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2008年01月16日

『ルポ 最底辺-不安定就労と野宿』生田武志(筑摩書房)

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「当事者ジャーナリズムの成果」

 当事者がジャーナリストになる。私はこれを「当事者ジャーナリスト」、または「当事者ジャーナリズム」と呼ぶ。
 この『ルポ最底辺 不安定就労と野宿』を、その成果の一つとして読んだ。

 著者の生田武志氏は、同志社大学を経て、日本最大の寄せ場釜ヶ崎の日雇い労働者になる。20年間、この土地で働きながら日雇い労働運動・野宿者の支援活動に関わってきた。

 この本で描かれていることはすべて著者の体験と、その体験に根ざした視点で貫かれている。野宿という文字通り、「地を這う視点」で書かれたルポだ。
 
 新書740円。ランチ価格と同じにするのはもったいない。貴重な情報が詰まっている。

 目次を一瞥するだけで、日本の野宿者たちの実態の深刻さに言葉を失う。

 

はじめに
 北海道・九州・東京、その野宿の現場

 北海道 零下10度の野宿
 北九州 家族5人の野宿
 東京 ネットカフェ難民/フリーターが野宿になる時代

 北海道札幌市の1月の気温は「日中でもマイナス1・5度。夜回りしている時間はマイナス4度。そして夜明けにはマイナス10度前後になる」。この環境下で確認された野宿者は約130人。「氷点下20度を下回る日が珍しくない旭川市」では、約20人の野宿者がいる。

 北九州では、「借金で逃げている十代の女の子2人、二十代の息子、父、祖母という家族の野宿」がいる。

 そして、日本最大のフリーターと派遣労働者の使い捨て都市、連日電車飛び込み自殺が発生している絶望都市東京では、貯金を使い果たしてアパートを追い出された人たちが「ネットカフェ難民」になり、5時間の「ナイトパック」1218円で雨露をしのいでいる。このお金もない者は、一杯100円のマグドナルドのコーヒーで、店内で寝て日雇い仕事に「マグドナルド難民」がいる。

 2007年4月の厚生労働省の統計によれば、日本のホームレス数は1万8564人。このホームレス(著者は野宿者とホームレスを分けているので、詳細は本書を読まれたい)が急増する可能性がある。それは、日本国内のフリーター人口が400万人以上いるからである。フリーターの平均年収は200万円に達しない。この人たちの多くが、実家で家族と同居していることでかろうじて生活を維持しているが、親の高齢化による死、家庭不和で家を出る、という事態になったとき、真っ逆さまに貧困生活に落ちていく。そして日本の生活保護制度は、行政の怠慢によって機能していない。いちど貧困におちると、企業も行政も家庭も助けないし、助ける仕組みがない。孤立無援の貧困者に、サラ金などの貧困ビジネスの猛者たちが群がり、すべてを奪い尽くしていく。

 こうした事実を、生田は丁寧な筆致で書いていく。怒っているのだと思う。が、「私は怒っている」という記述はまったくない。このため、読み手に野宿者の現実が迫ってくるのである。

 これから野宿者になっていくことが危惧されるのは、いま不安定就労を余儀なくされている人たち、とりわけ、若者と女性である。これは、いまの日本の企業が、人件費を圧縮するために正社員とし雇用しないと決定し、労働市場から排除された人たちである。

 このまま事態が推移すれば、住む家を失いつつある者、失った者が、自殺するか、犯罪者となって刑務所という究極の生活保護に頼るしかなくなると思われる。

 この事態を招いた要因の一つは、普通の人たちが、野宿者たちを差別と偏見で見ていたことにある。しかし、これからは普通のフリーター、普通の派遣労働者が野宿者に転落する時代が到来する。差別と偏見がなくなるかもしれないチャンスが来たともいえる。


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