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2008年01月13日

『戦慄〈上〉〈下〉』コーディ・マクファディン(ヴィレッジブックス)

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「運命と闘う人の顔は異形であっても不思議ではない」

 本書は、顔に大きな目立つキズのあるFBI捜査官,スモーキー・バレットが主人公のサスペンスである。前作『傷跡(〈上〉〈下〉)』の続編。著者のコーディ・マクファディンは前作でデビューしている。新人作家である。

 わたしにとって顔にアザやキズのある人間がと登場する小説を読むのはルーチーンであるべきだと思っている。仕事であるし、何よりも、そのような文芸作品の存在が気になるのだ。が、そんなに楽しい読書体験だとはいえない。悲劇が多いし、リアリティがないばかりからだ。
 顔にアザやキズのある当事者心理を多少なりとも知っている人間なので、リアリティがないとわかると読み進めることが困難になる。

(柳美里のデビュー作『石に泳ぐ魚』では、顔に腫瘍のある当事者がモデルとして描かれていた。これを読んだとき、現実の当事者と合って話をしながらも、描写力、分析力が乏しくて途中で読み進めることがしんどくなったことを思い出す。あれは「裁判資料」でしかなかった)

 おそらく、この作品は映画化されるだろう。映画化が前提で書かれたものかもしれない。登場人物が映像化しやすいように設定されているからだ。漫画的ともいえるだろう。

 主人公のスモーキーは、前作『傷跡』で、猟奇殺人者に自宅を襲われ、スモーキーの左顔面にナイフをつきたられながらレイプされた。そして、スモーキーの目前で、犯人に拘束された夫は、無惨に殺害された。すきをみて拳銃で犯人を射殺しようとした瞬間、犯人は一人娘を抱え寄せた。母スモーキーは娘を射殺。ショックのなか、拳銃の弾丸をすべて犯人に打ち込んで射殺した。ひとり生き残ったスモーキーは、休暇をとった。精神科で治療を受けた。そのさなか、スモーキーの友人をターゲットにした連続殺人事件が発生し、現場復帰をすることになる。これが前作である。

 今回は、一家惨殺事件で生き残った16歳の少女が、スモーキーとの話し合いを要求するシーンから始まる。その少女もスモーキーのように、最愛の人を猟奇殺人によって何もかも奪われていた。心に癒しがたいキズをもっていた。

 著者のコーディの経歴によれば、ドラッグ問題のカウンセリングなどの社会奉仕事業の経験があるという。そのためだろう、苦悩する当事者の心理描写には説得力がある。

 わたしはFBI捜査官がどんなプレッシャーを感じながら働いているか、という知識はない。が、現場で、被害者の遺体を凝視し、証拠固めをし、犯人の行動と心理を追いかけていくうちに「普通の生活」に戻ることができなくなる、というのはわかるような気がする。ストレスと苦悩から、引退する捜査官、はては自分の頭に拳銃をあてて自殺する刑事のエピソードがさりげなく挿入されている。

 スモーキーのキズのある顔をみつめる第3者の冷たくも好奇心にあふれた反応についての描写はうまい。その顔をみても動じない人間は、(病気や運命)と闘ってきた者であるということも頷ける。

 上下巻の読破に費やした時間は4時間だった。その価値があるサスペンスだ。顔に痣のある男が保証する。

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