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2008年12月30日

『マーケティング・リテラシー』谷村智康(リベルタ出版)

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「広告が効かない時代のマーケティングとは」

 世界の金融危機によって、輸出に依存してきた日本を代表するグローバル企業群(とくに自動車、家電)の凋落が始まりました。その恩恵を受けてきた産業である、メディア産業も危機に瀕しています。新聞、テレビ、雑誌という主要メディア企業は次々と赤字決算を発表しています。
 メディアは自動車産業の減収減益を傍観することはできないはず。経営者たちは、いま脂汗を流して帳簿をみていることでしょう。  メディア産業の収益の柱は、広告収入です。マスメディアは読者からお金を取るのではなく、その媒体に広告を載せることで利益を出すというビジネスモデル(儲ける仕組みのことをいいます)で企業活動をしていきました。赤字決算に転落したのは、この広告収入が減ったためです。なぜ減ったのでしょうか。それは、マスコミにだす広告の効果がなくなってきたため、広告主が逃げ出したからです。

 著者の谷村さんは大手広告代理店に勤務したことがあるマーケティングの専門家。プロならば当然、という広告の手法とメカニズムを前著「CM化するニッポン」で明らかにして話題になりました。テレビ番組のなかに、広告主がもとめる商品を滑り込ませるという広告手法を、視聴率や広告収入を気にしなくてもよいはずのNHKも導入している、という事実には驚かされました。
 
 その続編の本書は、インターネットと、メディア産業の受難(つまりは産業構造の転換期)というテイストが加味されて、ぐっと辛口度がアップしています。

「マスメディアを使った広告で、消費を束ねて売り買いする」という古いビジネスモデルはもう崩れつつあります。わが身を振り返ってみれば、マスメディア広告を見て商品を買った経験がほとんどない。あったとしても、少額商品に限ってのことと、大方の人は思うでしょう。この事実が「広告は終わってしまった」ことを明確に示しています。

一方で、一人ひとりの振る舞いを、検索からメールから判断して、「あつらえたかのように広告する仕組みが実現しています。「プライバシー」を代価として、ユーザーは検索やメール、あるいはアプリケーションソフトといったサービスを「無料」で受けているのです。

この「新しいプライバシーの取引」の前では、現在のマスメディア広告では効率が悪すぎます。広告主は当然のごとく新しい手法に乗り換えていきますし、消費者も自分に必要な広告を使っていきます。おそらく近いうちに、私たちが目にしている広告依存型のマスメディアは淘汰され、劇的に縮小していくことでしょう。


 自動車産業はカイゼン、グローバル化、で強い経営体質をつくってきましたが、メディア産業は、非効率な経営環境、国内だけの市場、という閉じた世界に長くいたため、組織改革をして生き残るためにはおおくの犠牲を必要とすると思います。
 日本のメディアのトップは、かつて良質なコンテンツをつくった元クリエイター(元記者、元ディレクター)がおおく、優秀な経営者が不在というリスクもあります。
 このような厳しい経営が、テレビ番組のなかにはっきり出ています。
 いつもと同じタレントをつかった、同じようなバラエティ番組。その番組の合間にながれるコマーシャルは、発毛効果をうたう会社や、パチンコという賭博ビジネスが増えてきました。このような広告主はゴールデンタイムには広告を出すことはできなかったはずです。しかし、いまはありふれていて、もう違和を感じなくなっています。
 ブロガーの内田樹さんも、こんなエントリーを書いています。

http://blog.tatsuru.com/2008/12/26_1219.php

名越先生に聞いた話では、テレビの制作費は以前の10分の1ほどまで下落しているそうである。 TVCMの単価も値崩れしているから、テレビをつけると消費者金融とパチンコの広告ばかりが目に付く。 電通はタクシー使用が禁止されて、営業マンは地下鉄で得意先を回っているそうである。 「テレビの時代」はおそらく終わるだろうと私は思っている。 ビジネスモデルとしてもう限界に来た。 簡単な話、「制作コストがかさばりすぎる」からである。 テレビ業界に寄食している人の数があまりに多くなりすぎのである。 これだけ多くの人間を食わせなければならないということになると、作り手の主たる関心は「何を放送するのか」ということより、「これを放送するといくらになるか」という方にシフトせざるを得ない。 ビジネスとしてはその考え方でよいのだが、メディアとしては自殺にひとしい。

 こういう自滅型のビジネスモデルが、東京のマスメディアの現実なのだ、ということにびっくりします。
 谷村さんは、古いビジネスモデルにさようなら、と言っていますが、これからどうしたら効率的な広告ができるのか、マーケティングができるのか、という答えは書いていません。

「自分で調べて、自分で考えて、自分の判断で行動する」という当たり前のことが求められているのです。

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