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2009年09月27日

『脳科学の真実――脳研究者は何を考えているか』坂井克之(河出書房新社)

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「河出ブックス」の創刊ラインナップ紹介、5点目は坂井克之さんの『脳科学の真実――脳研究者は何を考えているか』です。

坂井さんは、東京大学大学院医学系研究科准教授。専攻は認知神経科学。ヒトの心の働きの脳内メカニズムを脳画像を用いて研究されています。

近年すっかりお茶の間に浸透した観のある「脳科学」。そのブームに潜む危うさに、第一線の脳研究者が迫ります。しかし、単にあら探しをするのではなく、脳研究の現状をフェアに見つめている点が読みどころです。

坂井さんから読者のみなさんへのメッセージです。

「最近、同じ業界の人たちによく言われるんです。『今、巷であやしい脳科学がいっぱい出回ってるよね。黙って見てるだけでいいの?』
これに対して『もうすぐ本を出すから待ってて』と私が言い続けてきた本がこちらです。これは脳研究の現場にいる人間として、今、書かなければいけない本なのです。皆さんが今、読まなければいけない、とは申しません。でも読んでくださるとうれしいです。」

目次(章タイトル)は以下のとおりです。

はじめに メジャー化した脳科学
第一章 脳科学ブームの立役者
第二章 未来技術としての読脳術
第三章 リアリティーのある研究成果
第四章 脳科学のレトリック
第五章 研究者のダークサイド
第六章 ちいさなマニフェスト
あとがき
 
「お茶の間の脳科学」と「脳研究の現場」とのあいだの、近くて遠い距離感がよくわかる一冊です。

*****

坂井克之の、「この〈選書〉がすごい!」

①伊藤正男『脳の設計図』自然選書(中央公論社)1980年 
私が大学生のときに何度も繰り返して読んだ本です。ずいぶん前に出されたものですし、内容も選書というよりは専門書に近いものです。専門外の人にはとっつきにくいように感じられるかもしれません。でも、この本を読んでいたころ、私は脳に多少の興味を持ってはいましたが、将来は外科医になろうと思っていました。この意味では当時の私にとっても専門外の本だったわけです。それでも腰をすえて読み進めると、途中で本を置くことができなくなってしまいました。今、試しに読み返してみると、また途中で本を置くことができなくなってしまいました。おかげで事務書類の提出が間に合わなくなりそうです。どうしてくれる! 最近の脳研究の発展により(この過程で伊藤先生の超人的な努力があったわけですが)、この本が書かれた当時に比べてはるかに多くのことがわかってきています。それでもなお、強力な磁力を持っている本です。脳の仕組みについてわかっている事実を、いたずらに誇張することなく淡々と、しかし堅牢な論理で積み重ねてゆくことの凄み、この本はそれを感じさせてくれます。

②杉山直『宇宙 その始まりから終わりへ』朝日選書、2003年
暗黒物質、暗黒エネルギー。SFの世界のようなこれらの用語が、現在の宇宙物理学の最先端のホットトピックであることを、杉山さんに教えてもらいました。E=mc2、ニュートリノ、超ひも理論といった言葉は聞いたことがあるものの、それについて書かれた解説を読んでもすぐになんのことやらわからなくなり、途方にくれてしまうのがしばしばでした。でも杉山さんのこの本にはついてゆけます。宇宙のはじまり、宇宙の果て、宇宙の構造といったテーマについての杉山さんの語りは、バッハのバイオリン・ソナタのように緩急に富んだ心地よさを感じさせるとともに、ぐいぐい読む者を引き込んでゆきます。ふと気づくと10のマイナス25乗秒から137億年までの世界、そして10のマイナス15乗ミリメートルから4000万光年までの世界へ旅しているのです。わかりやすい本とは言葉遣いの平易さではなく、読む人の身になって書くという心遣いによるものだと私は思います。この本は選書としてのあるべき姿を見せてくれます。


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