリック(仕事中毒)である、と海外から言われ、日本人自身も自虐的に語り続けて幾星霜。
 「過労死」という、不条理な死が批判されても、過労死はなくなりません。1年の自殺者数が3万人を超える異常事態が続いていますが、沈静化の兆しは見えません。  マスコミが、このままではいけない!と訴えても、そう語るマスメディア自身が長時間労働の勤務体制。うつ病がたいへん多い業種になりました。  日本では、女性も男性並みに働かないと評価されません。だから第1子を産んだ女性の約7割が退職するしかなくなってしまう。残業をすると、育児ができない。育児のために定時退社すると、「だから女は使えない」と嫌みを言われる。母になった女性は会社に居場所がなくなります。やむなく退社。男たちは、妻子を食わせるために、さらなる長時間労働に追い立てられていく。かくて会社は、長くハードに働いた者だけが評価される、というヘンな組織になっていきます。過労で倒れるまで働くことを誰も止めない、止められない。過労がゴールの不条理なトライアスロンレースのような労働しか選択肢がないのだろうか。自分で自分の首を絞めるような労働環境です。

 著者の駒崎弘樹さんは、ITベンチャー経営者から転身し、病児保育サービスNPO法人フローレンスを立ち上げた社会起業家。起業家とは、ワーカホリックな人種である、そうでなければならない、と思いこんでいましたが、本書は、その思いこみをサクサクと否定してくれました。働き方の仕組みを設計していれば、無駄な長時間労働を避けることができるし、家族との時間も確保できる、地域とのつきあいも普通にできる。それを実体験をもとに語ってくれているのです。
 駒崎氏は、ITベンチャー経営者のときに身につけた、馬車馬のような働き方を疑うことなく、NPO法人フローレンスの立ち上げに奔走。しかし、組織が大きくなるに従って、心身ともに余裕のない自分に気がつきます。常時メールをチェックしないと落ち着かないメール中毒、おだやかな表情をつくれない無表情・不機嫌顔、ロジカルシンキングだけでコミュニケーションをし、話の結論を最短時間で確認しようとするクールな話法依存。このままでは、経営者としても生活者としても、破綻することを察知した彼は、自分自身の働き方を変える「働き方革命」にチャレンジします。
 自己啓発とか、ポジティブシンキングに対して、気持ち悪い、と感じる、普通の感性の青年が、人間らしい働き方を習得するために、さまざまなプロに教えを請う姿が、軽妙なタッチで表現されています。しかし、その軽妙さの裏には、血を吐くような、自己改革のための痛みがある。
 この「書評空間」で、駒崎氏の著作を紹介するのはこれで2冊目となりますが、この人には文才があります。語るべき経験を、一般の人にわかるシンプルにして楽しい表現に落とし込む能力がある。
 この力のある言葉に引き寄せられて、駒崎氏のもとに若く優秀な女性、学生、専門家たちが集結していく。納得。言葉はもっとも効率のよい働き方の成果なのですから。
 政府の審議会で、日本人の異常な働き方はすでに議論されており、改革のための方策もつくられようとしているようです。しかし、その審議をまとめる霞ヶ関の中央官僚たちは、日本で最高水準のワーカホリック集団であり、なおかつ社会問題解決の先送りをする仕組みで身動きがとれない組織です。この審議会のスローな展開を知った、駒崎氏は、本書の最後に(霞ヶ関に向かって)こう言いはなっています。

 「僕たち失われた世代が、働き方革命を起こし、我が国を変えるでしょう」
 

 仕事から離れたら何の取り柄もない。知り合いもいない。心から語り合える友人もいない。家に帰宅すると「他人」となった女性(男性)と幼児がいる。職場の同僚が次々とうつ病になる。出産・育児を理由にした退社が連続する。そんな社会が普通であるはずがありません。

 本書を読んで「働き方革命」に参加しましょう!




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