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2007年06月01日

『新聞社-破綻したビジネスモデル』河内孝(新潮社)

新聞社 破綻したビジネスモデル →bookwebで購入

●毎日新聞はなぜ破綻していないのか?

新聞を定期購読しなくなって、3年ほどたつ。何度か定期購読をしては辞めた経験がある。

大学卒業後に初めて定期購読した新聞は朝日新聞だった。人権とか環境保護とか、不正に怒っているような論調に好感をもったことと、ジャーナリズムに興味をもっている若い学生のほとんどが「朝日では・・・・と書かれていた。だから・・・」というような会話がなされていたからである。ふむふむ、と内容はよくわからないけれど読んでいた。いまから19年前、昭和天皇が死んだ。天皇崩御を伝える朝日を読んで、定期購読を辞めた。反天皇的な言説をにおわせていた朝日が、昭和天皇が死んだときは、読売新聞との違いがわからないほど、つまらない紙面をつくっていたからだ。上京してから、毎日新聞、読売新聞をそれぞれ3ヶ月定期購読した。メディアの仕事をしている手前、何か一紙とっておく必要があると思ったからである。結局、朝日に落ち着いた。理由をあえてあげれば、他紙よりも、書評欄が充実していること、個人的に朝日新聞記者の取材をよく受けるようになったから。

そのうち、ブロードバンド回線を利用するようになって新聞を辞めた。定期購読を辞めることを決めた直接のきっかけは、2004年のイラク人質事件報道だった。朝日新聞の記事は、明らかに外務省筋のリーク情報をもとに、人質にされた若者3人の批判を展開していた。たしかにこの3人のセキュリティ意識は低かったろう。しかし、それを大新聞が批判してしまっていいものか。ネットで人格攻撃も含めて徹底批判されているのだから新聞が便乗しなくてもいいと思った。その後、反戦活動家とフリーランスジャーナリストの男性2名が人質になって解放されたときは、この2名への新聞からの批判はほとんどなかったことにも納得できなかった。

私の周りでも、新聞は読まれていない。「・・・新聞ではこう書かれていたよね」という会話はなくなった。もし、そういう会話になったときは「新聞とっていない。それどういうニュース?」と聞けばよい。新聞記事を読むよりも、その人の語りのほうがおもしろいことが多い。人に語りたくなるニュースには力がある。それは当たってみる価値がありそうだ。

長い導入になってしまった。新聞はわざわざ定期購読するような価値ある商品とはいえない、ということだ。情報の質と価格が見合っていない。

     *

この新書『新聞社』の副題は「破綻したビジネスモデル」。新聞経営のビジネスモデルが既に破綻していることが詳細に述べられている。書き手は元毎日新聞の常務取締役。毎日新聞の経営改革を試みたが、社内で大きな反発を受けて、退社してこの本を書いたという。この本に書かれているようなことは、
フリーランスジャーナリストの黒薮哲哉氏、そして
MyNewsJapanマスコミえっ?まだ新聞、定価で読んでるんですか?
が息長く報道しているので、内容的に新しい情報はとくにないけれど、毎日新聞の内情を知った当事者が、新書という普及しやすい形で発表したことに大きな意義があると思う。

気になったことは、毎日新聞で働いている普通の記者たちが、いまの新聞経営の破綻をどのように考えているのか、という情報が盛り込まれていない点だ。この点で、この本には当事者が書いたメリットを最大限生かそうという貪欲さが欠けている。

著者は、この本の中で、中日新聞、産経新聞、毎日新聞の3社が業務提携をして、読売、朝日につぐ第3極をつくる、という改革構想を提言している。3社を足すと1000万部の勢力になるという。これは、巨額の不良債権によって経営が行き詰まった銀行が、吸収合併と人員整理によって生き延びていった方法と同じ。経営破綻はしたけれど市場から退場する気はないし、シェアも失いたくない、という往生際の悪さが出ている。

東海地方で絶大な力をもつ中日新聞が、赤字媒体を吸収してもよい、と納得できる土産があるのか、という疑問もある。1000万部あれば、広告収入が大いに見込めるという目算もあるのだろうが、紙の新聞を毎日読むという習慣そのものがなくなりつつあるので現実味を感じない。

     *

私なら、新聞改革のためにこう考える。

官公庁発表記事だけを載せる「日官紙」(日刊紙ではない)を創刊する(大企業の発表モノを載せる媒体としては、日経があるので新創刊は不要だろう)。記者クラブがその記事執筆を全面的に引き受ける。プレスリリースのリライトは大学生のバイト(インターン)にやってもらう。夜討ち朝駆けは原則としてやらない。「ひと」欄には、天下りした官僚が楽しいセカンドライフを送っていることを紹介する。有能な記者の養成をする教育コストは不要と割り切る。発表モノの商品化に特化して、コストのかかる調査報道は一切しない。
他紙はこの「日官紙」と誌面で競争する。今の新聞は中途半端に「日官紙」になっているから、購読意欲がわかないのだと思う。

それにしても毎日新聞の経営危機は深刻である。なぜ破綻していないのか? その自己分析も書いて欲しかった。

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