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2008年01月13日

『プライドワーク』今一生(春秋社)

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「自分に正直に働くための指南書」

 リストカット、援助交際という心にキズをもった若者の現実について取材執筆を続けてきた、今一生(こん・いっしょう)の最新作だ。

 自殺未遂をする若者への取材(を超えて、人生相談にのったり、自殺を止めるために奔走したりしている)にのめり込んでいたときの心境を、今一生はこう書いている。

「自分の財布だけを肥やす金儲けをしているより、切実な声に向き合って心を通い合わせるほうが、僕の命の使い道として正しい気がしたし、たかが自殺未遂を起こした程度でドン引きしてしまう世間に対して沸々とした怒りを感じ続けてきた。

 おまえら、みんな臆病者だ! 人並みの生活ばっかセコセコ追いやがって、隣人の苦しみにはノータッチかよ!」

 そんな思いで意地を張り続け、10年間が矢のように過ぎていった。(中略)

 僕自身は取材と金策に追われ、40代からの人生のビジョンを設計する余裕を失ってしまっていた。
(中略)

 「そうだ、自分のしたいことで周囲を幸せにしながら、飯を食っている人に会おう!」

 こうしてひとりのフリーのライター&編集者が、10年間のトラウマをもった人間との伴走取材に一区切りをつけ、ソーシャルベンチャー(社会起業)というテーマで起業家たちにその人生をインタビューしていく。
 
 私も同席した新宿のイベントで、今は「つきものが落ちたように」自殺未遂の当事者への取材の熱が冷めていったと語っていた。
 
 今は、次に「とりつく」対象として、ソーシャルベンチャーに照準を合わせた。起業家は熱い。自家発電することができる行動力、決断力のある人たちと出会うことで、魂の充電をしていった。

 今が取材した起業家たちは、以下の5団体・個人である。決して数は多くはない。

○16歳で起業し、29歳でグループ企業のCEOになった高卒女性・本部えりか
http://ameblo.jp/blonavi/
○その人に合った仕事を作る授乳服の製造・販売「モーハウス」代表・光畑由佳
http://www.mo-house.net/
○ニート支援のソーシャルベンチャー「コトバノアトリエ」代表・山本繁
http://www.kotolier.org/
○女性起業家を支援・育成する国際組織「WWB/ジャパン」代表・奥谷京子
http://www.p-alt.co.jp/wwb/
○ブログペット、Rabbit Tickerを開発、産総研にスカウトされた凄腕プログラマ・工藤友資

 起業家たちは、大企業に入社して正社員という選択をすれば、安定した収入につながる、自分のやりたいことができる、とは思わなかった人たちだ。それぞれ立派な仕事をしているので、それぞれの事業については、本書を読まれるか、その代表者がつくっているホームページをみることをおすすめする。

 実を言うと、私がもっとも強く力を感じた文章は、今一生のライフヒストリーが書かれた「第一章 もっと魂の込められる生き方を探したい 今一生(42歳 フリーライター)」だったのだ。

 今には、「自分語り」をする傾向が強い。客観的な取材者としての視座を保とうという気がさらさらない。こういう人間が、取材者という立場になると、話を聞くよりも、自分の気持ちを語る方に重心が傾くことになりがちだ。それぞれの起業家の体験を聞き取りながら、今はこういう言葉を差し込まないと気が済まない。

「42歳の僕にも、夢がある。 体力の衰えを考えると、スピードをあげなくちゃ。 君の夢は何?」 (第4章 「『母親はつまらない』っていう偏見を取っ払えるといいな」 杉山貴子さん(27歳 Mo-House スタッフ)

 「自分がたり」の第一章では、大学入学して直後に中退したこと、肉体労働のアルバイト、広告代理店でのコピーライター修行、フリーランスになって無署名記事を書き飛ばしていくうちに、空虚感にさいなまれるようになり、テレクラ依存症になり、サラ金からの借金で首が回らなくなってしまった、という赤裸々体験が展開されていく。

 20代で原稿料で年収600万円をとれるようになっても達成感はなかった。30代の自殺未遂者との取材では、相談に乗っているうちに時間という資源が奪われていく。さすがの今一生も、このままではいかん、と気づく。が、自殺未遂や鬱病の当事者たちへの熱い視線は消えていない。

 若い世代のフリーターやニートたちが、自分で稼ぐ力をもてないまま、精神病や自殺未遂に追いこまれていく現状を変えるためには、自分ひとりで当事者たちに伴走するのではなく、ソーシャルベンチャーという社会の仕組みを構築するべきだという結論に至る。

 前作『親より稼ぐネオニート』では、フリーター、ニートたちに「努力をすれば報われる」という自己責任を強く求める姿勢を感じた。ほとんどの人間が打ちのめされているなかで、ひとにぎりの幸運をつかんだ「モデル・マイノリティ」を紹介していると思ったのである。しかし本書では、起業家たちの人生をたどることで、小さな個人事業から出発して、多くのひとを巻き込み、社員を雇用して成長していくという、普通のビジネスが成立していくプロセスが表現されている。

 今も、本書で紹介された起業家たちも、ゼロからビジネスをつくる。ゼロが「1」になる瞬間がある。そのとき周囲は動き出す。顧客が集まってくる。その「1」をつくるのが起業家だ。そのプロセスは洗練されていない。ゼロから1をつくる作業は泥臭いものだ。だから、この本も泥臭い、そして暑苦しい。

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