« 2007年07月 | メイン | 2007年10月 »

2007年09月29日

『少子社会日本』山田昌弘(岩波書店)

少子社会日本 →bookwebで購入

「開国した都市に少子化問題はない」

 結婚、そして恋愛が経済状況と密接に関係しているということを説得力のある論理構成で世に問うた名著『結婚の社会学』http://www.arsvi.com/b1990/9608ym.htm がある。その山田昌弘による今年4月に刊行された新刊である。

 ユニークフェイス問題という、逸脱した外見を持って生きている人の社会生活について調査執筆をしていると、「普通の外見」をした人たちとの比較検討をしなければならなくなる。私の観察によれば、ユニークフェイスな人たちは対人コミュニケーション能力が乏しく、友人を作ることが下手であり、恋愛ができず、結婚もできていない人が多い。そんなことは学問的に調査研究をしなくても、自明だと思うのだが、こういうことを公開の場で説得力を持って語るためにはデータが必要である。しかし、ユニークフェイスについてそのような研究データはまだない。 そこで、普通の人たちの外見意識がどうなっているのかを考えるようになり、『肉体不平等』や『自分の顔が許せない!』、そして『「見た目」依存の時代』という著作を世に送り出すことができるようになった。外見・容姿によってその人の経済的価値を見積もることにためらいがなくなった現代人の貧困な精神の一端をかいま見ることができ、知的興奮を覚えたものである。

 ここまでは、私の個人的な関心事である。

 山田昌弘は、本書のなかで、その先にある人間行動を見せてくれた。

 人間存在を、外見、金銭、健康、という価値によって見積もることにためらいのなくなった現代人はどこに向かって走っているのか。

 未婚・非婚・少子化という、隘路に向かっているのである。

 結婚は経済的な営みの一つである。

 私の周りでは、稼ぎが悪い、という理由で一方的に離婚された男性の友人がいる。結婚したいという女性に本音を聞けば、できるだけ稼ぎのいい男と結婚してラクをしたい、と言うので「そういう男に選ばれるような努力をしているのか?」と問うと、自信なさそうにうつむくだけだ。

 そういう当たり前のことを、山田は社会学の視点で調査してくれた。当たり前のことほど、データをもとにした精緻な議論が必要なのだ。

「女は稼ぎのいい男としか結婚する気はない!」と私が言っても、女性からは「すごく貧乏な男性と結婚した友人がいる。とても幸せそうだ」というたぐいの良識的な反論が返ってきたりする。

 愛には経済活動を凌駕する偉大な価値がある、という幻想。

 このような幻想を信じている人は幸いである。現実を直視することをしなくてよいのだから。いつかは幸福な結婚ができるだろう、という時間稼ぎができるのだから。

 結婚を機会につまらない仕事を辞めて経済的な安定を求め、子どもを産みたい、というごくありふれた希望を語り始める前の、長い長い儀式としての建前トーク。この建前が現代人の「結婚の条件」を見えにくくしてきたのだ。

 未婚と非婚が増えて少子化になった理由は何か。

 ニューエコノミーの浸透によって、収入の不安定な男性労働者が増加したこと。そして、適齢期の女性たちの約半数が非正規雇用というパートやアルバイトに従事し、不安定な経済状況の男を結婚相手に選択しなくなった。若くて未熟な労働者はみな収入は低いものだが、経済成長が見込めない以上、いま貧乏な男は将来も貧乏なのだと女は考えるのである。

 大学教育の大衆化によって、結婚後の目標とする生活水準が高くなり、それを実現する男が登場するまでは「待つ」と決めて、30歳過ぎてもずっと待ち続けている女性のなんと多いことよ。男は、結婚生活に高望みする女達の言動が変わらぬことにいらだち、いちど正社員になれないと二度とまともな収入の職には就けないのだ、ということを思い知らされる毎日。こうして、経済格差によって、結婚の壁はますます高くなっていく。少子化が急激に進むわけである。

 少子社会への処方箋を山田は提示している。

 (1)すべての若者に、希望がもてる職につけ、将来にわたって安定した収入が得られる見通しを与えること、(2)どんな経済状況の親の元に生まれても、子どもが一定水準の教育が受けられ、大人になることを保証すること。(3)格差社会に対応した男女共同参画を進めること。(4)若者にコミュニケーション力をつける機会を提供すること。

 詳細は本書にあたってもらうしかないが、山田の処方箋が実現するためには政治の力が必要になる。いまの日本の政治状況に希望はない。よって、少子対策にも希望はない。しかし、「少子社会日本」を読めば、なぜこんなに独身の男女が溢れているのか。経済的安定を提供する装置としての結婚制度が破綻していることが理解できる。それは希望であると思う。

 日本人が、結婚をするべきかしないべきかと悩んでいるのは国民病なのかもしれない、とも思う。

 いま私は静岡県浜松市に住んでいる。ここには経済的な幸福を求めて海を越えてきたブラジル人が3万人(市民25人に1人が外国人。全国の都市のなかで最多の外国人がいる)も住んでおり、肉体労働で汗を流し、子どもを産み、クルマと家を買っている。ニューカマーはたくましい。

 ブラジル人家族で溢れる浜松市内のファミレスで読む「少子社会日本」は、東京で読んだときは別の読後感を与えてくれた。開国した都市に、少子化問題はない。



→bookwebで購入

2007年09月18日

『マンガを読んで小説家になろう!』大内明日香・若桜木虔(アスペクト)

マンガを読んで小説家になろう! →bookwebで購入

「小説を書き続ければ、小説家になれるんです」

 小説を書きもしないのに、「小説作法」や「小説の書き方」を論じた本をつい読んでしまう。
そんな癖をもっている人にとって、本書は見のがすことができない本である。「また、同じような本が出ているのか。じゃあ、読んでみるかな」というノリで買ってほしい。小説を書きもしないのに、小説の書き方が気になる人は、そういう斜に構えた感じが似合う、と思うのである。

 ストーリーを作るとき、マンガを参考にするとよい、ということは、自らマンガ原作もする評論家の大塚英志氏が「物語の体操」とか「キャラクター小説の作り方」という一連の著作でしつこいほど解説してきた。(わたしがこの春まで非常勤講師をしていた日本ジャーナリスト専門学校に大塚氏が特別講義をしにきたときは、学生といっしょに講義を聴いたこともある)。

 面白い小説にはパターンがある。そのノウハウを身につければ、面白い小説を書くことができるはずである。

 出版評論家の大内明日香と、現役の小説家、若桜木虔が、小説業界の内幕を身も蓋もない軽妙な文章で、スパスパ書いている。読んでいて気持ちがよい。

 この本が買うに値する点は、まず第一に小説を取り巻く経済状況を正直に書いていること。印税の相場は10%だったが、8%とか6%の出版社があるということ、なかには1%印税もあるとまで書いている。

 わたしが小説を書くことに興味をもったとき、芥川賞作家の丸山健二が、原稿料の安さをエッセイのなかで嘆いていたのを読んで、「そんなに安いはずがない。きっと何か裏があるはずだ」と思ったのだが、出版業界の末席にいてわかったことは、本当に小説は売れていない、という事実であった。(出版業界ってギャラの話を口にしないという商習慣があるので、本当に小説は売れていないんだ!と納得するまでに時間がかかるんですよ)

 「そんなに割にあわないことのために、多大な時間を費やすのはバカらしい」そう思った人は、小説家にはなれないし、ならないほうがいい。

 それでも、この2人は読者に小説家になることを勧めている。二人とも小説を愛しているからである。

 一定のルールに従って、学習とトレーニングをすれば、売れる小説が書けるようになると徹頭徹尾励ましているのだ。しかもご丁寧に小説家を育てられないアホ編集者のタイプまでしっかり書いてあるので、そのかゆいところに手が届く姿勢には敬服する。

 この本の最後にはシンプルなことが書かれてある。

「大丈夫です。
 小説を書き続ければ、小説家になれるんです」

 あぁ、いまからでも遅くはない。小説を書こう! 
 と思わせるパワーのある本である。


→bookwebで購入