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2008年01月27日

『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』水野和夫(日本経済新聞出版社)

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「帝国の奴隷にならないために」

 この10年ほど、美しい外見という付加価値をもとに社会が動くことによって、人々が生きづらくなっている現実を書いてきたものの、正直言って、経済や資本主義についてしっかり勉強をしたことはなかった。付け焼き刃の勉強さえしてこなかった、と思う。いまベストセラーを量産している勝間和代さんの言葉を借りれば、私には「金融リテラシー」がない。「資本主義のリテラシー」を身についていない平均的な日本人だと思う。そこで昨年から経済や会計の本ばかり読むように心がけてきた。

 外見問題という、きわめてニッチなことばかり考えてきた私にとって、経済の知識を得ることは、池泳ぎしか知らなかった少年が、大海に飛び込むような感覚だ。そこで選書の羅針盤として、エコノミスト池田信夫氏のブログのなかから、「今年のベスト10」を参考にさせていただいた。

 私は本書『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』に何が書いてあるのかほとんど知らないまま読み始めた。本書で書かれていることが、経済通の常識なのか、そうでないのか、私には判断することはできない。それでも一国単位の枠を超えたグローバル経済が、企業活動、家計、経済政策に影響を与えていく、大きなうねりを理解することができたと思う。

 著者は、グローバリゼーションで生じている大きな構造変化として、3つの動きを指摘している。

(1)帝国の台頭と国民国家の退場=帝国化
(2)金融経済の実態経済に対する圧倒的な優位性=金融化
(3)均質性の消滅と拡大する格差=二極化

 帝国とは国境を越えて活動する国家群である。アメリカ、中国、ロシア、インドなどが帝国にあたる。この国家群のある地域は、資本主義が歴史上に登場した16世紀頃に世界の覇権を握っていた、まさに「帝国」である。この帝国が21世紀になって世界の資本主義を動かすプレイヤーとして復活したのである。このダイナミックな動きのなかで、一国だけで利益を生み出そうとする国民国家、特に非英語圏は長期的な停滞を余儀なくされる。

 グローバリゼーションのなかでは、「『資本の反革命』によって先進国の賃金が抑制される」。高騰した先進国の賃金体系では、資本主義を維持・発展させることはできない。グローバル経済と結びついた企業や組織、そしてこれらとつながった個人は、成長と高賃金を約束される。それ以外のドメスティックな市場から利益をとろうとする過半数の企業と個人はこのままでは経済的成長はない。

「近代は国民に均質であることを要求したが、グローバル経済の時代には国家単位の均質性は消滅する運命にある」。日本国内でも、トヨタなどのグローバルな経済活動をする企業がある東海地方では全国平均の2倍の成長率が達成される。東京をのぞけば、ほかの地方都市の成長率はゼロ、またはマイナスになる。

 日々の生活と仕事に追われていると、「グローバル経済」という言葉はただの記号になってしまう。歴史と資本の流れを読み解くことで、いまの世界、そして未来の世界を予測することは可能である、と感じた。

 データの引用があって読みにくい面もあるが、年収、貯蓄残高などの分析を読んでいると、これから本格的な格差社会が到来することが容易に理解できる。中流階級の没落、生活保護の急増、という悲惨な事実が盛り込まれている。

 著者は、最後にこう書いている。

「今、もっとも認識しなければならないのは、ドン・キホーテがいった『事実は真実の敵である』ということである。16世紀以来の事実(インフレ〈成長〉がすべての怪我を治す)は、21世紀の真実(デフレの世紀)にとって妨げになるのである。あるいは、格差という事実が蓄積し、公平、平等という理想が埋もれてしまうのである。   (中略)

 当時、巨大な資本主義国オランダに見立てた風車に突進していったドン・キホーテの役割を日本が先陣を切って果たす時が来たのである。20世紀の成功体験を懐かしんでいる余裕などない」


 帝国の奴隷にならないために是非読んでほしい。

 
 著者の水野和夫氏のインタビューが動画配信されていたのでリンクを張っておく。



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