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2009年02月19日

『移民環流』杉本春(新潮社)

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「日系人は日本人。緊急支援がないと難民化する!」

 昨年秋に表面化した世界同時金融危機。この影響で日本の自動車産業は壊滅的な打撃を受けています。そのしわ寄せは、日本社会でもっとも弱い人達、外国人に押し寄せています。製造業で働いてた日系ブラジル人の派遣切りが止まらないのです。いま日系ブラジル人の失業率は50%以上。3月末には80%を超えるという予測もあります。
 本書は気鋭のノンフィクション作家が、ブラジルと日本を4年間往復してできあがった作品。日本最大の日系ブラジル人コミュニティのある静岡県浜松市の人間として、興味を持って読みました。

 時代の変化にめまいがしました。本書が刊行されたのは08年11月末。夏に校了して、印刷されたはずです。この時までは、日系人は派遣社員という不安定の立場ではありましたが、それなりに普通の生活を送っていました。この半年間で、普通の生活から失業者の群れへと転落していったのです。

 本書は、約100年前に日本から南米に移民した農民の子孫たちが、1990年の入管法の改正によって、日本社会のなかで漂流していく様子を見事に描いています。

 約20年前、バブル経済で好況にわいていた日本では、若者が工場労働を嫌い、製造業では慢性的な人手不足に陥っていました。このとき、産業界が、日本社会からの反発が少ない外国人労働者として注目したのが日系人でした。日本がバブルで踊っていたとき、ブラジルはハイパーインフレで経済はどん底。仕事を求める日系ブラジル人は、単純労働で高給がはいる日本社会に押し寄せました。それはジャパニーズドリームだったのです。しかし、この「デカセギ」は、さまざまな歪みを抱え込んでいました。20年前から、家族で日本に移住した日系人たちは、日本で結婚して子供を産み、育てました。その子どもたちは、残業手当による豊かな生活を目指す両親に放置されました。親子間で、満足なコミュニケーションができない、ポルトガル語も日本語も満足に理解できない、中途半端な「文盲」の子どもたちが育ってしまったのです。日本社会には、移民政策というものがありません。したがって、彼らの教育はすべて「自己責任」とされてしまいました。こうして、日系ブラジル人の悲劇的な状況を生み出す火種は蒔かれたのです。自動車産業が好調であれば、人々はその火種をなかっことにして目を逸らすことができました。しかし、いま、世界金融危機によって、火種は紅蓮の炎として立ち上っています。

 言葉が理解できない、日本社会でまともな仕事につけない。疎外感からアウトローになる若者が現れます。窃盗団にはいり、数分の「仕事」で何十万円のお金を手に入れる方法を知った彼らを止めるのは刑務所しかないという、暗い現実を、著者は緻密な取材で浮き彫りにしています。

 デカセギにきた大人も幸福とは言えません。家族が日本とブラジルに引き離されたため崩壊。デカセギ日系人の離婚率は約50%。稼いだお金は、電化製品、住宅ローン、新車ローンに変えてしまい、将来を描けない大人たちはこの経済危機になすすべがありません。

 著者は、本書の末尾で、日系人たちを支援するボランティア活動を紹介します。しかし、超人的な善意を発揮する一部のボランティアの力では、この未曾有の危機には無力なのです。

 そろそろ私たちは真剣に考えなければならないし、認めなければならない。

 日系ブラジル人たちは、日本に移民に来てくれた「新しい日本人」であるということを。彼らを外国人であるからと、放置するのであれば、日本国内には何十万人もの難民集団が忽然と生まれることになってしまいます。

 援助がない、食料もない、仕事がない。絶望した難民たちが、どのような行動をとるのかは歴史が証明しています。



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