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2008年01月26日

『虚妄の成果主義』高橋伸夫(日経BP)

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「成果主義が組織を壊すまえに」

 このコーナーで取り上げた書籍は、格差社会を問題にしたものばかりになった。サブプライム問題による株価の下落、資源争奪戦のなかで発生した原油価格高騰による物価上昇、年金制度の崩壊、そして近い将来確実になった消費税率のアップ。このような急激な経済環境の変化のなか、企業、そしてサラリーマンはどうなるのか。
 成果に応じた賃金制度。成果主義がもてはやされたことがあった。いまも成果主義を信奉している人もいる。  大企業でその成果主義が失敗していたということはそこかしこに聞かれていた。そんななか、城繁幸氏の著作『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』が2004年に出版されてベストセラーになった。  同じ時期に出版されたのが本書『虚妄の成果主義』である。初版は2004年11月。私の手元にあるのは05年2月の12版。08年になった今はもっと版を重ねていると思う。ロングセラーにふさわしい内容の書籍である。

 私はフリーランスで仕事をしてきた。シンプルに成果主義である。しかし、この成果主義を続けていくのはたいへんだ。営業、製造、販売、売り上げ管理、こういった煩雑なことをすべて自分でやらなければならない。だからサラリーマン社会に成果主義が導入されるという風潮になったとき、私はこれをよいことだと思った。
 ギャラは能力に応じて支払われるべきである。
 と、考えていたからである。
 その評価をする経営者とは冷徹でなければならない、とおもっていた。しかし、ライターとして社長のインタビューをしていると、尊敬すべき人が多い。社員の能力の有無に関係なく人柄、働きぶりなどを評価して、社員と楽しそうに働いている。
 これは私の認識が間違っている。何がどう間違っているのだろう。整理ができない。大きな違和感はたしかにある。この違和感に正面から向き合うために本書を選んだ。
 
 著者の高橋伸夫氏は、成果主義のもたらす違和感をあますことなく書き、批判する。講演資料がもとになっているためだろう、読みやすい。

「成果主義を導入、評価が始まってみると、皆一様独特な違和感に襲われるからなのだ。客観的な手続き通りに評価うしてみると一番成果を上げたことになる人間が、実は社内評価のあまり高くない人間だったりするのである。あんなヤツを取り立てるために、成果主義を導入したのかと怒る人も出てくる始末である」

 どういう経営者が成果主義に走るのだろうか。


「経済的苦境に遭遇すると、すぐに『切る論理』に走る」人たちのことである。「彼らは、一時しのぎの、本来してはならない資源の削減や圧縮を繰り返すのだ。その結果、終身コミットメントを壊してしまった後に残る殺伐とした風景のみが広がり、もはや共存共栄は存在しえない」

 会社にはさまざまな人がいる。ときに失敗することもあるだろうし、プロジェクトの足をひっぱるような裏切り行為をする者もいる。しかし、このとき組織のリーダーは何を選択するべきか。いや、組織ではなく、人として何を選択するべきか。

「現在の目先の利益や過去の裏切りの復讐をしてはいけない。これからの将来の協調関係をこそ選択するべきである」

 成果主義とは、目先の利益をとるキリギリス的な生き方のことだ。これはイソップのアリとキリギリスの寓話と同じ構造である。長期的にみれば、アリのほうが生き残る可能性が高い。一人で生きると決めているフリーランスならば、キリギリスでもよいだろうが、組織という有機的な集合体のもつ、重要なミッションの一つは「持続力」である。

 人と人がつながるときの持続力の源泉は、未来を構築する力だ。それは経営者のリーダーシップに依存する。

「企業が危機に直面し、組織の内部までもが混乱の極みに達しようとするまさにその時、経営者が毅然として進むべき道を示さなければ、組織は崩壊に至るであろう。そんなときに、激変する外部環境への適応だけを追い求めて右往左往するのは愚の骨頂である。経営者が揺らぐなど愚の骨頂なのだ」
   揺らいでいる経営者、そして崩壊の危機に瀕している組織で働く人は、是非読んでほしい。

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