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2014年07月30日

『ファストファッションークローゼットの中の憂鬱』クライン,エリザベス・L【著】鈴木 素子【訳】(春秋社)

ファストファッションークローゼットの中の憂鬱 →紀伊國屋ウェブストアで購入

ここ10年あまりのあいだにファッション業界を席巻したファストファッションブランド店や、ディスカウントストアばかりで買い物をしつづけ、気がつけば、クローゼットの中の服の平均価格が30ドルほどだったという著者。不景気のご時世、着るものにお金はかけられないといいながら、大量に作ってどんどん買わせるというグローバルファッションチェーンの術中にすっかりはまり、安い服をつぎつぎと買ってしまうという魔の消費サイクルに陥っていたのだ。

服の山のかこまれてはいるが、とくにおしゃれでも、流行に敏感でもなく、ファッションに関する知識も乏しい。そう自分を規定する著者は、「安価な服への手に負えない欲求」を克服せんと一念発起、「探求の旅」へと乗り出す。着ることをめぐる世界にいま、何が起きているのだろうか?

格安ファッション店で買った服のレビューをYouTubeに投稿する人気ホーラー(〝haul〟は買い漁るという意味で、自分のお買い物を披露してみせる動画をホール・ビデオというのだそう)。一方、人気ドラマ「ゴシップガール」で登場人物が身につけている高級ブランド品をリストアップするブログを持つブランドマニアもいる。ファストファッション隆盛のなか、消費者は格安志向と高級志向に二極化しているらしい。

社会的に認められている慈善団体などへの寄付が所得税の控除対象になるため、アメリカでは不要になった衣服の多くが救世軍やグッドウィルに持ち込まれる。著者が取材したクインシーストリートの救世軍では3日に一度、寄付される服のうち18トンが廃棄処分となり、その行き先である繊維再生業者は、古着屋の質がどんどん低くなっていることを嘆く。

アメリカのナイツアパレルというメーカーが経営する、ドミニカ共和国の縫製工場アルタ・グラシアでは、労働者に最低賃金のおよそ3.5倍の〝生活賃金〟が支払われ、労働組合もあるというが、これは例外中の例外。服が縫われるのにいくらかかっているかをしりたいなら、タグに書いてある生産国の最低賃金を調べればわかると著者は書く。

服飾工場が4万以上、従業員数は1500万人という中国。生産業の一大拠点である広東省広州では、世界中のアパレル企業の注文をこなすため、縫製工場はどこもフル稼働。しかし、経済の発展により中国では賃金があがり、企業はより安価な労働力をもとめてカンボジア、ベトナム、インド、バングラデシュに生産を移転しているという。

そこで思い出されるのは、昨年のダッカ郊外の縫製工場の崩落事故。ミシンと発電機の振動でビルが崩れるなんて、とその時は信じられない思いだったが、著者がバングラデシュを取材した章には、工場の古さやインフラの不備、火災た死亡事故の多さが指摘され、停電が頻繁にあるので「発電機が始動する音が、もはや首都の生活のBGMになっている」とある(本書の刊行は2012年で、この「服飾業界史上最悪の惨事」については「あとがき ペーパーバック版原書によせて」で触れられている)。

このようにして読者は、二十年前だったらあり得ないような値段でそこそこおしゃれな服が買える、その裏に潜むカラクリを暴きだしてゆく。締めくくりはといえば、いまや最もおしゃれとされるエシカルファッションを担うデザイナーやブティックが登場、ファッションの今後のありかたが提案される。

これまでは、環境にやさしい素材や正当な労働条件に配慮した服というと、どうしてもナチュラル系になってしまっていたが、最近ではそうでないテイストの服も増えてきた。手作りやリフォームもますます盛んになるだろうし、デザインから縫製までを個人でする小さなブランドはこれからもっと増えていきそうだ。私が知っているエシカルファッションの実践者は、常識的な値段の質のいい古着を、自分のサイズに仕立て直して着ている。

著者はというと、ミシンを買い、生まれてはじめてのソーイングに挑戦する。裾上げやサイズ調整もはじめてというのには正直呆れたが、靴を修理に出したり、着られなくなった服はきちんと手入れして寄付したり、エシカルファッションのデザイナーの服を買ったりと、彼女の衣服生活は変化した。エシカルファッションの取り組みもさまざまに紹介されているが、何よりひとりひとりが、着ることに関してどのように振舞ってきたかを省みることなんだろう。まずはタンスの中身の点検から。本書を読み終えたら、だれもがきっとそうしたくなると思う。


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