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2008年09月08日

『草食系男子の恋愛学』 森岡正博(メディアファクトリー)

草食系男子の恋愛学 →bookwebで購入

「暗い青春を送るあなたのために」


生命学の提唱者である森岡さんの著書をいくつか立て続けに読んだのは確か2000年ごろだったが、私は森岡さんが挑むのは生命倫理ではなくて、生命の哲学なのだとわかって嬉しかった。それは生命の良し悪しを論じるのではなくて、もっと身近に生命を感じるための領域の準備のような気がした。既存の学問より身近に感じたが、先生はひとり学際だという。だからなのか、どこか孤独な感じ、自分勝手な感じもした。 「自分を棚上げしない」という森岡さんの探求には、痛々しくみえるところがある。自虐的な感じもある。そこまであからさまにしなくてもというほど・・。それでも、そのような人だとわかると、かえって苛めたくなり、『無痛文明論』の酷評を書いて、自分のHPに貼り付けたりした。まだあの頃は(ここもそうだけれども)、公共の広場みたいな処で大胆なことはしていなかったが、「先生をピンヒールで踏みたい」と書いた。すると驚くべきことに、森岡さんのサイト、Life Studiesの管理人がそれを見つけて、逆リンクされていたりして、非常に焦った。しかしまたその批評が面白いと某編集者に褒められたこともあって、そのままにしていたら、今度は立岩先生に「そんなことをしてはいけません」と、お行儀の悪さを叱られた。まあ、とにかく一時あこがれていた森岡さんと、こうしてお知り合いになることができたのだから、大人になってからの大学院進学も、いろんな意味と使い方があるものだ、と思ったりもした。

 そのうち、私の通っている大学院にも、生命学と似て非なる生存学という領域ができた。そして一昨年から、森岡生命学VS立岩生存学の研究会を二回ほどやり、その世話人もさせていただいたりもして、その時、直に本書の企画も教えていただいた。私は生命学とモテと、いったいどうつながるのだろうと訝ったのだが、それでもきっと、先生ご自身の体験から何かを書かれるだろうし、きっとそれも痛々しいくらい身の丈に書かれるのだろう。それなら森岡さんのヰタ・セクスアリスが書かれるに違いないと思ったりもした。

 初稿から見せていただき、自由に意見を言わせていただいた。オンナの言葉に耳を傾けろとは本書の中で何度も繰り返されるモテの秘訣であるから。それも無差別ではなく、たった一人の女性に集中して。先生も実践されているのだなと少し期待してみたが、先生は私には相変わらずの痛がり屋を目指していて、「何でも、辛らつでもいいのでどんどん言ってください」とだけおっしゃる。それでかえってどのように批判したらよいのか、迷ったり難しかったりもした。
 私が気になった箇所は、ある部分は改稿され、残された部分もたくさんある。この本がグリーンの背景に見るからに気弱そうな男子が佇んでいるイラストで「決めてくるまで」は、全体がどのようにまとまるのかに大変に興味があった。だから一冊の本が完成するプロセスのほうが、若者のモテのプロセスよりも私の興味をソソッタのだ。
 しばらくして、ここのブログを更新しようとしたら、居間に置いたはずの本書がなくなっていて、屋探ししていたら限りなく男子に近い生物学上女子の長女の部屋から発見された。20歳の長女はさかんに「なるほど」と頷いて、女友達のAちゃんの不可解な言動になぞらえて「そうそう、こういう反応するんだよな」などと言っていた。確かにAちゃんは本書に出てくるような女子である。
 また実用的なこの本はセックスの作法についても具体的な表現で丁寧に噛み砕くように解説していて、ここなどは間違いだらけの大人の男にぜひ読んで欲しいと願うのだが、ではどうやって著者はこのような深度で女体をリサーチできたのかが、私には気にかかる。まあそれも、もしかしたらあと何年か経ったら、40代後半の氏に向けて、未来の森岡氏がまた一冊、本を書かれるかもしれない。
 本書に通底する優しさ(易しさ)からもわかるように、森岡さんが想定した読者は若き日のご自身なのだろう。そしてまた、草食系男子に愛される女子も古風なタイプで、悪く言えばけっこうステレオタイプではある。こうなると、次に比較してみたいのは、肉食系だとも思われるのだが、そういえば従来の恋愛ハウツー本は、ほぼ「肉食系」男女というか恋愛以外にも狩猟的で積極的な人のために書かれた本であったことから、本書が書かれたのであった。引きこもりがちで、自信がもてない、今はまだ暗い青春を送る若い人たちのために。価格も手ごろな千円だし。


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